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老害追放――新しい国に老害は不要だと放逐された老人たちの建国記。ときどき、若返った国の崩壊の記録。荒れ地の果てに新国家を作ります――  作者: KOH


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18.仮拠点

 思い思いに気になる場所(自分の専門)を見た皆が丘の上に集まったところで、アントンが切り出した。


「ここでしばらく過ごしてみてはどうじゃろうか?」


 その言葉を聞いたクリスタはコテン、と首を倒し、


「おじいさま。しばらくとはどの程度でしょうか?」


 と尋ねる。


「ふむ……拠点としての妥当性を見るためとするならば、最低でも1年じゃろうな」

「……長いですわね」


 アントンの出した答えに、漠然と数日から長くても一ヶ月くらいと思っていたクリスタはそう答えて絶句した。


「季節によって川も植物も変るでの、マーヤとヨーゼフはどうじゃ?」


 マーヤは丘の上から、川向こうに停めてきた馬車を眺めつつ頷いた。


「あたしもここ、気に入ったわ。この丘を使えば水害から逃れられるし、少し手を入れれば守りやすそうな地形というのも良いわ」

「わしも賛成だ。ほれ、鉄に銅に錫に石炭じゃ。そこんとこの大穴と岩山にあったべ」


 麻の袋に詰め込んだ鉱石などを足元に転がして、これは鉄、こっちは石炭と指差すヨーゼフ。

 これが鉄になるのかとそっとつついているクリスタには、特に意見はなさそうに見える。

 珍しく子供らしい面を覗かせるクリスタに笑みをこぼしながらもマーヤが


「クリスタちゃんもここで良い?」


 と尋ねると、


「ええと、そうですね。南北の林で薪拾いできそうですし、草原に畑を作れば食べ物も作れます。川には馬が食べる草も生えてるし、水も使いやすそうだから、ここで良いかなって思います」


 と考えながら答える。

 クリスタの場合は、積極的な肯定ではなく、否定する要素がないからという消極的な肯定だが、肯定には違いない。

 そろそろ疲れてきているから、という理由もあるかもしれないが、それでも肯定である。


 全員がここを拠点候補として試してみる、という方向で合意したことで、マーヤは話を次の段階に進める。


「それなら、ここに仮の拠点を作りましょう。目的は1年ほど住んで様子を見ること。方針としては、馬車を壊したり、不可逆的なことは出来るだけ控える。当面は食料生産と防御力の強化に注力。その後、家っぽい何かの作成、みたいな優先順位かしら?」

「鶏小屋もお願いしますわ」

「鶏は当面、夜は籠に入れて馬車で保護ね。みんなもそれで良い?」


 アントンは頷くと、マーヤに向って具体的な指示をくれと言った。


「ああ、拠点構築はあたしが旗振りする感じね? なら、アントンとヨーゼフは川の中で、馬車を通せそうな所を探して。馬車は私達のそばに置いておきたいわ。ヨーゼフは穴掘り道具、アントンは植物採取の道具を置いてって」

「うむ。渡せそうなら馬車を渡しておこう。無理そうなら、馬と食料をこちらに運んでおく」

「慎重にね。ここでは馬も馬車も積載してる荷も、どれも貴重品なんだから。頼んだわよ」

「そんで? マーヤは何すんだ?」


 ヨーゼフの問いに、マーヤはにこりと微笑むと手斧を片手に林を指差した。


「クリスタちゃんにも手伝って貰って細い木を切りまくって柵の材料を集めるわ。あと、少し丘の中腹を切り崩したいわね」


  ◆◇◆◇◆


 魔物や獣を警戒しつつ林に近付いて、マーヤはクリスタの腕よりも細い程度の若木を選んで切る。

 クリスタはマーヤが作業をする際の周囲の警戒と、マーヤが切った木をツタでまとめて林から運び出す役である。


 やや太めの木を10本ほどと、細い木を大量に切ったところで、マーヤとクリスタはそれを丘に運び上げる。

 その作業が半ばのタイミングで、アントン達が馬車を運んで来た。


「あら、早かったわね。近くに渡れる場所があったの?」

「うむ。草原の上流側に浅瀬があっての。車輪が嵌まらぬよう、大きな穴に石を入れる程度で渡れたぞ」

「お疲れ様。それじゃアントンは、林の入り口付近で食べられるものを探しつつ、これくらいの太さの木を出来るだけ多く切ってきて。太くてもアントンの手首くらいまで。クリスタちゃんはその手伝いね。さっきの要領でお願い」


 マーヤは先ほど切ってきた木を見本としてアントンに渡す。


「ふむ。クリスタ、説明と案内を頼む」

「分かりました。あの辺ですね。斧と鉈と、あと鎌もあると便利ですわ」

「ヨーゼフはあたしの頭くらいの石を集めてきて。形は平たい方がありがたいけど、あまり拘らないわ」

「わしゃあ石拾いか。どれくらい集めりゃええんだべか?」

「出来るだけ多くね……ああ、さっきの大きさは最大で、小さいのはあんたのこぶし位からね」


 よろしくね、と言うマーヤにヨーゼフは待てと声を掛ける。


「まだ何に使うか、説明しとらんべ?」

「これは数日かかる見込みだけど、丘の中腹を切り崩して土を頂上にあげるのよ。土を掘った場所は土剥き出しの低い崖になるから、その崖の斜面に石を並べて崩れにくくするの」

