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1.代替わり

追放物です。

書いてみて分かったのですが、あのテンプレートはなかなか手を入れにくいです。

追放する側にも多少の知性があるタイプ(賢いとは言ってない)のお話だと、テンポが悪くて、ざまあも弱い。


ええと、これはつまりそういう――テンポが悪くて、ざまあも弱い――お話です。

ついでに、追放される側は自分が病気とかで休めるように、いなくてもそれなりに仕事が回るように手配をしている、それなりに仕事ができる人です。

そのため、いわゆる「ざまあ」発生までは作中時間で年単位を要します。


追放する側は愚か(データではなく感情で追放しちゃう人で在れ)であるべし。

追放される者も愚か(主人公が自分が倒れた場合に備えたりしたらダメ)であるべし。

スロー展開(追放された翌週くらいには他で認められて欲しい)が苦手。

という方はブラウザバックを推奨いたします。

一応清書前段階で10万文字ほど用意していますが、魔法あり、その他チートありでそこまで行ってもまだサバイバル中みたいな状態で、追放した側には問題は発生していません。


公開する際に清書しつつもっと文字数をつめていく予定ですが、まあスローペースになりますことをご承知おきください。

 2年前から病床にあったヴィードランド国王の容態が急変し、10日後に崩御した。


 王の命で万が一に備えた用意は進んでいたため、友好国に留学していた王子(バート)とその側近たちは急変の時点で呼び戻され、王の側近と協力して戴冠を済ませる。


『バートが王になったならば、暫くは皆の声に耳を傾けて様々な事柄を学ぶのだ。

 おまえの知識は机上のものに過ぎぬ事を忘れるな。


 だが皆の声を聞くだけでは王の責務は果たせぬ。

 皆から学んだあとは、自ら考え判断したのちに後悔するようなことはするな。

 多くの者に取って王命は拒否できない絶対のものだ。


 忘れるでないぞ』


 それは先王がバートに遺した言葉だった。

 バートは父のその言葉を胸に刻み、そのようにあろうと努力した。


 だからバートは王位継承からしばらくの間は、父が重く扱った臣たちには今までの仕事を継続するように命じた。

 同時に、自分の側近たちには臣たちの働きを報告させ、自らの視点で状況を把握しようとした。


 そうやって集まった報告書を確認しつつ、バートは留学先で学んできた様々な技術を用いた改革の計画を、側近たちと立て始めた。


「旧弊を改め、他国に学ぶ」


 バートと側近たちの意見は、概ねそこに集約されていた。


  ◆◇◆◇◆


 ヴィードランドのある北大陸は、大地の7割ほどが荒れ地である。

 北大陸の地図を描く場合、大陸すべてを荒れ地で埋め、北半分はそれで終わり。

 南側に幾つかの国を描き込む。その際、国と国の国境が接する国は少ない。

 国と国の間には緩衝地帯のような広い荒れ地を残すためである。


 ヒトが知る領域の大半は荒れ地であり、そんな中に国がぽつりぽつりと点在する。

 大半の国家は自国内の農業を賄う程度しか水資源を持たない。


 そんな中、ヴィードランドは数少ない恵まれた国のひとつであった。

 国の中央に大きな山があり、その周囲は雨が豊富で豊かな森もある。


 山からは大きな川が北以外の3方向に流れ、その水が耕作地に豊かな恵みをもたらしている。

 それらの川は近隣諸国の水源となっており、大半は途中で途切れるが、南に流れる川は海まで流れる。


 他国では耕作地を広げるための水の確保にも苦労しているが、ヴィードランドはそうした苦労とは無縁なのだ。


 小さな畑で細々と、多種多様な農作物を作るというヴィードランドのやり方でも、必要十分どころか周辺諸国に輸出できるほどの収穫がある。

 その結果、周辺国との同盟によってヴィードランドの平和は維持されていた。


 周辺のどの国も、『自国以外が』ヴィードランドを占領することをよしとしない。

 他国がヴィードランドに攻め入る様子を見せれば、近隣諸国が掣肘するし、必要なら軍事行動を起す。

 水と食料で他国の庇護を得る。

 そういうバランスの上でヴィードランドは仮初めの平和を得ていた。


 ヴィードランドでは今でも昔からの農法が幅をきかせている。

 非効率なやり方を変えなくても、ヴィードランドは農業大国として生き残ることが出来ているから、困る者はいない。


 バートもバートの側近達も、そのように分析していた。


 留学先では


「農業大国として名高いヴィードランドの農法についてご教示賜りたい」


 等と言われ、国で学んだ知識を嬉々として語ったバートは


『そのような昔ながらの方法であの収量とは、ヴィードランドは実に恵まれていますね。いや、どのような肥料や精霊魔法を使われているのかと思いましたが、そのような工夫も苦労もなしにあれだけの作物が採れるとは実にうらやましい』


