表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/83

38.マーヤ達の帰還

 依頼しようと計画していた品の大半を手に入れたヘンリク達は、森人の所に立ち寄って短剣の詳細な注文を確認してから、丘のある草原に帰る。


 往路は9日を掛けた道程を帰路では6日で踏破する。

 彼らが川を渡って草原に入ると、クリスタが駆け寄ってマーヤに抱きつく。


「あらあら、甘えん坊になってるわねぇ」


 クリスタを抱き留め、その髪にキスを落しながらマーヤがそう言うと、クリスタは更に力を込めて抱きつく。


「アントン君たちだけじゃ寂しかったんでしょ? ああ、あっちで祖父(アントン君)が涙目になってるよ」


 マーヤに抱きついたまま、ちらりとアントンに目をやるクリスタ。

 普段は妙に大人びた所のあるクリスタだが、今日ばかりはマーヤが恋しかったらしい。

 そのままマーヤに抱きついて動きを止めて大きく息を吸い……。


「マーヤおばさま。水浴びとお洗濯しましょう」


 抱擁を解き、すっと離れて水浴びの用意を始めるクリスタだった。


  ◆◇◆◇◆


 森人との物々交換の話。依頼された短剣のこと。木の精霊との契約と贄の概要。

 レオンとの契約状況と、今回運んで購入したり、プレゼントされたモノについて。


 その日の作業は、毎日行なわなければならない事以外は休みにして、情報共有を行なった。


 いつもの休憩所。

 いつものハーブティと、木の実など加工した軽食。

 水路があちこちに作られたため、昔よりもやや湿度が高く、土と草の匂いも強いそこで、話を聞いたアントンはちらりとハーブを移植した辺りに視線を送る。


「ハーブティを量産するのは、少し時間が掛るじゃろうな」


 アントンがそう発言すると、クリスタがコクコクと頷く。


「畑の面積は現時点でそれなりに広い。若い専業農家ならともかく老人が兼業でやるなら、ちと厳しいんじゃよ」


 畑は開拓して耕して植えて終わりではない。

 それは始まりだ。

 雑草を取り除き、栄養状態や水の状態を確認する。

 害虫の駆除も欠かせないし、間引いたりもする。用水路もあるのでその点検や補修とやることは多い。

 そして収穫。次回の作付けの用意。


 ハーブはそこまで手を掛ける必要はないものが多いが、それでも頻度が下がるだけでやることは同じだ。

 そして、畑が増えれば、面積に応じて必要な人手も増えていく。


「その辺はレオン君が連れてくる人材次第かしらね」


 村出身の若者であれば、商家の生まれであっても農作業の手伝いの経験くらいはある。

 王都出身の若者であれば、畑仕事を知らない若者も多い。

 そこにはあまり言及していなかった事を思い出し、マーヤはどうなるのだろうかと首を捻る。


「こちらの目的も伝えていますので、その辺りはレオン殿が配慮するでしょう」

「あの……人が増える話ですけど、子供も来るのでしょうか?」

「子供も候補に入れて貰っているけど、あまり期待は出来ないかもね」


 クリスタの質問にそう答え、ヘンリクはその理由を補足した。


「借金奴隷になる子供もいるけど絶対数が少ないし、いたとしてもこういう制度を知らない子供も多いからね。親が子供を連れてくるケースもあるけど、ここは危険な不毛地帯だと思われているだろうから、連れてくると言う判断をする親は少ないだろうね。クリスタ君は友達が欲しいのかな?」

「あー……お友達は欲しいですけど、子供が来たら勉強や訓練の場が必要になるかなって気になって」

「うん。まあその辺(教育)は僕の専門だから、簡単な読み書きと計算くらいは出来る程度に仕込むよ。子供以外でもね」

「ヘンリクはそんな親切だったべか?」

「親切じゃないよ。文字が読めないと毎回一々説明が必要になるけど、文字が読める人が多ければ、布告を出すだけで済むでしょ?」


 将来の省力化のための布石だと笑うヘンリク。


「そんなら、最初から読める奴ば集めりゃえーのに」

「読み書きや計算ができる借金奴隷は売り手市場だからね。同じ売り手市場なら、手に職がある者を優先するのさ。でも、最低限とはいえ、促成栽培はちょっと大変そうだね」

「勉強させんのは構わねぇが、ほんでぇ仕事が滞らねぇようになぁ」


 どうやって教えようか、と楽しげなヘンリクに、ヨーゼフはそう釘を刺す。


「おじいさま。10人も増えるのなら、住む場所はどうするのでしょう?」

「ああ。当面は畑の東側。岩山や大穴の手前に4人用の小屋を4つ作ろうと考えておる」


 今後も増える予定があるのだ。

 全員を丘の上に、という訳にはいかない。


「丘を切り崩して、全体的に高台にする計画はどうなりましたの?」

「それはもっと人が増えた後じゃな。当面は下に住んで貰う。水害がなさそうなら高台に改造するのを見送る可能性もあるが。ああ、大丈夫じゃ。仮に大雨で川が溢れて草原が水浸しになっても、住んで貰う辺りは安全じゃよ」


 アントンが提示した場所は、草原の中では比較的地面が高くなっており大穴にも近いため、水が来ても比較的安全の確保がしやすいと目されている。

 用水路を作ったことで、僅かな傾斜などが詳らかになった事で判明した事実である。


「それなら良いのですが。でも、家の用意はどうしましょうか? 私達が作るのですか?」

「うむ、ワシらが柱と屋根と壁だけの、最低限の小屋を用意する。あそこにある丸太と、干してある草と竹はそのための物じゃ。土壁にする場合は、協力はするが、基本、自分たちでやって貰うことになる予定じゃ」


 小屋とは言え、住む場所ともなれば、土壁に必要な資材集めもかなりの量になる。

 この付近には土と石灰も竹も葦も膠も砂も、十分な量があるが、それはあるだけで、採取して乾燥させたり刻んだり粉にしたりと手を入れねば使えない。

 現時点ではその手間を掛けるための人手がないのだ。


 加えて。


「自分たちで工夫した家になら愛着も湧くじゃろうから、住み続けて貰うための切っ掛けになるかも知れん。という狙いもあるんじゃよ」


 アントンのその言葉に、思い当たるところがあったクリスタはなるほど、と頷くのだった。

ワクチンの副反応なのか、とにかく眠くて微熱というのが結構続きましたがようやく落ち着いてきました。

昨年末にコロナやったから、反応が長めに出たのかな、と素人判断をしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー"
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