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老害追放――新しい国に老害は不要だと放逐された老人たちの建国記。ときどき、若返った国の崩壊の記録。荒れ地の果てに新国家を作ります――  作者: KOH


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17.探索

 森人と分かれたあと、マーヤ達はノンビリ――その実、追跡がないかを警戒しつつ、北を目指していた。

 同じ頃、アントン達は丘陵地帯の奥を、丘に隠れるようにして北を目指している。


 そしてそろそろ夕刻というタイミングで、マーヤ達は川のそばに馬車を停めた。

 天幕などの用意の前に、マーヤは適当な石を拾い集めて簡易的な竈を作る。

 マーヤにしては妙に開口部が大きな竈である。


 ヨーゼフは川縁の草や石を集めて焚火のそばに並べておく。

 それらが終わって天幕を用意し始めた頃、煙を見付けたアントン達の馬車が近付いてくるのをマーヤが発見した。


 馬車3台に御者はふたりである。

 ふたりとも馬車から降りて馬を牽いて歩いていた。


 先頭を進むアントンが、強引に二頭立ての二台連結馬車にした馬たちの手綱をとり、その後ろからクリスタが続き、何か気付けばアントンに声を掛けることになっている。


 ゆるゆる進んだ彼らは、マーヤの焚火が合流可能を意味する方向に開口部を向けている事を確認してから接近する。


 ふたりが合流すると、マーヤは結果を報告した。


「まず、相手は槍を片手に川向こうから誰何してきたわ」

「こんな場所に突然誰かがくれば、ワシらでもそうするじゃろ」

「そうね。で、あたし達をヒト種って呼んだわ。彼らの言葉は少し古い印象があったけどヴィードランドの言葉よ」

「森人で決まりじゃな。どんな話をしたんだ?」


 アントンの問いに、マーヤは肩をすくめた。


「川を挟んだまま挨拶。新天地を求めて来たと言ったら、ここに住むのかって聞かれたから、もっと遠くに住むって答えて、あんまり敵対って雰囲気じゃなかったから、お近づきの印にワインと乾燥果物を置いてきたわ」

「ふむ。相手の欲を刺激したかもしれんが、ここまで追跡もなかったのなら、さほど危険ではないか」


 マーヤは遠くに住むと伝えたのだ。奪うつもりがあるのなら、このタイミングを逃せば奪えなくなる可能性もある。

 話が一段落するのを待っていたクリスタが手をあげる。


「マーヤおばさま、森人の村の住民はどれくらいでしたか? あと住んでる場所の様子は?」

「そうね。川の側から観た限り、塀に囲まれた範囲を生活空間にしているように見えたわ。中に入ったわけじゃないから建物や他の住民については不明よ。塀のこちらは川だったけど、少し溝を掘ってあるようにも見えたわ」

