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老害追放――新しい国に老害は不要だと放逐された老人たちの建国記。ときどき、若返った国の崩壊の記録。荒れ地の果てに新国家を作ります――  作者: KOH


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72.シューマッハ伯爵領軍

 開拓村の伏せ越し工事が始まった頃、大勢の兵士と村人達が荒れ地に出ていた。

 村人がいなければ、それは軍隊と呼べる規模だった。

 だが、馬車のあたりにいる村人は、明らかに兵士たちよりも多い。


 心配そうな村人を背に、数人の兵士が先行し、時折報告に戻ってきていた。


「アラン隊長! 痕跡発見しました! 署名入りです! こちらです」

「ほう……ここで野営でもしたのかな? ここまでの痕跡を辿るとまっすぐ北を目指していたようだな。動きに迷いがない……」


 それはマーヤが残し、ヘンリクとリコが辿ってきたケルンだった。

 砂礫とは異なる色の石で作られたそれは、マーヤが軍の符丁を使って残したもので、作成者がマーヤであると読み取れ、進むべき方向も分る。

 荒れ地に積まれた石を確認した兵士はどうしたものかと考え込む。


 後から誰かがくるなら、残しておくべきだ。

 何なら新たな痕跡を作っても良い。

 だが、ヴィードランド王国の現状を考えると、それは悪手であるようにも思えた。

 いっそ、壊してしまうと言う事も考えたが、野営の痕跡とケルンを見比べると、ケルンの方が新しい。

 どうやらマーヤは意図的にこれを作り、保守までしている。と兵士は判断した。

 結局彼は、痕跡はそのままに先に進むと決めた。


「大将に会えたら、残すかどうかを確認すりゃいいだろ」


 他領への軍事侵攻を疑う規模の馬車が荒れ地を進む。

 馬車の斜め後ろには、馬車の重量で壊れた砂礫が砂埃を作りだし、長く棚引いている。


 車列の最後尾には、雑に作られた馬鍬のようなものを牽き、轍を消す者もいて、砂埃以外の痕跡を残さないように注意しながら彼らは進んだ。

 軍には水の精霊魔法を使える者も多く、水の補給については大きな問題はない。が、食料には限りがある。

 人数が多いため、長くは保たない。

 そんな中、彼らが迷わず進めているのは、マーヤの作ったケルンのひとつに『北。進め』と共に、マーヤの配下だけが使う秘匿符丁で『問題無し』を意味するものがあったためである。


 そして、彼らは荒れ地の向こうに緑色を見付けた。

 彼らが到着したのは森人のいる辺りから見て、北側。村からだと10kmほど南で、対岸に木が密生している辺りだった。


「植物が見えます!」

「よし! 斥候を3名送れ。我々はここで待つ」


 斥候が川に近付く。

 彼らは川を渡ろうとするが、なぜか岸に上がることが出来なかった。


 数回挑戦しても、足も手も緑がある領域に届かない。

 ならばと、勢いを付けて飛び込もうとした者は、見えない壁にぶつかって鼻血を流す。


 どうしたことかと、川から出て周囲を確認すると。


『北。進め』と、秘匿符丁で『問題無し』という符丁が見付かった。

 また、ここまで来た者に対して隠す気がないのだろう。川沿いには北に向う轍が残されていた。


 そうした報告を受けたアラン隊長は符丁を確認し、一晩そこで休んで、どうするのかを話し合うことにした。


 川向こうには木が生えている。

 食べられる草も生えている。

 しかし届かない。


 手持ちの薪と食料を消費した彼らは、なぜ川向こうに上陸出来ないのだろうか、この先どうするべきなのか、と意見を交換した。


  ◆◇◆◇◆


 彼らの所属は旧シューマッハ伯爵領である。

 かつて、元マーヤ・シューマッハ伯爵が治めていた領の兵士とその領民達と言った方が分りやすいかも知れない。


 マーヤの後任の領主は、ろくな人間ではなかった。

 平民を見下し、領民は替えの利く消耗品だと言うような人間だった。

 その上、自発的に指示を出せず、指示を仰げば責任逃れのために指示出しを渋り、ようやく出た指示も、それに従って問題が起きれば、指示に従った者に全責任があると叫ぶだけの無能だった。


