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老害追放――新しい国に老害は不要だと放逐された老人たちの建国記。ときどき、若返った国の崩壊の記録。荒れ地の果てに新国家を作ります――  作者: KOH


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19.斜面の工事と資材集め

「つまり、この高さに幅1.2mの通路のようなものを掘りたいと?」


 アントンとクリスタが伐った木の束を抱えて戻ってきた時、掘った距離は2mほどまで広がっていた。


 深くても20センチしかない割に時間が掛っているのはなぜかとアントンはマーヤのやり方を観察した。


「幅より深さだから場所によるけど、そんな感じよ……でもあたしはもう疲れたわ」


 そう言いながらもマーヤは手を動かす。

 掘った場所を水平にするため、横向きにザクリとシャベルを差し込んでは、梃子の原理で先端を浮かせて雑草の根を切る。

 それを、深さ20cmの辺りまでやって一本である。

 それを見たアントンは溜息をついた。


「そりゃ、そのやり方ではなぁ……力仕事は部下に任せてたんじゃろ。まったく。貸してみろ」


 貴族であれば、部下に任せるのは当たり前のことで、それで回っているのであれば問題はない。

 しかし、それだけでは現場の苦労も工夫も努力も理解出来ぬ、とダメ出ししつつ、アントンはクリスタに農具を持って来るように言いつつ、マーヤからシャベルを受け取った。


「地面の水平なんぞ、後から出せばよかろう? 最初はこれじゃ」


 まずはマーヤが使っていたシャベルを上から真下に向けて軽く地面に刺す。刺す。刺す。

 持ち上げて下ろすだけでもそれなりに刺さるので、力はそれほど使わない。

 時折、何かにぶつかった時だけ、力を入れる程度だ。

 数回ザクザクと地面に刺した所で、クリスタが持ってきた鍬に持ち替え、シャベルを刺した所に鍬を入れて軽く柄の尖端を持ち上げる。

 それだけで、土が剥がれる。


「なによそれ。土魔法?」

「魔法なんぞ使っとらん。知識と経験じゃよ。草の生えてる地面に真横からシャベルを入れて、掘った跡が水平になるように土をどけていたら、そりゃ疲れるじゃろう。どれ、ここはワシがやろう。掘った土を上に上げるのは後回しで良いな? ああっと、その前に掘る場所にシャベルを入れて、印を付けといてくれ。目見当で一周回って、最後でズレていたら洒落にならん」

