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34・呪いの光/救いの光

 昔の話をしよう。


 俺には魔法の才があった。

 それが判明した時、俺の両親は大層喜んでくれたものだ。


 しかしすぐに風向きが変わる。

 俺の光魔法は黒く、禍々しい色をしていたからだ。


 こんな光魔法は見たことがない。

 村を訪れた男は「呪われている」と称した。

 どうやら男は有名な魔導士だったらしい。


 それから村人は俺を『呪われた子』と言って、虐げることにした。


 両親とてその例外ではなかった。

 呪われた子を産んでしまったことによる、負い目もあったかもしれない。黒い光魔法しか使えない俺を忌み嫌った。


 俺はすぐに地下に軟禁され、そこでは最低限の食事だけしか与えられなくなった。

 村に災いが起これば、それらの責任は全て俺になすりつけられた。

 そうすることによって責任転嫁をしたかったのだろう。


 毎日ギリギリだった。

 死の危険を感じたことは一度や二度じゃない。


 しかし不思議なことに、死にたいと思わなかった。


 きっと、そんなことを考える余裕もなかったからだろう。


 俺は自分の身を守るために、村人の目を盗んで黒い光魔法を鍛えた。


 そしてとうとう、地下からの脱出に成功する。

 逃げていく最中、俺にあった感情は解放された喜びより、どうしてこんな脱走兵みたいな真似をしなければらないのかという惨めさだった。


 そこで考えた。

 俺のような人間をまた生み出したくない。

 世界中で悲惨な目に遭っている人間を助けたい。


 金を稼がなければ生きていけないという切羽詰まった理由もあった。


 やがて呪われた子は冒険者となり、黒滅の剣聖と呼ばれるまでに至った──。



 ◆ ◆



「お前も辛かったんだよな」


 雲の上にいるであろうイルザに対して、俺は語りかける。


 イルザは俺と同じだ。

 幼い頃から地下に閉じ込められ、村人に虐げられてきた。

 そんな彼女の気持ちが、俺には手に取るように分かる気がした。


「だからお前は俺が救う」


 頼んでない──相手はそう言うかもしれない。


 しかし聞いてからでは遅い。

 俺の黒滅は、俺に関わるものを全て自動的に()()からだ。


 黒滅──発動。


 遥か上空300キロメートル先にいるイルザに、黒色の閃光が──


『ぐあっ!』


 ──届いた。


 斬り裂かれ、イルザから血飛沫が上がる。


「他のみんなは……大丈夫だな」


 周囲に視線をやると、フィオナとライラ、メリッサは穏やかな顔をしていた。


 二年前は暴走させてしまった黒滅。

 しかし今回は俺の大切な人を傷つけることはなかったみたいだ。


 二年前となにが違うんだろう。

 そのことに疑問を覚えるが、今なら答えが分かる気がする。


「守りたいという気持ちが強いからかな──じゃあ、みんな。行ってくる」


 俺がそう言うと、三人は頷いてくれた。


 地面を蹴り、高く跳躍。

 雲を突き抜け、上空にいたイルザの元へと辿り着く。


「こ、黒滅……っ!」


 イルザはもう死に絶え絶えの状況だというのに、剣を構えていた。


 キレイな構えだ。

 この二年間で、死に物狂いになって習得したんだろう。

 悪魔に手を染めなければ、彼女は一流の冒険者として名を馳せていたかもしれない。

 だが、彼女は黒滅の煌めきに心を奪われ、人生を壊されてしまった。


「すぐに楽にしてやる」


 と剣を振り上げる。


 俺には守りたいものがたくさんあった。

 それを実現するためには、俺の体はあまりにも小さすぎる。


 ゆえに俺の黒滅はいつの間にか、世界全てに手が届くようになっていた。


 黒色の光が辺りに拡散し、空を真っ黒に染め上げる。


 それは昔、呪いの光だと言われたもの。

 だが、今は祝福の光となってイルザを包む。


「ああ……やっぱり黒滅はキレイだ。この二年間、貴様と(あい)し合うために生きてきて本当によかった」


 イルザはそう安堵し、しばらく黒滅に見惚れていた。

 やがてゆっくりと目を瞑り、黒滅に身を委ねた──。

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