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24.林の探索

「隣接する林には小型の獣が多数……これはむしろ、中型の獣がいないと困ったことになりそうね」


 マーヤは袋に詰めた小型の獣の肉や毛皮を確認して溜息をついた。


 北の林には、たくさんの小型の獣がいた。

 大半は齧歯類。

 ネズミやリス、兎。それに蛇の類いもいた。


 魔物はいない。

 獲物となる小動物が豊富で、かつ、痕跡だけならたくさんあるので、木の精霊が移動させたのか追い出したのか。

 中型の獣も痕跡だけを残して姿を消している。


 鳥は普通に色々と。

 中型の基準が獣なのか、幸いなことに猛禽類も残っている。


 それらを確認し、今は南の林である。


「それにしても、梟とかいてくれて良かったわ」

「食うんだべか?」

「違うわよ。ネズミ退治。蛇も残ってるから大丈夫かもだけど、中型以上の獣がいなくなったら、ネズミが増えそうじゃない? 増えたネズミがあたし達の拠点に来たら迷惑でしょ?」

「あー、俺はネズミも食うから、来てくれるんなら、食っちまうけどな」

「そのかわり、これから備蓄する食料や畑の作物をやられるわよ?」


 ネズミはどこにでも入り込む。

 その上、なんでも囓る。

 木箱に入れた食料などは、ネズミからすれば良い餌でしかない。


「蛇でも飼うべか?」


 昔アントンから酒を飲み話として聞いた、鼠避けに籠で蛇を飼う農家の話を思い出したヨーゼフがそう尋ねると、マーヤは頷いた。


「クリスタちゃんが嫌がるかもだけど、毒のない蛇を数匹捕まえたいわね」


 なお、村の畑のそばでアントンを待つことが多かったクリスタは、好悪を別にすれば虫や蛇、カエルなどには耐性がある。

 好んで食べるほどではないが、毒がなく、ベトベトしていないなら触れても気にしない。


 害虫駆除のために芋虫やナメクジを手で掴んで地面に放り出して靴底で潰す程度は、アントンを見て育ったクリスタには当たり前の作業に過ぎない。

 もちろん、毛虫やカメムシ、その他の毒虫等はきちんと見分けて棒などで処理する。


「あの嬢ちゃんなら、平気な顔で可愛いくらい言わんか?」

「……やめて、本当に言いそうな気がしてきたわ」


 マーヤはそう言いながら林の中で視線を巡らせる。

 そしてそれを見付けた。


「ああ、断層ってあれのことかしら?」

「ん? ああ、アントンが言ってたのはそっちだが、もう見えとるのか?」

「影を見分けるのはあたしの仕事では必須技能だもの……地層の縞模様が斜めね」

「ほだなこたぁ珍しくねぇが、この辺の地形はどうも色々不思議だべ」


 地層も調査すべき対象である。

 中型以上の敵はいないと思っていても、ふたりは一応警戒をしつつ断層に向かって進んだ。


 断層はほぼ東西にまっすぐに伸びていた。

 林の中で障害物が多いという理由もあるが、全体を見渡すことができないほどに長く続いている。


「何処から何処まで続いているのかしら?」

「東には川があるべ? 来るとき、川向うにも断層は見えとったなぁ」

「なんでこんな段差が出来るの?」

「そりゃ色々だべ。地震が原因というのが多いけんど、地面の下に穴が出来て、というのもある。ただ穴じゃここまで長いのは出来んから、多分地震だべ?」


 ふむ、とヨーゼフは地層のそれぞれの縞模様を少しずつ掘ってみる。


「粘土だべ? ……こっちのは石灰じゃ。見付かって良かったべ……この黒いのは炭の層だべ。昔大火事でもあったんか?」


 白っぽい粘土、白っぽい石、黒い炭。

 それぞれのサンプルを取っては布の袋に入れていく。


 そして、不思議そうに首を傾げた。


「大穴とはまた違った地層になっとるのお」

「大穴って、丘の西の岩山の手前のよね? そんなに違うの?」

「うむ。大穴の表面は荒れ地の砂礫の元になったような岩じゃったなぁ……まあ、溶岩が冷えて固まった土地と考えれば不思議でもないんだけっど、なぜこのあたりだけ異なる地層なのかが分からんべ?」

「同意を求められても分からないわよ。そういうものなの?」

「俺も分からんけど、溶岩が固まる時に谷だった場所に水の流れが出来て、土が溜まって林が出来た。とか、もあんべ?」


 石灰の層がある理由の説明にはやや弱いが、そうした知識に疎いマーヤはなるほどと頷きつつ、目に付いた綺麗な石を断層から引き抜き、これは何かとヨーゼフに問う。


「メノウか? にしてはやや色味が……ん? ちと舐めてみろ」

「嫌よ、汚い」

「なら、こっちに寄越すべ」


 マーヤから受け取ったオレンジがかった半透明の石。

 ヨーゼフは水の精霊魔法で僅かな水を出して、その表面を削るようにしつつ指で拭き取る。

 そして、拭き取った指をぺろりと舐める。


「ほう。マーヤ、こりゃ岩塩だべ。どこにあった?」

「どこって、足元だけど、この辺よ」


 ヨーゼフがマーヤが指差した周囲の断層を調べると、同じ色の層がかなりの厚みで続いているのが分かった。


「ほう、こりゃええ。塩が取り放題だべ」


 そうやって長い岩塩の層を少しだけ辿る。

 と、少し奥から地層がまったく別のものになっているのが見えた。

 だが、当然、見ただけでなぜそうなったのかは分からない。

 様々な予想は出来るが、弱い根拠すらもない状況では、


「なんで、ここで左右の地層が違うのよ」


 とマーヤに聞かれても


「んなの、分かんねーけんど、まあ違いがあるって知っとくのが大事だっぺな」


 としか返せない。


「そっか、まあ理由はともかく、岩塩が地層になるほどあるなら、当面、塩には困らずに済むわね」

「だな。こっちゃ助かるわ」


 マーヤは兵士の、ヨーゼフは鉱員の行動に塩や水が必須であると知っているだけに、塩の発見を喜んだ。


「ヨーゼフ、ここに杭を打って目印にして」

「ん。だけんど、杭だけじゃ目立たんぞ?」

「そうね。だから戻るときは木に傷を付けて行きましょう」

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