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第1話「朝型の俺は夜更かしの邪魔だったようです」

「バリー、クビ」


「…………は?」



 パーティーメンバーから部屋に呼び出され、あまりにも突然の解雇通知が言い渡されたのは、もう一か月も前のことだ。


 俺の名前と不名誉な単語のたった二つが陳列されたあまりにも軽すぎる言葉の刃は、俺の心の深くにズブッと刺さった。



「ちょ……ちょっと待てよ。ははは、冗談が過ぎるぞ。胃が痛くなるからそういうのはやめてくれよ。……で、ほんとの要件は?」


「荷物をまとめてここから出ていけ」


「…………うーん。あんまそのボケは面白くないから、やめた方がい……い…………ぜ?」



 冗長に振舞いながらも恐る恐る周りの様子を窺うと、同室にいる二人の女子は俺にゴミを見る目を向けていて、俺は笑顔を崩しながら言葉の勢いを失った。


 目の前に座っていて、俺に今しがた解雇を通告したパーティーリーダーのタローとは、このパーティー結成当初からとても仲が良かった。

 夜通し一緒にパーティー名を考えたり、ギルドの温泉では酒を酌み交わしたり、たまに二人っきりでダンジョンに潜ったりした。

 最高の親友だと思っていたのに。


 その両隣で俺に侮蔑の眼差しを向けている二人の女子――カレンとカノンだってそうだ。

 一緒に買い物に行ったり、探索の途中で談笑しながら昼食を摂ったり、酒場では酔った勢いではあるが一緒に歌を歌ったりした。

 良き友になれたと思っていたのに。



「いやいや、なんで? 昨日までそんな素振りまったく――」


「――はぁ」



 俺の問いに、放たれたのは短い溜息。

 そこまでしないといけないのか? 早く出て行ってくれないかな? という気持ちは容易に汲み取ることができた。


「あんた、自分で自分の弱点わかってないのマジ? あんだけ足引っ張っといてちょっとあり得ないんですケド~」

「ほんと。あなたのせいで私たちのダンジョン攻略がどれだけ滞っていたのか。自覚してないなんて……」

「おいおい、お前らまでなんだよ。俺頑張ってただろ? 最初は前衛希望だったのにお前らの要望に沿って剣士から支援術士に転職までしたんだぜ? 最初は心許なかったかもしれねえけど、マジで頑張って今ではヒーラーに関してはS級だし、他の支援魔法に関してもこの国では指折りなんだぜ? 今の俺にこれ以上何を求めるってんだよ!」


 俺が不服の限りを三人に投げかけると、彼らはますます視線の蔑むのを強めた。


「俺たち『夜更かし小隊』が今何級のパーティーか知ってるか?」

「……A級」

「そう! A級だよ! これはおかしくないか? 一流剣士の僕と、一流魔導士のカレン、喧嘩最強のカノンの三人が一堂に介して未だにこのパーティーがA級なのはなぜだ?!」

「それは、お前が突っ込みすぎるから――」

「違う! お前のカバーがゴミカスなんだよ! 回復は追いつかねえし、支援も甘いし、一人だけ遅いし、足引っ張ってばかりじゃないか!」

「それは、お前がカバーの届かない範囲に勝手に突撃するからさぁ」

「黙れ! 自分のミスに言い訳を重ねるな! 見苦しい、腹が立つ!」

「いや……いやいやいや、ははっ」


 俺は、あまりの話の通じなさと客観性のなさに、憤りを通り越して思わず呆れ笑いを溢してしまった。


「何を笑っているんだ? まあ、お前みたいな無能には自分の短所が理解できんだろうから、もうこれ以上説明してやる義理はない」


 俺はもうタローの話を真面目に聞くのはやめることにした。全部ブーメランだ。これ以上の議論は平行線が続くばかりで、何の意味もない。

 しかし、聞き流すだけでもして出て行けと言われるまで最後まで居てやろうかと思った俺の心は、次の一言で木っ端微塵になった。


「まあ、いちばんお前が無能なところは朝型ってところだがな。これがお前をクビにした最たる理由だよ」

「――――は? ……え? …………え?」


 一瞬、言われた言葉の意味が分からなかった。

 あまりにも一昨日の方角から流星の勢いで殴り掛かってきた「朝型」の一単語に、俺の心の臓はいともたやすく貫かれた。


「僕たちは『夜更かし小隊』だ。メインの活動時間帯は本来深夜を予定していた。僕たち三人は全員夜型だからな」

「でも、あとから入ってきたあなたはなんと朝型だったんですよ。おかげで、私たちは活動時間を当初の予定よりずらす羽目になりました」

「しばらく様子見て使えそうなら妥協してやろうかと思ってたんだケド、もう限界! あんたは大した能力もないし何から何までアタシたちの足引っ張ってんの!」


 もう、言葉が出てこなかった。

 頭が真っ白になって、もう喋る気力も目を合わせる気力も蒸発してしまった。

 俺は三人に背を向け、よろよろと部屋を出た。思考が薄れゆく中で背中に「早く出てけー」と罵詈雑言を浴びせられたのだけが耳に届いていた。心には届いていないが。


 気が付けば、俺は宿をとって着替えもせずベッドにうつぶせになり枕に顔を埋めていた。

 タローたちの言葉が、絶え間なく頭の中を駆け回っている。

 いくら無になろうともその言葉は頭から離れず、仲間を失い、定かな住処も失い、努力の積み重ねで得た自信も失った。


 何をするにも気力が湧かない。


 宿主は、なにか察しているのか追加料金を請いに来ることはない。

 俺は、その状況に甘んじて、最低限の飲食と排泄を繰り返しあとは寝ているだけの廃人同然の生活を送り始めた。


 時はあっという間に過ぎて一か月が経ち、俺は少しずつ正気を戻しつつあった。


 食には彩りが生まれ、ベッドから起き上がる時間が増え、読書をするようになり、これからのことについて考えるようにもなった。



「これから、どうすっかな」


 その答えが出るのは、案外近い未来のことである。

初めましての方は初めまして!

追放系書くの初めてですので、至らないところあるかもしれませんが最後までお付き合いいただけると嬉しいです!

年内には完結させたい所存


今後の展開が気になる方いましたら、ポイント評価やブックマーク登録の方よろしくお願いいたします!

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