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49.精霊魔法の才能

 20日後。


 新しい村人達に取っては2回目の満月の晩である。


 この日まで、村人達は日々、木の精霊への感謝を捧げ、仕事に精を出し、勉強にも励んでいた。


 勉強は、主に読み書きと計算だけではなかった。


 精霊について、精霊魔法について、その基礎からを徹底的に学ぶことも含まれていた。


 精霊魔法の才は、子供の頃に神殿で確認されるため、普通なら、才なしと判断された者は一生魔法を使えないままに終る。

 精霊神殿は、精霊の加護同様生まれるときに授かった才が変ることはないと言っており、皆がそれを信じていた。

 だが、ヘンリクは精霊の加護を後天的に得たことで、魔法の才も後天的に伸ばせるのではないかと考え始めていた。


 当初は具体的に何か方法を思い付いてのことではなかった。


 ――精霊の加護同様、生まれるときに授かった才が変ることはない。それが精霊神殿の教えで、変えようのない決まりごとのひとつだった。


 しかし精霊の加護は、生まれるときに授かったままではなかった。

 ならば、それ以外はどうなのか、という疑問をヘンリクは持ってしまった。


 だから、30日前の前回の満月の晩。

 ヘンリクは精霊に尋ねたのだ。

 精霊魔法の才を伸ばす方法はないのか。と。


『精霊を理解せよ。それが始まりとなろう』


 その返事に、方法があるのか、と皆が驚愕する中、ヘンリクは更に、具体的には、と踏み込んで尋ねる。


『ふむ、その姿勢こそが始まりだ。相手を知り、相手に好かれること。加えるなら、その橋渡しとなる魔力を理解すること』

「魔力の理解?」

『繰り返し、精霊の力を借りれば自ずとしれる事』


 その後、ヘンリクは二日ほど書物を収めた小屋に籠もり、更に二日ほど、畑に出て作物を育てまくった。

 その結果。


「これが正解とは言えませんけど。でも精霊魔法の才能を育てる方法が分かってきました」


 アントン達、村の責任者陣を集め、ヘンリクはそう述べた。


 精霊魔法は慣れれば効果が高くなる。


 精霊神殿はそれを、精霊魔法に慣れたからだと言っている。

 その言は嘘ではないが、事実を完全に言い表したものでもなかったのだとヘンリクは断言した。


「魔法を使うほどに、才は伸びるのです」

「それは慣れによる練達の事ではないのかね?」


 アントンの問いにヘンリクは、良い質問です。と笑った。


「剣の訓練を積めば、剣の腕が上がりますよね? 精霊神殿の言う練達はそれです」

「うむ。精霊魔法を使えば、精霊魔法を上手く扱えるようになっていく。ならば才能は変化せんではないか」

「精霊神殿ではそう教えていたね。でも、剣を振れば、筋肉が付くし体力も付きます。その筋肉や体力は剣を振るうことにしか使えないのかな?」


 ヘンリクの言葉に、それは言葉尻を捉えた揚げ足取りではないのか、とアントンは尋ねる。


「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。だから僕は確かめたんだよ。今まで、人間が持つ精霊の加護は一種類。だから、比較確かめようがなかったんだ。例えばアントン君は現在、木の精霊と土の精霊の魔法を操れるね?」

「そうじゃな。最近は木の精霊魔法ばかりじゃが」

「木の精霊魔法を使うと木の精霊魔法が上達するよね?」

「うむ。それは魔法に慣れるからじゃと思っておるが」


 アントンの返事に、マーヤ、ヨーゼフ、クリスタが頷いた。

 リコは黙ってお茶の用意をしている。


「僕は元々光の精霊の加護があるんだ。で、実験してみたんだよ。木の精霊魔法を使いまくったら、光の精霊魔法も上達するかなってね」

「こんな話ばしたっちゅう事は上達したって事だべ? じゃけんど、そりゃぁ精霊魔法ってものの使い方に慣れただけってことでねぇべか?」

「ん。そうとも言えるね。でも精霊魔法全般の使い勝手が良くなったんなら、それって才能が育ったのと何が違うのかな?」

「だとしてもよ?」


 マーヤが疑問を口にする。


「それって精霊魔法が使える人の才能を伸ばすって事よね? 才がないとされる人達がそのままなら、生まれるときに授かった才が変ることはないっていうのも正しくない?」

「そっちはまだ検証中だけど、魔法を使う以外にも才を伸ばす方法はありそうなんだよね。ただ、僕らみたいに、精霊魔法を使える人間じゃ、効果は分からないから、学校で教えてみようかと思って」

「訓練ではなく、教える、なの?」

「まずは知識。その上で実践だね。最初は精霊の知識を教える所からだから、無駄にはならないよ?」


 知識にも色々ある。

 無駄な知識はないなどとも言うが、利用しやすい知識としにくい知識はある。

 精霊に関する知識は、一般常識に分類されるが、ヘンリクが教えるのはより詳細な知識だという。


 それは初等教育に対する中等教育のようなもので、知らなくても大きな害はないが、教養と見做され、知っていれば色々な局面で利用しやすい知識と言える。


 だから、アントン達は精霊の勉強を授業に取り入れることに頷いた。


  ◆◇◆◇◆


 そして、話は冒頭に戻る。


 新しい村人達に取っては2回目の満月の晩である。


 この日まで、村人達は日々、木の精霊への感謝を捧げ、仕事に精を出し、勉強にも励んでいた。


 勉強は、主に読み書きと計算だけではなかった。


 精霊について、精霊魔法について、その基礎からを徹底的に学ぶことも含まれていた。


 農業と一緒でそう簡単に成果は出ないだろうから期待しすぎるな、とヘンリクは村人達に伝えていた。

 しかし、精霊魔法の才がないとされる村人達にすれば、絶対に無理だった事が叶うかもしれないのだ。


 日々の祈りも、いつもよりも熱が入っており、そんな中で迎えた満月である。

 何かが起るのではないかという期待はいや増していた。


 奉納の後、木の精霊は何も言わずに姿を消した。


 期待に反して何も起きなかったのか、と残念がる村人達だったが、突然、エーリカが


「うん。やってみる」


 と声をあげ、


「精霊よ、小石をあの木に当てて」


 と片手を突き出して呟いた。


 すると、掌の前に生み出された砂礫に似た赤っぽい色合いの小石が、ひょろひょろと飛び、軽い音を立てて木に当たった。


「姉ちゃん、魔法使えなかったよね? 呪文は誰に習ったの?」

「うん。声が聞こえたの」

「僕には聞こえなかったけど、精霊の声?」

「そーかも、土の精霊だって言ってたわ」


 それを聞きつけ、村人達が騒ぎ出す。


「木の精霊様のご加護がある土地で、別の精霊様の声っておかしくないか?」

「いや、しかし、ここには土も水も火も普通にあるんだから、いてもおかしくは……」

「そもそも、木の精霊様以外の精霊様が声を届けたりするのか?」

「待て。精霊の授業で習ったよな? 聖人は精霊の声を聞くことがあるって」


 精霊魔法を使えなかった少女が魔法を使って見せた。

 ただそれだけに収まらない。

 それはヘンリクの予想を軽く超えるような事件だった。

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