表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

6 待ちに待った日

 昨日、恒星くんと飲んですっかり遅くなって佳奈にすっかり返信を忘れて、週末になってしまった。


 朝ごはんを食べながら、これは今回は流れた?と思っていた所に連絡がきた。


−−−−

おはよー。

返信ないけど、予定が明日に変わりました。空いてる?

ちなみに、チケット取ったらしいよ涙

ありえない。何かごちそうしてもらう。

−−−−


 連絡にほっとする。

 予定変更。

 佳奈は驚いてるけど、私はそういえば、と手紙を思いだす。

 多分、しげのことだから、二人がノーだったら、別の人を誘っていると思う。

 私は返信した。


−−−−

佳奈、返信しなくてごめん。

明日1日、空いてるよ。

----


 佳奈からも連絡がすぐにきた。


----

じゃあ、明日の10時に神保町駅に集合で。

----


−−−−

オッケー。

----


 早めにしげと佳奈と会えると思ったら、嬉しくなった。


 掃除と溜まった洗濯し、化粧と買い物して、今日やるべきことを頭の中でリストアップした。


 まずは肩の下辺りまで伸びた髪を結ぶ。

 マスクをして、部屋の窓を開けて、空気を入れ替える。春の強い風が入ってくる。


 シーツをとって他の洗濯物と合わせて、洗う。その間に床を拭き、掃除機をかける。そして水廻りを掃除した。ここまでが午前中。


 食パンでサンドイッチを作り、軽くランチして、化粧をする。

 買い物で自転車にのり、近くのスーパーとドラッグストアに向かう。


 スーパーで春キャベツと新たまねぎを手に取る。

 そして、夜ご飯のメニューを考えながら、大学時代に、バイトしてたお店を思いだす。


 マスター元気かな?


 私のバイト先は街の小さなレストラン。

 大学生になって、一人暮らしして、夜ご飯に困った私は賄い目当てにそこでアルバイトを始めた。包丁は小学校の家庭科以来で右も左もわからない私にマスターは驚きつつも、料理の基本を一から十まで教えてもらった。


 旬の野菜や、肉や魚の部位、調味料の種類を覚え、最終的に新メニューを考える所まで私は成長した。


 そういえば、メニュー考えるのに、キッチン借りて何度も試作したこともあった。

 ある日は、しげにもきてもらって、試食してもらった。


 びっくりするほど美味しくない食べ物を作り出して、『これは地球の食べものか?』と言われたり、あわや鍋を落としそうになって、しげが私の後ろから私ごと鍋を抱えてくれて、『なんか壁ドンみたいになったなぁ』と言って笑った日々を思い出す。