 などと揶揄するように言われ、(ほぞ)を噛む思いをしたのだ。


 そうした経験からバートは、農業に関する諸々を見直して、国を富ませたいと考えていた。


「治水が無駄というのも驚きましたね」


 留学先で共に学んできた側近のカールにバートは頷く。

 南の隣国もそれなりに水が豊富で、そこでは毎年のように洪水があるというが、その際に流れ出る栄養に富む土砂のおかげで、かつての不毛の大地が穀倉地帯に変貌しつつあると学んだバートたちは、そのような手段があるわけがないと視察を行い、それが事実であることを確認していた。


「それにも驚いたが、畑の規模を大きくして、作付けする品種をまとめることで、必要な農具や作業を統一し、農民の負担を減らす。その方が収量が増すという手法にも学ぶ点は多いな」

「我が国では一人の農民が複数の小さな畑の世話を行い、畑ごとに異なる品種を植えるよう指導されておりますため、複数品種を作るための知識や道具を皆が持たねばなりませんし、何よりも手間が掛かります。これが改善されれば大幅な収量増加が望めましょう」

「うむ。代替わりを機に、他国の学ぶべき点は積極的に取り入れて国を豊かにしていく。それをこれから数年間の基本方針とするぞ」


  ◆◇◆◇◆


 その数日後、幾つかの布告がなされた。


 他国で実績のある方法に切り替えていくという情報から、大半の者は取り立てて騒ぐことはなかった。

 しかし。


「王よ! 従来の農業のやり方には意味があるのです。それを捨て去れば農業が滅びますぞ!」

「あたしも意見があるわ! 軍の訓練を減らせば、国が成り立たなくなるわよ!」


 バートに意見するために、ふたりの貴族が声をあげた。

 布告の内容に頭に血が上ったふたりは、王宮で偶々バートを見掛け、先触れもなしにその前に立ちはだかった。


 ひとりはアントン・アッカーマン子爵。農業関連の担当文官である。

 ひとりはマーヤ・シューマッハ女伯爵。ヴィードランド全体の治安と軍を総括する部門の代表である。


「アッカーマン子爵、シューマッハ伯爵か……事前の許可も得ずに王の前に立つとはどういうつもりか。今回は我が父の代の功績に免じて不問とするが、一体どうした?」


 平常運転のバートの反応を見て、マーヤ・シューマッハ伯爵は拳を握りしめる。

 普段は冷静でやや血の気の少ない白皙の顔を真っ赤に染め、部隊指揮の際に部下に舐められぬようにと鍛え上げた拳がギリリと音を立てる。


「どうしたじゃないわよ! 『軍の定期訓練の漸減』って聞いたわ? そんなことをすればどうなるか分かっているの?!」

「軍の訓練と言いながら行なっている治水工事が減るな。分かっているとも。俺は実際にこの目で他国を見て学んできたのだ。50年前と同じことを続ける卿には分かるまいが」

「他国に学んだ?! 治めるべきは国内でしょうに、他国のやり方が通用するとでも? しかも我が国の治水は治安のみならず外交の……!」


 アントンは、それ以上を言わせないようにとマーヤの肩に手を掛けたが、やや遅きに失していた。


「不敬であるぞ!」

「年長者として。何より先王に受けた恩義のため、これを放置できないわ!」

「……不敬である。これで二度言った」

「……くっ!」


 マーヤは拳を強く握り、激情を押しとどめることに成功した。

 この場は公ではないため、意見を述べるための不敬は2回までは許される。この国の王宮には『不敬3回』と呼ばれる不文律があった。

 王に直言できる者の口を塞ぐことの愚かさを知っていた数世代前の王が決めたルールだ。

 だがそれは、3回目の不敬の後は、自らの進退をかけての言となるという意味でもある。


 マーヤもアントンもつい先ほど、初めて布告を見たため、バート王に提示出来るような資料の用意などもなく、言葉だけではいつ3回目の不敬を行ってしまうやもしれぬため、口を閉ざしたのだ。


