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老害追放――新しい国に老害は不要だと放逐された老人たちの建国記。ときどき、若返った国の崩壊の記録。荒れ地の果てに新国家を作ります――  作者: KOH


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16.最初の接触

 マーヤとヨーゼフの馬車が川に近付くと、どうやってかそれに気付いたらしく、塀の向こう側から子供が顔を覗かせ、すぐに引っ込む。


 そして、馬車が小屋に近付くと、槍を持った赤い髪の男性が前に出てきた。

 姿が見えているのは2人だけ。先ほど姿を見せてしまったが、子供は小屋に隠れているのだろう、とマーヤは判断する。


「ヒト種か。ヒト種が何用で参った?」


 相手がそう言うのを待って、マーヤは荷馬車の馭者台から降り、笑顔で両手を挙げて武器を持っていないとアピールする。


「こんにちはー、ヴィードランドから新天地を求めて旅してます。ここら辺は良い場所ですねー!」

「新天地? このあたりに住むつもりでござろうか?」

「あー……いえいえ、家はもっと遠くに作ろうかと。あまり近いと色々ご迷惑でしょう? ……あたしたちはあっちの森の方にと考えてます。おっと、あたしはマーヤ。こっちのヌボーっとしたのはヨーゼフです。たぶんこの辺だと、どんなに離れても唯一のご近所さんだと思いますので、どうぞよしなに。こちら、お近づきの品ですのでお納めください」


 マーヤはそう言って、ワインの入った陶器の瓶と、乾燥果物を麻袋に入れてその場に下ろす。


「それではまた機会があれば。失礼します」


 とマーヤは馬車を進ませ、数歩進んでから振り返って頭を下げてみせる。

 まるでごく普通の主婦が、知合いと会って挨拶するように。


 森人の男はそれを見送る。

 マーヤが挨拶をした時点で槍は下ろしている。


「……エーリク、どうであった?」

「マーヤって名乗った女の人は一昨日と今朝、見に来ていた人だね。ふたりとも警戒はしてたけど敵意はないよ。父上と言葉を交わした後は安心してた? ……あ、女の人が袋を置くとき、男の人が強く否定してたっぽい、やめてくれー、みたいに?」


 小屋の中から出てきた10歳くらいの少年(エーリク)がそう答える。


「まあ俺も槍を持って出たから警戒は当然であろうな。しかし袋に何が入っているのやら……敵意がないのに否定? 女が毒でも入れて、男はそれを止めようとしたか?」

「それならマーヤって人から敵意が感じられたと思うんだけど」


 二人の後ろから、女性の森人が顔を出し、川に足を浸した。


「ケヴィン、彼らの荷物、私が取ってきます」


 川は広いが浅いところも多く、知っている者なら歩いて渡河できる。


「袋に毒の可能性もある。トリシー、慎重にな」


 片手をひらひらと振ってトリシーと呼ばれた女性は対岸まで歩ききる。

 そして、ケヴィンの言葉に従って慎重に袋の口の部分。普通に袋を持ち上げるなら持つだろう辺りに仕掛けがないことを確認し、袋の口を短剣の鞘でそっと開く。


「まあっ!」

「どうしたっ!?」


 悲鳴のようなトリシーの声に、ケヴィンは川に足を踏み入れかけ、エーリクが笑っていることに気付いて足を止める。


「危険はないのか?」

「うん、お母さん、すごい嬉しそう」

「干した果物と、あとこの匂いは、多分ワインです!」

「酒かっ!」


 甘味はともかく、酒はこの地では手に入らない贅沢品だった。

 酒と聞いてケヴィンの頬が緩む。

 それを見上げてエーリクは、


「お父さん、お酒ってたまにお伽噺で聞く奴だよね。僕も飲みたい」


 と言って、ケヴィンの袖を引っ張る。


「子供には渋くてスッパイ飲み物だが、まあ一口くらいなら……だがその前に毒味が必要か。トリシー、早くこちらに寄越さんか……っておいっ!」


 取り出した陶器の瓶の蓋を開け、注ぎ口から直接、ほんの一口を口に含むトリシー。

 口の中でゆっくりと動かして違和感を探り、こくりとその喉が鳴る。


「……美味しいわ……半日待ってくださいね」


 体内に蓄積する毒であれば、この量では足りない。

 そして家族を狙うなら、即効性の毒は使わない。

 飲んで数時間で効果が現れる毒を使う筈だ。

 そういう知識が彼らにはある。


 彼らはエーリクの言葉から安全であろうと判断はしていた。

 だが、彼らはエーリクの言葉に責任を求めるような行動は慎んでいた。

 だから、トリシーは自ら毒見を行なったのだ。


 トリシーはややふらつきながら、ワインにコルク栓をして袋に入れると川を渡って戻ってきた。


「大丈夫か? 顔が赤いぞ。たった一口でそれとは、相変わらず酒に弱いな……まさか、毒の影響ではなかろうな?」

「本当に久し振りだから、お酒に弱いの忘れてましたよ……ああ、乾燥果物も念のため」


 短剣を使って小さく切り取り、欠片を口にするトリシー。


「……ヒトってやっぱりこういう加工品作るの、上手ですねぇ」

「いいから少し横になれ。今トリシーが倒れたら、酒のせいか毒のせいか区別がつかん。エーリク、お母さんのそばに付いててくれ……しかしヒトが森に行く? 大丈夫でござろうか?」

「危ないと思うなら、教えてあげれば良かったのに」

「いや、森人の血を引いてないならそちらの問題はなかろうが、ヒトは森の生活に不慣れであろう? ……ふむ。だが、これらに毒がないのなら、何とか連絡を付けて物々交換を考えるべきか」


 なお、酔ったところを襲撃されることへの用心のため、ケヴィンが酒に手を付けるのは数日が経過した後となる。

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