 そしてマスターに『随分、料理、上達したね。新作発表会として、皆を呼んで食べてもらおう』と提案して皆にきてもらった日。


 西園寺先輩、真梨恵、佳奈、風花、恒星くんに………しげ、私の大好きな友人たち。


 久々にお店に顔を出したいな。

 ちょうど三連休だし。

 どこかでご飯を食べに行こう、そう思いながら、レジに向かった。


 夜は春キャベツのスパゲティとコンソメスープを作った。

 食べながら、珍しく母の『食べることは生きること』という言葉を思い出す。


 以前は考えないように蓋をしていた両親の記憶。


 私は中学生から、全寮制の学校に入ったから、両親との思い出はほとんど小学校時代の話。


 二人共、仕事で忙しかった。

 私は勉強で困ったことはなかったけれども、小学校低学年は体が弱かった。

 母は看病してくれて、寝ないで仕事をすることも多かった。


 そして言われた言葉。

『食べることは生きること』

 それから嫌いなものがあっても、自分に言い聞かせて食べてきた。今はほとんど食べられないものはないけれど、時々、料理を見ると思い出す。


 そして父のことも思い出す。

 父は仕事が大好きだった。

 私が物心つかない時から、私に化学の原子や分子、遺伝子の話をし、パズルにしてよくクイズを出してくれた。


 全然、クイズが解けなくて泣いた。

 泣いても答えを教えてくれることはなかった。

『物事は自分で考えることが大事なんだよ。』と笑って。


 両親が亡くなった時、私は帰る場所を無くした。

 家という住み家はあるが、そこには誰もいない。


 忙しくてもいいから、年に数回しか会えなくてもいいから、会いたかった。


 両親の事故で心を閉ざした私に、真梨恵が「家族になろう。」と言ってくれた。

 高校に入ったばかりで、家族の定義もよくわからず、この先、ずっと一緒だからと、交際する男性は次々に変わるけど、家族は変わらない!という真梨恵を心強く感じた。


 だから真梨恵がいなくなって、心にぽっかりとした穴はそこにある。

 深くて底は見えない。

 でも私は一人じゃない。

 大事な友人がいる。


 だから、少しずつ、強くなって、もう終わったことを後悔しない。

 起こってしまった出来事に悲しんでばかりしない。

 今、自分にできる最大限の努力として、亡くなった人を思い出して、感謝し、弔いたいと思った。


「ごちそうさまでした」

 そういって、夕食を終えた。


 次の日曜日は良い天気。

 お散歩日和。


 私は髪をふんわりまとめてバレッタで留めた。ストレートジーンズに黒いTシャツをきて、カーディガンを羽織り、少し早く駅に到着した。


 まだ到着してないはず……と思ったら、カーキのマウンテンパーカーに黒いチノパンを履いたしげが先にいた。


 携帯を見ていて、私に気づかないしげに私は挨拶した。

「おはよう」


 その声で顔を挙げて、「はよー。早いな」と声をかけてきて、続けて、「まだちょっと肌寒いな」と言った。


「そうだね」

 私は相槌を打ち、会話は途切れる。


 一週間ぶりだね。

 どうしてた?

 眠れてる?

 佳奈と電話したってきいたよ。

 誘ってくれてありがとう。


 たくさんの言葉が頭の中で響く。

 でも、何一つ、声にできない。


「………まだ時間あるから、コーヒー買いに行くか?」

 そう、声をかけられた。


 何も会話はないまま、駅近くの喫茶店に入り、注文する。


「ブレンドと、光は?」と聞かれる。

「カフェオレをお願いします」


 お会計はまとめて支払ってもらったので、

「今、払うね」と財布を出そうとしたら、「いや、いいよ、これぐらい。ご馳走するよ」としげは言った。


「ありがとう」と私は言ってカフェオレを受け取った。


 久々に二人きりだけど、全然、会話がない。

 冗談もない。

 何か重苦しくて辛い。


 何か、話そうと思った時、「そういえば………佳奈、海外に行くんだって。光、知ってた?」と唐突に、しげは言った。


「え………」

 知らなかった。

 そういえば、先週、仕事を誘おうとしてくれていたけど、それは海外の話だったのかな。

 私がびっくりした様子でいると、「あ、まだ、だったか………ごめん」としげに謝られた。


 謝る必要はない。今週、佳奈に返信しなかったのは私。

 佳奈は忙しいと思って言わなかったに違いない。

「……………いや」


 でもその後の一言の衝撃が強かった。

「あの、それを伝えたいわけじゃなくて、佳奈が海外に行ったら、多分、もうさ、俺たち、会うことがほとんど無くなるよな………」

としげは、そう、しげは言った。


 言葉が出なかった。

「…………」


 確かに。

 私達が今、会うのは友人を通してでしかない。

 風花はしげと私が別れてから、交流自体を反対していることもあり、そもそも誘いに乗らないし、西園寺先輩としげは別に仲が悪いわけではないけど、特段、良いわけでもなく、会えば話す程度だ。