「一周は出来ないわよ。下に下りる道を残すから」

「ああ、なるほど。道の位置は……川の側かの?」


 アントンと交代したマーヤは、丘の上に刺した木の枝を目印に、掘るべき範囲が分かるように小さな穴を開けて回る。

 そして一カ所だけ、掘り残す場所を囲むように穴を開ける。

 印を付け終わったマーヤは、アントンとクリスタが集めた木を確認した。


「こっちの太いのは暫定の杭に使うのはちょっと勿体ないわね」

「細いのが少なくなってきたんです」


 林の入ってすぐの辺りに生えている細いのは、切り尽くさない程度に切り、奥に進んだ結果、太い木が増えたのだ、とクリスタが説明する。

 ならば、とマーヤがアントンとクリスタが伐採に入っていたのと反対側、北側の林に視線を向けた。


「あっちはまだよね?」

「はい。でもあっちは切るの大変だと思いますよ?」

「なんで? ……って、ああ、陽当りが良い方だと確かにそうよね」


 アントン達が入っていた丘の南側の林は、丘の上から見るとやや暗いが、元々比較的中まで見えていた。マーヤが最初にそこで木を切り始めたのはそれが理由である。

 それに対し、丘の北の林は手前には灌木が生い茂り、それをツタ等が覆い、丘の上からでは林の中を覗くことすら出来ない。

 拓けた場所から見て北側の土地であり、陽当りが極めて良好なためである。


「だけど、あっちの資源も調査しないとだし、奥が見えないままだと獣がいても気付けないから、多少払っておく必要があるわね」

「藪払いですか?」

「そうね。剣でも出来るかしら?」

「鋭いと刃毀れしたりするそうなので、鉈みたいなのが良いとか?」


 村で聞いた話であり、クリスタには実感がないため伝聞調となっているが、農業に就いては自分よりも詳しかろう、とマーヤは訓練用の刃引きの片手剣をクリスタに見せる。


「これなら良さそう?」

「あ、はい。前に見た鉈の大きいのに似てます」

「よーし、ならちゃっちゃと伐ってきますか」


  ◆◇◆◇◆


 ヨーゼフは、数回に分けて集めてきた石を丘の中腹に運んで転がし、アントンが掘り返した土の一部を丘の上に運んで、少量の水を掛けて踏み固める。

 その下でアントンは、ヨーゼフが集めてきた石を、土が剥き出しの斜面に並べ、固めの泥をかける。


「ヨーゼフよ。岩山や大穴の方で粘土や石灰は見掛けなかったか?」

「それは探しとらんかったなぁ。わし、鉱石ばかり見とったんだ」

「そうか……この石を固定したり、他にも色々と用途はある。探さねばならんな」

「おう。明日の午前中だずね。石灰や粘土があればもう少し安全になっぺ」

「そうじゃな」


 アントンの掘った土の大半を頂上にあげたヨーゼフは、アントンが掘った所――ドーナツ状の道路の部分――の地面も踏み固める。


「この平らな面じゃが、将来はどうすんだべか?」

「さあ、マーヤしか知らんな……」

「丘を使うた砦に似た作りになっとるが……まさか壁を作ったりはせんよな?」


 そう言われて、アントンは腰を伸ばしつつ周囲を見回す。


「ワシらには畑も必要じゃし、水車を使うなら川の高さに色々作らにゃならんだろ? その全部をワシらだけで囲むのは無理じゃ」

「だべな。出来るとすれば、柵と、その周囲に掘りってとこだべか?」

「丘の中腹を掘るより大変そうじゃが、その辺が現実的じゃろうな」

「ふむ……馬を使えんべか?」


 ヨーゼフの言葉に、アントンは馬たちに目を向ける。


馬鍬(まぐわ)の類いか……話は聞いたことがあるが」


 畑で馬や牛に鍬を引かせるやり方ならアントンの専門に含まれるが、開拓時に固い地面を強引に起すのに馬鍬を使うのはやや専門から外れた。

 アントンの知る馬鍬は、それなりに完成した畑に使うものなのだ。


「あれは整った畑に使うのでもなければ綺麗に鍬が通ったりはせんと思うぞ?」

「そりゃそうだべなあ。じゃが、わしらが掘るよりも速く掘れるべ? 馬鍬に使えそうな道具がないか見ておくわ……あー、錘と木枠も必要になるべなぁ」


 ヨーゼフは、マーヤに言われて出しておいた道具の詰まった箱をアントンに見せ、馬鍬として使えないものかと相談をするのだった。


  ◆◇◆◇◆


 マーヤは、訓練用の刃引きの剣を振りかぶって林の日の当たる部分に密生した灌木に叩き込む。

 細い枝を叩き折るため、相応に力が必要だが、マーヤにとっては慣れた動作だった。

 数回繰り返して表面の葉と小枝が落ちると、後は葉の少ない小枝の大群を同じように処理するだけだ。


 マーヤが叩き折り、場所を交代したクリスタが小枝や葉を引っ張り出して、そのあたりにひっくり返して転がす。