「ん? ちゅうことは切土(きりど)した土で丘の中央に盛土(もりど)するんか? 石は法面(のりめん)の補強だべか?」

「そうよ。話が早くて助かるわ」


 一般的に切土(きりど)は高い土地を削って、平坦な土地を作ることを指す。マーヤが言っている切土は、丘の中腹を削ってそこに平らな面を作ることを指す。

 中腹に平らなドーナツ状の道路を作るイメージである。


 対する盛土(もりど)は予定より低い土地や斜面に土を入れ、平坦で本来より高い地面を作る作業を指すことが多い。

 つまりマーヤは、丘の中腹にドーナツ状の道路を作り、その際に出た土を、ドーナツの穴の部分(頂上)に入れることで、丘の中央部を更に平坦にしつつ、やや高くすると言っているのだ。


 なお、法面(のりめん)は、人の手が入った斜面を指す。

 この場合、土を削って出来た斜面と、その上の丘の頂上を平らにした際に出来た斜面である。

 傾斜にもよるが、土が剥き出しになっていると、雨で流れたり乾燥して崩れたりすることもあるため、補強が必要なことが多い。


「補強用ってことは、薄くて平らなのがえーんだべ?」

「そんな都合良いのがあればね。なければみんなで頑張って積みましょう」

「さっき俺たちが川を渡った辺りはそんな感じの石がゴロゴロしとったから拾ってくんべ。だが、この丘に使うってんなら、相当な数が必要になっぺなぁ」

「当面は要所だけでもね。永住するなら、時間を掛けて広げていきましょう」


 そう答えるマーヤに、ヨーゼフはそれがええ、と頷く。


「当面の場つなぎって事なら分かった。拾ってくるわ。ああ、運ぶのに荷馬車を使うっから、荷は置いてくぞ」

「ええ……ああ、そうだヨーゼフ、道具類は分かるように置いといて」

「なんの道具だべか?」

「あんたが作ったシャベルやなんかよ」

「む? ああ、分かるように木箱の蓋を開けておくから好きに使うとええ」


  ◆◇◆◇◆


 全員が活動を始めるのを確認したマーヤは、丘の上を一回りしながらクリスタと集めた細い木を地面に刺して、頂上に作る広場の目印にする。


 距離を置いて30本ほど刺したところで、今度は草原まで降りて、木を刺した場所がだいたい同じ高さであることや、全体のバランスを目視で調べ、イメージ通りの位置であるかを確認する。


「当面は守りやすい頂上を生活の場とするとして、広さはあの位は欲しいわね……でも、後々丘の周辺を柵で囲むことを考えると、丘に登るルートは複数残しておくべきよね……」


 マーヤはシャベルを使って、木の枝を刺した外側の地面を掘り始める。

 まず丘の土を少しどかす。そのまま深さを変えず、掘った場所が水平になるように、丘の中央方向に向ってシャベルの幅よりも少し広めの穴を掘り進める。

 穴の深さが20cmになろうかという所でマーヤは音を上げた。

 深さは20cmでも、傾斜が緩やかな斜面を削るため、丘に出来るドーナツ状の道の幅は1mを超える。


「これ……婆さんにできる仕事じゃないわ……穴掘りはヨーゼフの専門よね……土ならアントンの精霊魔法かしら……あと深さ10cmは欲しいけど、あたしじゃ無理そうね……」


 今の深さは一番深い所でも僅か20センチ。

 深さ30cmとなると、斜面を更に1m近く削らなければならない。

 普通の方法でそれは無理だとマーヤは判断した。


「工事は計画だけで、実働は兵士に任せてたから、コツとかは知らないし」


 そうぼやきながらも、削った土を縄で作ったもっこに入れて頂上に引き上げ、撒いては踏み固める。


 マーヤがやっているのは、丘の中腹の土を使って頂上の平坦な部分を広げる作業だが、これには防衛力強化の狙いもあった。

 掘った深さは20cmだが、上にあげた土をうまく配置すれば掘った分と積んだ分で50cm近い段差を作れる。


 その段差の上に柵を作れば、丘の下から見れば、50cmの塀の上に乗った柵となる。柵の高さが50cmでも合計1mの柵だ。

 大型の獣なら簡単に破壊するだろうが、相手が狼サイズなら僅か1mの柵でも十分に障害物として機能する。

 敢えて、飛び込みやすそうな場所を作って罠を置く運用も出来るし、飛ばずに後ろ足で立って柵を乗り越えようとするなら、柵の内側から無防備な腹や後ろ足を槍で突く運用も出来る。

 真っ先に出てくる鼻っ面を狙う運用でも良い。

 何より、こちらは上から全てを俯瞰し、相手は飛び込むまで地面の様子が分からないとなれば、圧倒的な有利を取れる。

 の、だが。


「知識があっても実現出来ないのでは意味がないわね……」


 歳の割にはかなり鍛えているマーヤだったが、改めて若い頃()のようには出来ないと痛感し、どうすべきかと考えるのだった。


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