「私達も同じような拠点を作るんですよね?」


 クリスタに尋ねられ、マーヤは分からないと答えた。


「それはあたしの専門外よ。短期の居留地なら分かるけど、長期的にって考えると、あたしには分からないわ。ヨーゼフはどう?」

「わしゃ専門外じゃ。一番詳しいのはアントンだべ? ほれ、孫の質問に答えてやれ」

「拠点なぁ……要はワシらの村ってことじゃろ? この辺だと川から離れるわけには行くまいから、やや高台がええじゃろな」


 アントンは川を見渡しながら、自分なりの理想を口にする。


「ワシらは老人ばかりじゃ。可能なら小さくても水車が作れそうな場所が良いと思う。それと薪の調達が可能。畑を作れる程度に土が豊かであることじゃな」

「水車作るつーても、板がないべ?」


 とヨーゼフが問題点を指摘するとアントンは頷いた。


「そうじゃ、何をやるにも板が欲しい。じゃから、製材機(水車)が必要なのじゃよ」

「じゃが、最初の水車を組むための板はどうすんだ?」

「オイゲンが少し積んでくれたじゃろ? 足りぬ分は馬車をバラして使うしかなかろうな。実りが欲しければ種を惜しむなとも言うじゃろ」


 アントンの言葉に、クリスタは首を傾げた。


「おじいさま。馬車がなくなると、もう動けなくなりますわよ?」

「うむ。だから水車を作るのは、そこが拠点として妥当である、移動は不要であると判断した後、または手持ちの板の消費を押さえて水車を作れるとなった時の話じゃ」

「それなら……問題はないのでしょうか?」

「いずれにせよ、馬車はいつか壊れるからな。馬車に頼り切ることは出来ぬよ」


 アントンの言葉に、クリスタはなるほどと深く頷くのだった。


  ◆◇◆◇◆


 その日から彼らは、川縁の様子を確認しながら北上を始めた。

 アントンの希望で適時、植物採取も行なっているため、その歩みは遅い。

 小さな桶に土を入れ、葉物野菜なども育てているが、食べるためというよりも、ここの土で育つのかの実験の要素が大きい。


 そのペースで三日ほど進むと川の対岸の植生が、灌木から林と呼べるものへと変化した。


 林の範囲は比較的狭く、川から100mも奥に入ると灌木が生えた荒れ地となり、少し行くと枯れ草すら見当たらない荒れ地に戻る。

 だが、どこからか種が流れてくるのだろう。向こう岸の植生は多用で、低木から高木までが様々に混ざり合っている。

 川から離れない位置にポツポツと緑の集団を形成し。広葉樹も針葉樹も存在する。

 虫も多く、それを狙う鳥も多い。

 ネズミやリスの姿も見掛けるようになり、時折、狼の声もする。


「これは馬が食う草だ……こっちは人間が食っても美味いぞ」


 使えそうな草を見付けると、アントンは桶をプランター代わりに数株を確保し始める。

 それらは彼らの食卓を彩り、馬と鶏は元気を取り戻した。


 マーヤも


「待って、対岸の木を確認させて……あれってムカゴじゃない? 山芋があるかも知れないわ」


 などと、対岸から使えそうな植物をチェックする。


 時にはロープを使って対岸に渡り、根や枝、枯れ木、蔦に竹、食用の植物などを採取する。


「クリスタちゃん、竹を使った罠の作り方を教えるわ」

「マーヤよ、クリスタの竹細工はワシより上手いぞ?」


 そうやって回収してきた竹を使っての魚用の罠を作ることで、食卓がやや豪華になったりもした。


 探索を進めることで、本来の目的である安住の地の候補も幾つか見付かって来た。

 だが、どこも一長一短で決め手に欠けていた。


「あの大木のあった辺りなどは良さそうではないか? 大木が育つなら、土地は安定しておろう?」

「でも、あの回りって土地が低かったわ」

「俺ぁ、あの崖のそばが良かったなぁ。当面、横穴を掘ってやりゃ、住処になんべ?」

「土の崖に掘った穴なんて不安定よ。それに最終的に家を作るなら崖の上になるわよね。崖の上じゃ川まで遠いし、崖の下を切り拓くなら、崖崩れが恐いわ。クリスタちゃんは良い場所あった?」

「そうですね……竹があったところが良いです」


 クリスタの答えを聞き、マーヤはああ、と頷いた。

 竹は切るのが簡単で、道具に加工しやすい形状をしていて、すぐに燃え尽きてしまうが燃料にもなる。

 増えるのがやたら早いが、資源として見た場合、それは良い事にも思える。


「素材として優秀だものね。でも竹が欲しいなら、アントンが移植できるように根っ子を持ってきてたわよね?」

「あと、おじいさまが、竹があるところは地面が丈夫だって」

「そうなの?」


 とマーヤがアントンに尋ねるとアントンは苦笑いを浮かべた。


「別に地面が丈夫ってわけではないぞ。竹の根が張った地面は、根っ子があるから崩れにくかったりすると聞くが、その根が厄介でな」

「ふうん……たとえば竹をヨーゼフの言ってる崖に植えたらどうなるのかしら?」

「あの崖か……表面は丈夫になるじゃろうが、垂直の面の補強にはならんな。崩れる時は表層まとめて滑り落ちるじゃろうな……丘のような場所なら丈夫にできると思うが」

「なら、今後、そういう場所で地盤が弱いってときは竹を植えることも考えましょう」

「ああ……だが、竹は家の床を破って伸びてきたりもするから、扱いは慎重にせねばならんぞ」


  ◆◇◆◇◆


 そして、森人と別れてから6日が過ぎた。

 拠点候補を探しつつなので、寄り道なしなら僅か3日の距離である。


 移動を開始した直後、彼らは新しい候補地を見付けた。


「ふうん、面白い地形ね」


 川を渡ってその候補地を調べたマーヤは、ざっくりと地図を描いて、不思議そうにそう漏らした。


 川向こう、林と林の間に川に面した拓けた土地があり、そこに丘がひとつだけあった。

 

 その丘の高は頂上部分で川面からヒトの背丈よりやや高い程度。

 一目で丘と分かるのは、丘にもその周辺にも背の高い木々が少ないからだ。

 あって灌木、草原と呼んでも差支えないほどに、その場所は木が少なかった。

 ただ、丘の上には数本の木が生えており、ある程度は丘の土壌が安定していることを窺わせる。


 川岸から距離にして10mほどの緩やかな坂が続き、丘の中央にはそこそこ広い平らな部分がある。


 特徴的なのは、丘の向こう側(西)に100mほど進んだ位置に、大きな楕円のすり鉢状の穴があること。

 地表にも地下にも、その穴に水が流れ込むルートはなく、すり鉢の底には黒っぽい乾いた岩が覗いている。

 そして楕円の穴向こう側には不思議な形状――岩の棒を持ってきて突き立てたような形状――の岩山が立ち並ぶ。


 穴の手前、丘の周辺部分は草原になっていて、草原の南北には、背は低いが多種多様な木々からなる林がある。

 そして川に目を向ければ、丘のある川辺には様々な種類の水草が生えている。


「これは……おあつらえ向きね」


 丘の上は川面から十分に高く、対して丘の周囲は川面より僅かに高い程度。

 大穴とその向こう以外の地面には草が生い茂っている。

 マーヤは治水と防衛の観点から、ここなら拠点によさそうだと判断した。


 そしてアントンも別の視点から、ここで良いのでは、と考えていた。


「……畑を作るのに、草原なら切り拓く手間は少ないな。それに林の植生が多用というのも良い」


 丘の上は川面より高いため、丘の上まで水を引こうとすれば水車が必要になる。

 しかし、丘のふもと辺りに畑を作るのであれば、土の地面にまっすぐの用水路を掘ればこと足りる。

 開拓のしやすさという点から、アントンはここは今まで見た候補の中でも比較的上位であると考えていた。


 北の林は灌木で中を見通せないが、樹冠を観る限り植生は豊か。

 南の林は中に大きな断層が顔を覗かせていたりもするが、こちらも他種の植物がある。

 少し奥には竹もあり、色々と便利な林だ。


 皆が丘の周辺を見ている間、ヨーゼフは大穴の底や周辺の岩山を調べていた。


「こりゃええ。こんなら鉄と銅と錫と石炭の露天掘りが出来るべな。この岩山、まるで天地をひっくり返したみたいだっぺ」


 ヨーゼフは数種類の鉱石と石炭をサンプルとして掘り出し、周囲の地形を確認しながら丘の上にいる皆と合流した。

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