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8 約束

 次の日、私はなにか胸騒ぎがして、しげから受け取った携帯を見た。


 着信一件。

 え?

 時間を見たら、どうも私がお風呂に入ってる間だったらしい。

 全く気が付かなかった。


 折返しかける。

 プルルル プルルル


 出ない。


 どういうこと?


 怖くなって、佳奈に電話した。

「おはよう」


「おはよー。どしたの?」と変わらない返事がきた。


「あのね…しげと連絡とれなくて」と言った。


「……? それで?」


「気になるから、しげの家まで一緒についてきてほしいんだけど、どうかな?」


「それって、どういう……?」

 佳奈は不思議そうな声を出した。

 まぁ、別に電話に出なくても不思議ないでしょ?なぜ家まで?という言葉が見え隠れした。


「あ、うん。そうなんだけども」と言って口籠った。


佳奈は「…まぁ散歩がてら言ってもいいかな」といってくれた。


 しげの自宅は佳奈の最寄り駅から3駅先の駅。

 その駅で待ち合わせして、自宅に向かった。


 途中、佳奈から、「連絡がないっていっても、家にいないなら、どうやって入るの?合鍵なんてないでしょう?」と聞かれた。


「多分、私が最後、置いた場所にあると思う」


 しげは5階建てのマンションの二階に住んでいる。

 しげのポストを鍵を開けて、袋を探した。

 手に紙があたり、がさっと音がした。


「うん、やっぱり」

 私は鍵があってホッとした。


「不精すぎる…」

 佳奈はそういって、一緒に二階の一番奥の部屋に進んだ。


 いちおう部屋のインターフォンを鳴らす。

 ピンポーン‥ピンポーン


 出てくる気配はない。

 鍵を使って部屋に入った。


 玄関には靴が一足ある。


「おはよーしげ、お邪魔するよー?」と佳奈はいい、私とまず入って右の寝室をあけた。


「いないね」

 肩掛けバックがベッドに無造作においてある。

 昨日来ていた上着はかけてあった。


「じゃあ、次」といって、その目の前にあるお風呂の扉を開ける。


「わっ!」と佳奈が驚く。

 私は後ろから恐る恐る見てみると、

 お風呂と洗面所の間にしげが半全裸で倒れていた。


「しげっ!」

 私は駆け寄った。


 佳奈は脈の確認した。

「あ、生きてるよ」


 私はしげに「しげっ、聞こえる?」としげに確認した。


 しげはうぅと唸って、また寝た。


「寝てるね」

「そーだね……」


 とりあえず、しげをなんとか二人で寝室のベットにつれていった。


 そして我々二人はリビングにある椅子に座った。

「はぁ、疲れた。」とため息をつく。

 私は「佳奈、ありがとう。ごめん、慌てさせて」と言った。


「いや、全然いいんだけとさ……原因はこれじゃない?」

 テーブルの上においてあった薄青いペットボトルの水を指した。


「え?」

 佳奈はキッチンに向かい、ガサガサと探し出そうとている。

「コップないの?」と聞くので、「多分、横の棚の下から3段目の引き出しにあるはず」


 佳奈は言われたとおりにコップをみつけて、テーブルの水を注いだ。


「ほら」と言って私にみせた。


 水が青い。

「これ、多分、睡眠導入剤入りの水」

 あぁ、水に溶かすと青くなる薬品なんだ。


「これ飲んで、倒れたんじゃないの?」

 さすが。


 これはしげが準備したのかな?

 考えていると佳奈は、「まぁ、起きたら聞けばいいよ」といった。


「ただなんでしげに何かあったって思ったの?」と佳奈は聞いた。


「あ、いや。メール返信なかったから気になって」

 佳奈は私の顔を見た。


「ふーーん?」と言った。


 そこにピロロンと佳奈の携帯が鳴った。

 佳奈は携帯みて、「風花と先輩から連絡きた」と私に告げた。


「あ、海外行くって連絡したから、その返事なんだけどね」と私に教えてくれた。


 うんうんと頷いていると、リビングの扉がガチャと開いた。


「話し声がすると思えば……おす」

 しげはだるそうにリビングのソファに座る。


「あ、お邪魔してます。」

「おはよーしげ。風呂場で寝てたの、覚えてる?」としげにひらひら手をさせて佳奈が聞いた。


 しげは顔に手をあてて、「……風呂場まで行ったことしか、覚えてない。……あと風呂に入ってないからとりあえず風呂入ってくる」と言って、またリビングから去った。


 佳奈は「睡眠困るほど、そんなにショックなことでもあったの?」と言った。

 「いや、わからないよ」と私は首を振った。

 