 恒星くんは先輩は呼ぶかもしれないけど、しげと会話してるのをほとんど見たことない。


 しげは佳奈とは会話のテンポが同じで、二人で漫才してるような、そんな関係であったから今日のようなチャンスに、恵まれたのだ。


 昨日の、うきうきした気分が一気に冷めた。

 でも、なんとか何か言わなければ、と、「そう、だね」

 絞り出した言葉はしげの言葉への肯定。


 しげが私の言葉をどう捉えたのかわからないが、私のほうを向いて彼はいつになく真剣に、「今までありがとう」と言った。


 私は声を出せないほど落ち込んでいたけれど、絞り出して、一言言った。

「………こちらこそ」


 ちらっと私をみて、「今日はさ、だから、皆で楽しもう。1日、早くしてもらったのも、明日を考えずに遊びたかったから、なんだ」


 そうだったんだ。

 涙が出そうになるのを抑えて、「うん」と、答えた。


 そして、急に手を振りだして、「佳奈、きたな。おっはー!」

 佳奈にしげが元気よく挨拶した。


 今日の佳奈は、長い髪の毛、てっぺんお団子のサングラスに、ライダースジャケット、白いTシャツにスキニージーンズ。うん、この時期のいつもの服。


「おはよー。しげ、子供みたいで恥ずかしいからやめて」とテンション低めの登場。


 本屋が開店するまで、しげのタバコ一服を兼ねて、そのまま近くの公園に行った。


 佳奈はバックからごそごそと、古そうなB6の分厚いノートを取り出した。

「光に渡そうと思って持ってきた。受け取って」


「?………日記帳?」

 それは佳奈の日記のようだ。

 一枚目をひらくと、その始まりは10年前高校時代からのもの。

「そう。寮からのもの」


「ついにね、海外で働くことにしたんだ。やっぱり裁量の範囲が広くて、自由に仕事したくなって」


「うん」


「これはお守り」


「日記10年書いたの?佳奈、すげー。何、書いてあるの?」としげがじろじろとみた。


「光と私と友人の秘密が詰まってる。見せないよ」とニコっと佳奈は笑った。


「荷物の整理してて、読み始めたら、止んなくて、これは光にぜひ!と思って」

 渡されて、重さにびっくりする。


「重っ………10年の重さ」と私が言う。


「でしょ!私とあの部屋の軌跡だよ。まぁ、それは重いから歩く間はしげに持ってもらおう!」と私の手にあった本を袋にいれて、しげに渡す。


「げぇ、まじでぇー!?」

 しげは嫌そうな顔をした。


「向こうは6月勤務なんだけど、4月の中旬には行くから、二人共、お見送り、よろしく♡」


「はいはい……」

 荷物をバックにしまいながら、返事するしげ。


 私は心を落ち着けて、「・・・わかった・・・おめでとう」と言った。

 私の目から涙が溢れていた、


 そんな私を佳奈は抱きしめて、「離れていても友人だから」と私の背中を擦ってくれた。


 そうだ、これは門出。

 同じ学部だったけど、専攻は私と違い、生命工学という遺伝子に与える影響について学び、研究から開発まで実施可能な会社に就職した。

 ただ日本においては大きな企業になるほど研究と開発は独立しており、裁量範囲は限られている。そういう環境において、佳奈は就職するときから、海外での仕事を念頭において、仕事してきたことを知っている。


 だから嬉しく思う。

 その反面、佳奈とも、しげともあまり会えなくなることに私は悲しくなった。


「佳奈、会いに行くからね」

 うんうんと佳奈は頷く。


 そして、3人で神保町をぶらぶら。

 佳奈が専門書が見たいとその本屋で分厚い参考書を購入し、またしてもしげに袋に入れてとお願いする。


「荷物持ちかよ」とつぶやくしげに、「じゃなきゃ、野球観戦なんてしないけど」と強く佳奈は言った。


 嫌嫌オッケーもらったからなのか、「そーですよね。ありがたく、持たせていただきやす」としげはうやうやしく佳奈に言った。


 それをみた佳奈は「お昼はカレーがいい。しげ、混みそうだからみてきてほしい」といって、そのまましげをお店に並ばせた。


「家来かよ?」とカレーを食べながら、悪態をつくしげ。


「私の一時間、高いよ?」と迫る佳奈。


 早めに並んだおかげでお店にはすぐに入れた。

「俺に感謝して」と言い続けるしげを横目に、「うわー、ここのカレーに満足」と佳奈は笑顔になって、「夜は、『和風洋風』がいいなぁ、光」と声をかけてきた。


 そこは私の元アルバイト先。

「そっか、私もちょうど行きたいと思ってた。ご飯食べたら、連絡してみる」と私は声をかけた。


「『和風洋風』かぁ……俺等、マスターに別れたこと話したっけ?」としげは言い出して、私をみる。


「………言ってない」

 修士終わり間近は論文で、バイトは短時間。そして最後は皆で会っていたから、そんな話をする機会はなかった。


 佳奈が、「まぁ、いいじゃん。いちいち言わなくても」とめんどくさそうに突っ込む。


「あっそう。いいんだ?」とにやつくしげ。


「人前だし、変なことを光に言わない前提での話だけどね」と佳奈は釘をさした。


「はいはい〜」としげは受け流し、じゃあ、俺が連絡するわと携帯をもって外に出た。


 そして午後お昼すぎから野球観戦。

 しげはビールを持ちつつ、野球をみる。

「しげは野球してたの?」と佳奈が聞く。

「そう。リトルリーグと中学でね。あ、中学はテニスと野球の掛け持ちだよ」


「その頃から、二股賭けてるの?じゃあ、今でも草野球するの?」という問いには、二股部分をスルーして、まぁね。足早いぜ!と試合を見ながら、しげは言った。


 私も連れて行ってもらった。

 草野球チームの練習試合。

 ノリがよくて、付き合いがいいから意外と交友関係は広い。


 物事に執着がないようで、喧嘩もしないし、注意されても、適当に受け流す。


 モテるほどのかっこよさはないけど、仕事も順調そうだし、女性と話す機会も多そうだし、彼なら付き合う女性がいてもおかしくないと思うけど・・私のことを気にしてる素振りも実は演技で、もう 実は彼女いるんだろうか。