 だが、その冷静な判断は、彼らの犯した数少ないミスのひとつであったと、後にアントンは後悔をすることとなる。


  ◆◇◆◇◆


 そして数日後。


「陛下、ご依頼のありました報告書がまとまりました」

「む。早かったな?」


 側近(カール)の差し出す紙束に、バートは軽い驚きを表に出す。

 カールに情報をまとめるように言ったのは昨晩のことなのに、渡された紙束は、書くだけで3日は必要な厚さだったのだ。


「元々部下がまとめていた報告の中に適した物がございましたので、そちらに私の所見を加える形としております」

「ほう。情報収集とまとめがうまい部下がいるというのは宝だな」

「私の部下は陛下の部下です。使っていただければ光栄に存じます」

「うむ。目を通すので、しばしそちらの椅子で待て」


 バートは報告書の内容に目を通し、自分の目を疑った。


 報告書は先王の治世で臣が行なっていた様々な取り組みについてまとめたものだった。


 そこには先王が命じた事柄や昔から継続している事業とその結果が記されていた。

 誰がいつ命じられ、折々の実績報告と、目標の見直し、経費、現在の状況などが数字で記されている。

 それら情報の出典は参考文献に国の文書管理院の文書番号が記されている事から、数字の信用度はそれなりに高い。


(酷いモノだな)


 一読した、それがバートの偽らざる感想だった。


 例えば農業面。

 作物の品種改良などはほとんど効果が上がっていない。むしろマイナス面が目立つ。


 確かに新品種は出来ている。

 しかし新品種にした後、収穫量が1割近く減少した麦もあるとの指摘があった。

 補記として品種切替えの数年後にあった冷害による収穫量の減少も記述されているため、収量1割減は冷害などの影響を受けた結果ではないことも読み取れる。

 麦の味などに変化はない。それでいて収穫量が1割減では品種改良の意味がないというコメントがあり、バートはその通りだと頷いた。


 製鉄に目を向けると、先王に命じられた炉の新造も新造自体は行われたが、作成されたのはかなりの山奥であり、大河ではなくその支流沿いに作られているため、出来上がった鉄の輸送コストが跳ね上がっている。

 その上、新造と言えば新造だが作られたのは30年前に設計された新型ではなく、100年以上前に設計された旧型である。

 そして、現在計画中の炉も、多くは旧型を人里離れた山奥に建造予定となっており、道路や川の整備を行い、村を作る所からの工事となるため、建造以外の費用も馬鹿にならない。


 林業も予定されていた伐採が行われていない地域が各地にある。

 総量は確保しているため、輸出量は変化していないが、地域を変えたことで余計な費用が発生し、結果、国の歳入が予定に届いていない。


 軍は他の貴族からの度重なる見直しの依頼を無視して過剰な兵を抱え込み、無駄に山奥で治水工事や見回りをさせていた。

 自領の人間を多く雇用していた事実が並記されていることから、その目論見は自領への利益誘導であるとバートは判断した。


 他にも、大した成果もないままに、長年、臣として禄を食んでいる者が少なくない。

 派手な成果がなくとも重要な仕事は幾らでもある。

 まだ若いバートでもその程度の事は理解しており、そこは問題視しなかった。


 だが、害悪とさえ言える者たちも少なくはない。


「なんなのだ、この者達は……なぜこのようなことをする?」


 見落した行がないかと何回も資料を確認するバートだったが、残念ながらそのような見落としはなく、ただ数字が残酷な事実を突き付ける。


「分かりません。分かりませんが、自分たちが学んだ古いやり方に付随する既得権益を守るために、新しいやり方を否定する者を老害と呼ぶそうです」


 客観的な意見にも思えるカールの返事――その実、根拠のない主観――を聞いてバートは天を仰いで目を閉じた。


「……父は……先王の目は曇っていたのか?」

「賢い者ほど、騙されるときは騙されるとも聞きます」

「……つまりは騙されていたと?」

「数字を見て判断するならば、その可能性は高いかと」


 カールはバートの問いに断言はせず、そう答えるに留めた。


 最終的な判断は王であるバートが行い、その責任は王としてのバートが負わねばならない。

 だからバートは改めて報告書に目を落した。

 数字がバートの考えが正しいと示していた。


「この者たちから話を聞くべきであろうな」

「……恐れながら……先王ですら騙されたのであれば、話を聞くのは危険かと」

「……そうか……あの父が騙されたのだ。聞けば俺も騙されるかもしれぬか」


 そして、バートは間違いを犯す。


「彼らの行ったこと、許しがたい。爵位剥奪の上、国外追放とせよ……だが仮にも父の重鎮であった者たちだ。追放は3等とする」

「はっ」

こんな物語です。

楽しんで頂ければ幸いです。

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