 だが、領主がそのような者であっても、シューマッハ領は彼らの故郷である。

 周辺諸国侵攻の報せを聞いたとき、彼らは領を守ろうと考えた。


 だが、すべての領は無抵抗で城も砦も開放し、敵軍を通過させろという命令が下され、領主はその伝達の途中で逃げ出した。

 残された彼らには、王城に向うという選択肢もあった。

 しかし、仲間を守る事を優先するとアラン達が決めた。

 結果、彼らの家族、親族を含む多くの領民が彼らに同行した。

 さすがに全領民ではない。

 彼らの親しい者に限ってのことである。

 それでもとんでもない人数になった。


 アランはアントン達が追放された時のヘンリクとの会話を聞いており、その内容からマーヤが残した痕跡を探し、そして荒れ地に出て、ケルンを辿ってここまで来たのだ。

 ありったけの荷馬車に食料と飼葉を積んで、道中の水は魔法で出すという方針で。


 彼らの行動は、マーヤの命令に基づくものだった。

 だから彼らは故郷の土地を捨ててまで、自身が安心に生きられる場所に向う事にしたのだ。


「だけど、もしも上の方針が怪しいと思ったらお前たち自身の安心を優先しなさいな。お前達が安心できなきゃ、民の安心なんて守れっこないからね。これがあたしからの最後の命令よ。皆と共に安心に生きられるように努力しなさい」


 王都から追放される時、マーヤは彼らにそう告げていた。


 そんな彼らである。

 川向こうに上陸できないという不思議の理由は不明だが


「大将が『問題無いから北に進め』って言ってるんだ。信じるって決めたろ? 行こう」


 と、結論するまで、そう長い時間は必要なかった。


  ◆◇◆◇◆


「なんだ? ありゃぁ」


 日の出から3時間ほど後。

 フーゴは水車の確認を終えた後、何気なく地平線を眺めてそれを見付けた。


 南の川沿いにとんでもない量の砂埃が舞っている。

 彼は10秒ほどそれを眺め、自分では判断が出来ないと、即座にアントン達を探した。


「クリスタの嬢ちゃん! アントンさん達はどこかね?!」


 普段なら畑の辺りにいるアントンの姿が見えず、畑で雑草抜きをしていたクリスタを見付けてそう尋ねる。


「え? おじいさま? 新しい種を取ってくるって言ってましたから、丘の上の倉庫かと……おじいさまーっ!」


 そう呼ばわるクリスタの声に、アントンが倉庫から顔を覗かせる。


「大声でなんじゃ?」


 クリスタは黙ってフーゴを指差す。


「南の荒れ地に何か見えます!」

「何!?」


 今までにない事態に、アントンは慌てて、ヨーゼフが丘の上に設置した鐘を叩いて、村中に警告を発する。

 そして、丘を駆け下りて川との境の壁のドアを開き、橋の上から南を確認する。


「……あれは……馬車じゃろうか?」

「……多分そうね。先頭の馬しか見えないけど、あの砂埃、軍隊なら、領軍に匹敵する規模よ」

「とうとう攻めてきたと言う事か?」

「分らないわ。相手の姿は未確認だもの。でも取りあえず、弓矢を使える人を集めて。敵だと確認出来たら、合図をするから火矢で飼葉を狙って」


 マーヤは馬を荒れ地に引き出し、橋の上に幾つかの鉢植えの花を並べさせると、金属の兜を被り、盾と背負って単騎で馬車に向かって走り出した。

いつも誤字報告などありがとうございます。

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