4・最強冒険者パーティー再結成
その後、街【カマブーズ】の自警団の人がやってきて、暴れていた男を連れていった。
「魔物を商品だとか言っていたが、まさかあれを売り捌くつもりなのか?」
「多分そうよ」
フィオナが首を縦に振る。
「お貴族様が観賞用に飼ったりするのよ」
「魔物だぞ? 正気の沙汰とは思えないが」
「私もそう思うわ。だけどお貴族様ってのはお金がありすぎて、大抵のものが買えちゃうからね。魔物を飼うっていうのも、普通のペットに飽きたからじゃないかしら」
とフィオナは表情に不快感を滲ませる。
彼女は過去の出来事がきっかけで、貴族のことが大嫌いだ。
そんな彼女だからこそ、こんな事態に顔を顰めたのだろう。
「あとは……闇パーティーの連中が、商品として魔物を購入しているらしいわ」
「闇パーティーか」
フィオナが言った言葉を、繰り返す。
本来、冒険者パーティーというのは冒険者ギルドに所属している。ギルドから正式に依頼を受け、それによって報酬金を得るのだ。
だが、時にギルドに所属しないパーティーがいる。
その理由は多岐に渡るが、大きく分けて二つ。
一つはギルドを通して依頼を受けるより直で依頼人と話した方が、金になるという理由。
もう一つは素行の悪さから、ギルドから脱退処分を受けたパーティーだ。
どちらもタチが悪い。
闇パーティーは時に違法行為をしてでも、依頼人の依頼を達成しようとする。
さらには法外な料金を取ることも多く、それが冒険者の評判が下がる一因ともなっていた。
「だが、魔物なんて購入してどうするつもりだ? 貴族みたいにペット用に買うってのも考えにくいし……戦力として使おうにも、魔物だぞ? 人間の言うことなんて聞かないに決まっている」
「さあね、そこまでは私も分からないわ。だけど……これだけは言える」
フィオナはあらためて俺の瞳を真っ直ぐ見て、こう口を動かした。
「あんたがいなくなって《極光》は実質解散となった。つまり今は最強冒険者パーティーが空座ってわけ。それをチャンスだと見て、悪い連中がきな臭い動きを始めている。魔物の売買もその内の一つね」
「他の冒険者パーティーはどうしてる? S級の《極光》には及ばないが、A級パーティーもなかなかの実力だが……」
「ふんっ、A級なんていう有象無象のパーティーに平和は守れない。それどころか、内輪で誰が最強なのかを争って、足の引っ張り合いを始めてたりもする。ほんっと、くだらないわ」
確かに……《光の勇者たち》は平和を守るというよりも、自分たちの等級を上げることで必死だった。
《極光》は違った。
弱き者がいれば助けにいき、悪しき者がいれば裁いてきた。
そうしていたら、いつの間にかS級パーティーになって、結果的に最強と呼ばれていただけだ。
「今、世界は最強を求めているのよ」
そう言って、フィオナは手を差し出す。
「もう一度、言うわ。ノア、私の手を取って。《極光》を復活させましょう」
「だが、俺は……」
差し出された手を見て、俺は悩む。
フィオナの言っていることは、ごもっともなことだ。《極光》として活動をやめてしまってから、治安が悪くなっているのも事実だろう。
彼女たちと一緒にいるのは楽しかった。
たまには喧嘩もするが、すぐに仲直りして、戦いに向かっていく。
余計なことなんて考えずに、ひたむきに走るあの時代が懐かしかった。
しかしそんな日々が崩れてしまったあの出来事を思い出すと、どうしても彼女の手を取れないでいる。
「あんたが迷っている理由も分かるわ。だから、これは気軽に言ってるわけじゃない」
俺の迷いなんてお見通しなのか。
フィオナが真剣な口調でこう問いかける。
「だけど……それならどうして、さっき黒滅を振るったの?」
「それはあのままだったら、身に危険が及んだから……」
「違うわ。一人で逃げるだけなら、いくらでも出来てたじゃない? 私もいたしね。だけどあんたはそうしなかった。それはきっと、後ろに守るべき者がいたからじゃない?」
「……っ!」
その言葉を聞いて、ハッとなる。
俺の黒滅はみんなから持て囃されるほど、立派なものではない。
しかし力がなければ、誰かを守れないのも事実だ。
だから《光の勇者たち》に入って、別の方法を模索していたが、分かったのは『どんなパーティーでも、《極光》には敵わない』という事実だけだった。
ゆえに俺は。
「ノア。《極光》を再結成しましょう。あとはあんたが私の手を取ってくれたら、再び伝説が始まるわ」
「……分かったよ」
そう言って、俺はフィオナの手を握る。
「一度、脱退してしまった身で偉そうなことは言えないがな。だが、俺はもう一度、《極光》のみんなと戦いたい。再び最強に昇り詰め、俺たちで世界の秩序を取り戻そう」
「ありがとう。あんたなら、そう言ってくれると思ったわ」
握手を交わす俺たち。
あの日見た黄金の光が、再び灯った気がした。
──かつて最強と呼ばれた四人の冒険者がいる。
絶刀の魔導士。
天城の守護者。
鏡槍の姫。
そして──黒滅の剣聖。
だが、黒滅が抜け、その伝説のパーティーの輝きは一度失われた。
残された三人は我が強く、自らの『強さ』に誇りを持っていたが、彼女らが口を揃えて言うことがある。
「「「最強は自分じゃない。最強は黒滅の剣聖だ」」」
──と。
そして今、四つの輝きは交わることになり、空座となった最強の光をこの手に掴み取っていくこととなった。