 そうだったら、わざわざ先週の相談することもないよね?と自分の中でぐるぐると考える。


「よしっ!打て!」とマウンドに向かって真剣な表情でしげは言った。


 横顔見るの、久々だな。

 私はしげと佳奈のツーショットをとった。


「なに?光?惚れた?」

「光、何でしげと!?」と二人で一斉にいうので、「記念に」と私は笑った。


 途中で私と佳奈は飲み物を買いに行った。

「バットにボールを当てるってすごいよね。テニスの面より、ずっと面積少ないのに」と佳奈は言った。


「私はテニスもボールあてるまで大変だったよ」と返した。


「あは、ごめん。光のテニス、懐かしい」

 自販機で、私は桃味の水、佳奈は炭酸水を購入した。ペットボトルを拾い、一つを佳奈に渡した。


「ありがとー、光。何に悩んでるかわかんないけど、しげにちゃんと気持ちを伝えなよ」と佳奈は言った。


 私はびっくりして、佳奈の顔を見た。

「写真撮っただけで満足してどーするの」と言って、にこっと笑い、「そろそろ良い機会じゃない?」と言う。


 そうか、と私は納得した。

 佳奈はだからしげに先に海外行きを告げたんだ。佳奈はしげと私をくっつけるために今日を作ってくれたんだ。

 優しさに涙が出てきそうになる。


 でも、一回、付き合えただけで私は十分、理解した。私こそ、そろそろ、しげを開放しなくちゃいけない。


「佳奈。佳奈とは好きかどうかというのは話題にならないじゃない?でもどうしてしげとの場合は好きかどうかが大事なのかな」

 素直な気持ちを言う。


「光は真面目だね。まぁ、目的によるよね。しげの光ヘの好きは恋人になるの意味でしょ?私の場合は友人でその前提は好きであることだから話題にならないんじゃないかな。あ………そういうことね」

 佳奈は何かを察したようだ。

 そして言った。

「光としげの目的は一致しないのか。難しいね」

 

「うーん、気持ちはわかるよ。ただ、話を戻して悪いけど、しげにそれも含めて、ちゃんと話してみたら?と私は思ってるよ」

 佳奈は私の中の問題に触れずに、しげとの関係について、アドバイスくれた。


「………そっか。考えてみる」

 佳奈には敵わない。

 近くにいて、同じ速度で歩いていたと思っていたのに、遠くのほうから私を引っ張ってくれている。


 そしてしげと合流し、試合も終わったので、夕食を食べに元アルバイト先に移動した。


 カランカランと扉をあけると、

 キッチンからマスターが出てきてくれた。


「ひかりちゃん、待ってたよ。元気だった?」


「ご無沙汰してます。えぇ、意外と元気です」

 よかったよかった。座ってと言った。


「マスター、私、鍋焼きうどん」と元気よく佳奈は伝えた。


「かなちゃん、早いなぁ。気合入れて、ハンバーグにしようと思ってたけど」と笑っていうマスターに「鍋焼きは今度にして、ハンバーグで!」といい、メニューをさっさと下げた。