 しげはシャワーだけ浴びたのか、スエットにTシャツという姿で戻ってきて、「はぁー。ありがとう」としげは言った。


 そこに佳奈はすぐに「はい?どゆこと?」とツッコミを入れる。


「間違って、足滑らせてそのまま寝たっぽい」というしげに「はぁーー!?」と佳奈はオーバーリアクションを取った。


「え、いやいや。そうだよ」と肯定するので、「しげ、昨日、お風呂入る前にこの水飲んだよね?」と聞いた。


「え、一口飲んだけど?」


 はぁとため息ついて、佳奈は言う。

「あのさ、この水、水じゃないってわかって飲んだ?」


「え??あ、………そうか」としげは声を出した。

「間違えて飲んだ」


 佳奈は「じゃあ、日常的に常用してるってこと?飲み方間違ってるけど」と咎めた。


「すみません」と素直に謝るしげ。


「あやしい。見たところ、わかってて飲んだと思ってないと見えるけど。ねぇ、光」

 私のほうを向いて言った。


「……そうだね」

 同意してしまった。


「まぁ、ほんと心配させてごめん。もう大丈夫だから。……来てくれて、ありがとう」

 そう言われて、佳奈と二人で家を出た。


 佳奈は帰り道でも、「なんかあやしい。何か隠してる気がする」と言い続けており、「しげに何かあったとわかるサインあったんじゃないの?」と私にも聞いた。


「連絡がとれなくて……」

「ふーーん、そういう返事?ふぅ、それにしても朝からバタバタ疲れたわ」と言い、そのまま、駅前のカフェに入り、朝ごはんを二人で食べた。


 そうしたら、しげから「まだ近くにいる?」と連絡がきた。


 カフェにいると言ったら、「今から行く」というので、来るのを待った。


 しげはアイスコーヒーを手に持ってきた。

 どうも走ってきたようで、額に汗が見える。


「意外と早かったね」と佳奈は言った。


「まぁな。野球で……いや、言いたいことは、そういうことじゃなくて…」としげは佳奈に紙を渡した。


 『俺、誰かに狙われてる。予定も把握されてて、口頭で話せない。とりあえず、これ別の電話番号。よろしく』と書いてある。

 これを佳奈に渡しにきたようだ。


 佳奈は読んで納得したのか、「そういえばさ、昨日、光がメッセージ送ったと聞いたけど…それは読んだ?」と全然違う話を振った。


 しげは驚き、携帯を開いた。

 携帯を見ながら、「読んでなかった…えっ?」と驚いた。


 佳奈は私の肩を触って、「よくわかんないけど、今日も暇なんでしょ?」と言った。


 しげは「夕方、友達と飲み。それまでなら……」


 佳奈はまた私をみて、「まぁ、じゃあ私は帰るんで。命の恩人を接待、差し上げて」と、とんでもないことを言い出した。


「ちょっと」と二人で声をあげてしまった。

 そして、私をみて、

「メール来なくて心配だったんでしょ?」と佳奈はつっこんだ。


「う、うん」とつい、頷いてしまった。


 ふあぁと大きくあくびをし、佳奈は、「じゃあ、もう私帰るね。準備あるから暇じゃないし」と言って、コーヒーを飲み干して席を立った。


 しげと私は取り残されて、「じゃあ、このあと、どうする?」としげに聞かれた。


 部屋着の人とどこに出かけるって、ノープランだけど、どこと答えればいいんだろうと考えてたら、「うーん、じゃあ近場で申し訳ないけど、そのまま海、行くか」としげは言った。


 駅の反対側から少し歩くと海がある。

 綺麗ではないが、浅瀬もあり、この辺のスポットの一つ。


 私達はカフェを出て、何も話さず、歩いて海に向かった。


 海岸、波打ち際近くのコンクリートに2人とも座った。波の音がする。


「……助かったよ」としげは言った。


「まさか佳奈も来るとは思わなかったけど‥」というので、私は「ごめん…知られたくなかったよね」と言った。


「佳奈に隠したかったわけじゃない。信用してるよ。ただ家だと盗聴されてたら、と思ったら言えなかった」

 そうだよね。

 飲み物にどうやって入れたかわからないけど、現に家の中で事件は起きてる。

 家が安心できる場所じゃない、と私は心でつぶやいた。


 少し間を空けて、「……結果的によかったと思ってる」としげは言った。


「うん…」

 私は頷いた。


 しげは真正面の海を見ながら、「ほんとは、光だって巻き込んじゃいけないって思ってた。俺さ、しつこかっただろ?光が何も言わないことに甘えてさ。真梨恵ちゃんも、光が嫌がる素振りしたら、もう誘わないからってずっと言われてたから直接連絡はずっと控えてた。……でも、狙われてさ、最後だとして誰に伝えたいか考えたんだ。それで‥手紙を渡した」と話した。


 そうだったんだと私は真梨恵の優しさとしげの思いを感じた。


 私も、ちゃんと伝えなければ……と思って、立ち上がった。


「どうした?」

 しげは私に聞いた。


 私はしげをおいて、そのまま海のほうに歩いて、「迷惑、なんかじゃない。私は……しげに笑っていてほしい」と、今の精一杯の気持ちを言った。


 振り向けない。

 どんな顔しているか……付き合えないのに、そんな資格ないのに、縛り付けるような言葉を言う私のひどい顔を見せたくない。

 そう思った。


 ふわっと、しげにしげの持ってきたマウンテンパーカをかけられ、後ろから抱きしめられた。

「いきなり、ごめん。嫌だったら‥言って。こっちを向きたくないならいい………俺、光のことを大切に思ってる」


 永遠のような、そんな時間。

 昼過ぎの春の海は風が強くて、少し寒い。

 自分の中の渦巻く気持ちのよう。


 いつまでも、抱きしめてよ……。

 せめて、気持ちは言えなくても、伝えたい。

 私は彼の手に自分の手を重ねて、ぎゅっとした。


 しげは少し驚いたような反応をしたが、その後、彼は私のそれぞれの手をにぎり、「光‥‥俺さ、絶対に、生き残るから。そしたら、また海に来よう」と言った。

 そして、「俺、奴らと決着をつける」と決心を告げた。


 私は振り返り、しげの目を見た。

「しげ……」

 しげは、私の頭をなでなでして、「安心して。大丈夫だから」といって、指切りげんまんし、「また海に来よう」と約束した。

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