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18・黒滅に勝つためには(イルザ視点)

 ノアたちの前に姿を現した少女──イルザ。


 彼女は投影機を切った後、近くにいる部下たちにこう告げる。



「今回の件で確信した。黒滅は全盛期に比べて、弱くなった」



 イルザの言葉に、部下の一人が前に乗り出す。


「し、しかし、うちのナンバー2のセシル相手に圧倒していましたよ!? ナンバー2は人格的に少々問題はありましたが、元A級冒険者。そう簡単にやられる人ではないと思いますが……」

「ヤツらも言っていただろう。A級とS級には大きな差がある。ヤツごときで《極光》を止められやしないさ」

「そ、それでも黒滅が人を殺すことに躊躇していなければ、天城が現れるまでもなく決着していました。弱くなったと称するのは、違和感がありますが……」

「人を殺すことを躊躇うなら、それはもう黒滅ではない。全盛期の黒滅は、そんな甘さなど持ち合わせていなかったのだから」


 そう言いながら、イルザは二年前のことを思い出す。


 誰もが黒滅をヒーローだと言った。


 だが、実際は違う。

 二年前の黒滅はいつも殺伐としており、目の前にいる敵は全て皆殺しにする厳しさがあった。


 それに比べ、今はなんということだろうか。


 明確な敵に対しても、全力で黒滅を振るえない。

 あんなのは牙を取られた子犬である。


「とはいえ、それでも黒滅は黒滅だ。このままでは私とて、ヤツには歯が立たないだろいう」


 イルザは自らの無力さに歯軋りした。


「それでも私たちの勝利は揺るがない。()()の悪魔を召喚する手筈は済んでいる。二年前、最強だった《極光》を後一歩まで追い詰めたヤツらがいれば盤石だ。それに……我らには心強い味方がいる。貴様はどう思う?」


 とイルザは部屋の奥に視線を移した。


 薄暗い室内。

 その一番奥で豪奢な椅子に座る、一人の少女がいた。


 詰襟で横に深い切れ込みの入ったドレスに身を包んでいる。合間から見える白い太腿がやけに艶かしい。

 ボディーラインがはっきりと分かるドレスであり、彼女の形の良い大きい胸の双丘も視認出来る。

 薄い紫色の長髪と、左目下のほくろが色気を醸し出している。

 歳はイルザとほぼ同等であるが、幾数もの男性と逢瀬を重ねた大人の女性のような余裕さも兼ね備えていた。


 まるでこの部屋の主は自分だ──そう主張しているかのような少女は、ゆっくりと口を開いた。




「あたしもそう思うわあ。()《極光》のメンバーとして、あたしは黒滅をずっと見てきた。だから断言する。彼は弱くなった」




 彼女の言葉に、イルザは満足したように頷く。


「安心したよ。貴様がそう言うなら、私の勘違いというわけでもなさそうだ。いや、こう言った方がいいか? 鏡槍(きょうそう)の姫──メリッサよ」


 イルザがそう名前を呼ぶと、少女──メリッサの口元が微笑む。


「《影の英雄団》に入ったばっかりのあたしを信じてくれるのね」

「もちろんだ。貴様は我々の()()となってくれた。仲間の言葉を信じるのは、最大の誠意だと思うが?」

「良い心がけだわ。だけど何故かしら。あなたが本心からそう言ってくれているとは、思えないのだけど?」


 メリッサの紫色の瞳が怪しく揺れる。


(こうして彼女に見られていると、全てを見透かされているような気分になるな)


 しかし黒滅、そして《極光》に立ち向かうため、鏡槍の力は必要不可欠だ。

 ゆえにイルザは不快感を堪えて、無表情を取り繕った。


「私が貴様のことを信じていないと?」

「まあ、あたしにはそう思えるわね」

「貴様にそのまま言葉をお返ししよう。そろそろ()()の姿を私たちに見せて欲しいところなんだがなあ?」


 イルザがメリッサに敵意を向ける。

 一方、周りの部下たちは首を傾げた。


 それも仕方がない。

 現在、目の前にいるメリッサは魔法で映し出された虚像ではない。確かに彼女はここにいるのだ。

 それなのに《影の英雄団》の(あるじ)であるイルザのその言葉に、疑問を感じたのだろう。


「なんのことかしら?」

「とぼけるな──と言いたいところだが、まあ貴様の機嫌をこれ以上損ねても、我々に利はない。貴様が我々の前に姿を現してくれる日を、楽しみにしているよ」

「あなたがなにを言ってるか分からないわあ」


 首を斜めに傾けるメリッサ。

 そんなさりげない動作も、男たちを魅了する不思議なオーラがあった。


「あの……イルザ様、本当にいいのですか?」


 部下の一人がイルザにそう質問する。


「なにがだ?」

「本当に鏡槍を仲間なんかに引き入れて。こいつ、元|《極光》のメンバーなんでしょう? なにか考えているんじゃ……」

「うむ、貴様の言うことにも一理ある。だが」


 イルザが軽く手をかざす。


 すると質問してきた男の顔を黒い魔力が纏わりついた。

 男の顔が恐怖で歪んだ途端、彼の顔が内側から爆ぜた。


「言って良いことと悪いことがある。貴様のような不安因子がいたら、鏡槍から信頼を勝ち取れないではないか」


 部下を殺したというのに、イルザは涼しげな表情。


 イルザがこうすることは珍しくないが……他の部下たちも恐れ慄く。

 二人目の犠牲者となりたくないのか、それ以上部下たちが口を挟んでくることはなくなった。


(ふんっ、つまらぬヤツらだ)


 そんな彼らの顔を見渡して、イルザは内心そう吐き捨てた。


「まあ貴様……鏡槍がなにを企んでいても、私には関係ない。しかし余興として問おう。貴様はなにを考えている。どうして《極光》を裏切り、我々|《影の英雄団》についた?」


 試すようなイルザの口調。


 少しでも彼女の意に反したことを言えば、メリッサも先ほどの男のようになってしまうだろう。

 だが、彼女は少しも心を乱した様子は見せず、微笑みを浮かべたままこう答えた。


「何度も言ってるでしょ? あたしは《極光》を裏切ったつもりはない。あたしはいつでもノアの味方。こうすることがノアのためになる。そうなる()()はもう決まっているのだから、あたしは神が用意したシナリオに沿っているだけ」


 これはメリッサが《影の英雄団》にやってきた時にも、聞かされた言葉だった。

 イルザの目から見て、メリッサは全く嘘を吐いていないように思える。


(全く……こいつはどれだけ先の未来を見通しているというのだ?)


 しかしイルザには関係がない。

 計画は滞りなく進んでいる。

 いや……予定通りどころか、最初に予定していたものより多くのものが得られようとしている。イルザの予定よりも早く、黒滅が復活したからだ。


 黒滅の顔を思い浮かべるだけで、イルザはこの上ない至福を感じるのであった。

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