 佳奈の向かいにしげが座り、私は佳奈の隣に座った。


「その位置でいいの?」としげが突っ込む。

 言いたくないんでしょ?という素振りで、佳奈と変われと合図してきた。


 佳奈も、「めんどくさ〜」と言いながら、変わってくれた。


「なんか久々だなぁ。なんも変わってない」と周囲を見回し、しげが言う。


「そういえば、佳奈と光は中学校から同じなんだっけ?」と聞いた。


 佳奈が「高校からね」と訂正し、「中学から同じなのは、真梨恵。高校の寮で真梨恵と光と私ともう一人の四人で一緒だったんだよね」と説明した。


「真梨恵ちゃんと光より、佳奈と光がしっくりするわー」というしげに、佳奈は突っ込んだ。

「気持ちはわかる。真梨恵の破天荒さと光の真面目さは両極端でペアに見えない」

 そうそう!と突っ込むしげ。


「まぁ、光も真梨恵に劣らず、破天荒な所あるよね?」と私にむかって、佳奈は笑いながらいう。


「そうなん?」としげから突っ込まれて、「え?佳奈??」と戻してしまう。


「私、初めて話した時、衝撃だったよ。寮で猫飼おうとする人たち」


 しげが、「あぁ、クロのこと」


 私もしげと一緒にあぁと言ってしまった。

 うん、真梨恵に押し切られて飼うことになって、私はうん、思えば猫飼う点について、全然、違和感なかったわ。あったのは、佳奈と由衣が納得するか、だけだった。


「クロ、元気?」と佳奈は私に聞いた。


「うーん、それが老齢になってきて元気ないみたい。そろそろ山田さんも世話が大変になってきて、クロの引き取りを考えてたところ」と私は言った。


「そうなんだ……」

 ちょっと寂しそうな佳奈。


「しばらく離れる前に会いたいな」とつぶやいた。


「じゃあ、食べたら会いに行こうよ」としげが言う。


「えぇ?」


「いいじゃん、今日、遊び尽くす日だし、明日も休みだし。……ダメ?」


 久々に実家に帰る。

 でも二人が一緒なら大丈夫かな?

「わかった、いいよ」


 しげと佳奈、二人でハイタッチ。


 そこにマスターが料理を持ってきた。


 けっこう歩いてお腹が空いていた私達はすぐに食べ終わった。


 佳奈の話をきいて、料理をご馳走するというマスターに、私はそれならば、せめて皿洗いさせてくださいと言い、キッチンで皿を洗った。


 洗いながら、マスターに、「しげくん、佳奈ちゃんが海外行くから、ひかりちゃん寂しそうって話してたよ。まぁさ、時々、二人で食べにきてよ。おじさんも嬉しいし、人間関係ていうのは持ちつ持たれつだから。」と声をかけられた。


 しげ、もう私が一人にならないように気を遣いすぎ。


「ご馳走様でした〜!」という佳奈にも、マスターは「これからどこいくの?・・・猫に会いに行く?」と店の奥からキャットフードとか食べ物をくれた。

 家で猫を飼っているらしく、今度、写真見せてと言われた。


 電車に乗り、30分ぐらいのベットタウンに私の実家はある。


 少し高台の一軒家。

 ガレージがあり、その上に二階建ての家が建っている。


 山田さんにも挨拶し、猫を引き取る方向であることを伝え、早速、ガレージに向かう。


「ここが光の家なんだね」

 つんつんとしげにする佳奈。


「俺も、初めて。えっと、お邪魔します」といい、クロがごろんとしているガレージのソファーに座る。


「ふてぶてしさが変わってない。どうして真梨恵はこの子を拾ってきたのかな」と笑顔で言った。


「一人で生きていけそうだけど、そうじゃない、私はこの子を飼いたいと言ってたよ、確か」と私は真梨恵のフォローをする。


「つまり、一目惚れってことだね」

 そうかもね。


 クロを恐る恐る触るしげ。

「生き物って、触ると壊れそう」


 餌も与え、これから焦らず、山田さんから引き継ごう。クロに、待たせたね、よろしくねと、伝え、3人で家の中に移動した。


 両親がなくなり、一年ぐらいで空き巣にあい、その掃除でだいたいのものを捨てたから、部屋の中はきれいな状態だった。


「お、邪魔します」

「お邪魔しまーす」

 しーんとした部屋に二人の声がひびく。


 私は玄関で電気をうけて、リビングの窓を開けた。


 そしてリビングにある祭壇の、ローソクに火をつけて線香で父と母を弔った。二人も倣って、線香をあげてくれた。


「あれ?光のご両親て、あの研究所の事故で亡くなられたんだっけ?」と佳奈がきいてきた。


「うん、そう」


「何の研究してたの?」と研究者らしいことをきく。


「生命工学で遺伝子とかゲノムとかの研究とか聞いた」


 本棚をみて、「なんかそういうところかと思った。ちょっと私のやってるところと被ってる気がする」


 しげは「難しすぎてよくわかんない。俺はこのパズルする」と子供の頃、私がやっていたパズルをとり、やり始めた。


「高校入ってすぐかぁ。全然、わからなかった」

 結衣に言われたセリフを佳奈から聞く。


「佳奈には勉強教えてもらったり、一緒に読書して、今の私は佳奈からの贈り物で出来てるよ」と私は言った。


「私も楽しかったよ。あの寮は皆の大事な場所だったよね」

 うん、そうだね、と、うなづく。


「居場所はココにあるから、安心して」と胸をたたいて佳奈は私を抱きしめた。


 そこでやったー!と声がした。

「パスル解けた!」


 みてみると、しげの手にあったルービックキューブが開いていた。


「これ、からくり時計みたいだね」と私に言う。


 私は中身をみて、驚いた。

 中に次のパズルの場所のメモが入っていたから。

「光、このメモは?」


 これは、父の字だ。パズルの中にパズルをいれていたんだ。

 全然、気が付かなかった。

「父からの挑戦状」

 私はそう答え、新たなパズルをみつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