 これらは、当面は柵を飾るがいずれ乾燥すれば焚き付けなどに使われる事となる。


 林を覆う灌木と蔦の壁に穴を開けたマーヤは、そばの木を数本切り倒し、切った木が入り口付近の灌木を押しつぶすように倒す。

 蔦が千切れ、小枝や葉っぱが飛び散るが、それだけで一気に林の中に光が入るようになる。


 林の中には幾つか大岩が転がっていて見通しはあまり良くないが、岩のない部分の地面は比較的平坦である。

 林の中をじっと観察したマーヤは、暫く耳を澄ませた後で溜息をついた、


「さすがにこれだけ騒いでると、獣や鳥は逃げちゃってるわね」

「狼とかいないんでしょうか?」

「狼サイズは狩りをするから、こういう場所ではどうかしら? 小型肉食獣や雑食の獣ならたくさんいるでしょうけど」


 そう言いながらもマーヤは数本の細い木を切り倒す。


「ああ、でも、小型肉食獣や雑食の獣を狙って狼が入り込むこともあるでしょうから、油断は禁物よ?」

「荒れ地には獲物は少なそうですものね」

「だから、早く柵を作らないとね……よいしょぉっ!」


 マーヤは木を持ったまま切って、ゆっくり倒しつつ林の外に投げ捨てる。

 それを見て、クリスタが目を丸くした。


「重くないんですか?」

「このサイズだと、上の葉っぱとかが重いけどバランスさえ間違えなければ大したことないわ。蔦もあるしね」


 倒れる力、落ちる力を横向きの力に変えているため、マーヤがやっているのは主にバランスの調整である。しかし、重量がなくなる訳ではない。

 バランスを間違えたとき、それを戻す方法はないためかなり神経を使う仕事だ。


 そうやって林の外に倒された木は、クリスタが枝と先端部分を落して棒に整える。

 最初の内はマーヤが伐る木は細いものばかりだったが、太くなってくると切り倒すのに時間が掛るようになる。

 そうなると、クリスタの仕事に周囲の警戒も含まれるようになる。


 マーヤが、細いとは言えないサイズの木を切り倒した時に差し込んだ日の光が、近くの大岩を照らした。

 キラキラ光るその岩に目を奪われたクリスタはマーヤに岩のことを伝える。


「マーヤおばさま。あの岩、光ってますわ」

「ん? ……石英かしらね。後でヨーゼフに調べさせましょう。仮に宝石だとしてもここじゃ意味はないけど、いつかクリスタちゃんが村に買い物に行くときに使えるかも知れないしね」


  ◆◇◆◇◆


「頂上の柵を設置する箇所の盛土(もりど)は良さそうね。で、必要な部材も揃ったと」


 細い木と、それなりに太い木。

 それらを丘に運び上げたマーヤは、材料が揃ったと全員の作業を止め、最優先で柵作りを命じた。


「アントン、クリスタちゃんはツタの皮編んで、簡易的な紐を作って。終わったらアントンはヨーゼフを手伝って」

「おう……しかしツタの皮で紐じゃと? そのやり方では乾いたらすぐ切れるぞ?」

「今回のは柵の貫――横棒を縦杭に縛り付けるためのもので、あくまでも暫定よ。十日も持てば良いわ。当面の柵が出来たら繊維だけ取って使ったちゃんとした紐を作って貰うから」


 マーヤの言う、簡易的な紐の目的と用途を理解したアントンは、それならばとクリスタと共に川原に降りてツタの皮むきを始める。


「で、わしゃぁ何すんだべか?」

「あたしたちが切ってきた木の内、太いのをあんたの頭くらいの高さになるように切って杭にして」

「……この丘の上だけ囲むにしても杭が足りんぞ? ……間隔あけて地面に刺して、細いのを横にして貫にするんだべか?」

「ええ、杭は、細い木を横にして少し余るくらいの間隔で打つことになるわ」


 ようやく完成のイメージの共有が出来たヨーゼフは、丘から降りる道をどうするかと尋ねる。


「川の方に掘り残しがあるでしょ?」

「いや、そこを使うのは分かるけんど、わしが知りたいのはその先よ。畑作るにしたって、丘の下だべ? どこに何を作るつもりだ? それによって、丘から降りるルートを複数作るべきだべ?」

「それは今日は気にしないことにするわ」


 マーヤのその返事を聞いたヨーゼフは、


「ふむ。まあよかんべ。とにかく今は今晩に向けた安全確保ってことじゃな」


 と頷き、作業に取りかかる。


「そうね。あ、下が整うまでは、馬とクリスタちゃんの馬車は丘の上に上げておくわ」

「なら、マーヤは当面の間取りを考えといてくれんか?」

「間取り……ああ、陣地のね? そうね貫にする木の選定をして、トイレを作ったら、地面に細い棒でも刺しておくわ」

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