29 それぞれの思い
『恒星くん、もし恒星が私を強いと思うのならば、先輩も同じなんじゃないかな』
私のその言葉に大きく目を開いて驚いた様子で、恒星くんは私をみて「ひかりさんが強いなら、海斗さんも強いとは?」と聞いた。
私は説明した。
「以前、飲んだときに、恒星くん、私と先輩は似てるって話、したよね?」
恒星くんは少し考え込んで、思い出したのか「あぁ、はい」と頷いた。
私は息を吸って、伝えた。
「恒星くんの、言う通りだと思う」
恒星くんは顔が綻んだ。
そして中断していた食事を食べ始めた。
恒星くんは食べながら、私に聞いた。
「ひかりさんは海斗さんにどんな誤解をしていたんですか?」
「真理恵がいた時、私は先輩と大学から会社まで同じだけど、ほとんど話す機会がなかった。だからね、先輩は私のことを真理恵の友人ぐらいの認識なのかと思ってた」と私は当時の思いを話した。
恒星くんは静かに頷いて聞いてくれる。
「でも、そんなこと、なかった。先輩にとっても大事な場所で皆、大事な友人だと思っているんだって、やっと、ね、理解したの」私は私の思いを恒星くんに素直に伝えた。
恒星くんも私の言葉に加えて、言った。
「気がついてなかったかもしれませんけどね、皆、海斗さんを特別扱いしない、西園寺という名前を意識しなかった。だから海斗さんは皆と自然体で付き合っていたし、大事な空間と思っていると思います」
真理恵がいなくなって、そしてその結果、自分自身でそのグループのメンバーに手をかけることになった先輩はどんな気持ちで過ごしているんだろう。
それなのに、自分のことよりも、私のことを気にして心配している先輩。
しげと佳奈がいなくなって倒れた日、先輩が私の前で言った言葉を思い出す。
『狭山の……狭山の感じていることを、悲しみを分けてほしいんだ……そんなに頼りない……友人なの?』と言った先輩の悲しそうな顔。
食事を終えて、お箸をおいてから恒星くんは呟いた。
「だから、僕は心配なんでしょうね」
「ひかりさんは近くにいるから、お互いフォローできるじゃないですか。でも、あの人は一人でいる」
恒星くんは窓を見ながら、先輩のことを考えているように、言った。
私は恒星くんに聞いた。
「だから強いかもしれないけど、弱いかもしれないと思った?」
恒星くんは頷いて、こう言った。
「せめて、弱音でもいいから、言ってくれたら」
そして恒星くんはすごく悲しそうな顔をした。
恒星くん、私ね、先輩の弱み、わかってしまった。
似ているからこそ、今、先輩の気持ちがはっきりわかる。
先輩は恒星くんに弱みを見せないようにしてる。きっと先輩は恒星くんに自分勝手なドロドロの感情を見せたくない。
先輩はきっと恒星くんの前で強がっている。
私がしげに対してそうしたように。
それはね、恒星くんが先輩にとって大事な存在だから。
先輩は恒星くんのことを大きな、きっと見えないぐらい大きな愛で包んでる。
私は微笑んで穏やかに恒星くんに伝えた。
「恒星くん、弱音を出していなくても、先輩は恒星くんに支えられてるよ。形は違うし、見えないかもしれないけど…」
心の中で呟いた。
大丈夫、二人は相思相愛だよ。
恒星くんは「ひかりさん…ありがとうございます」と言って、微笑んでくれた。
「ううん。私もね、恒星くんが前にアドバイスしてくれたとおり、これから先輩に思ったことを伝えていこうと思っているよ」
恒星くんは頷いた。
その姿を見て、「さて、食器の片付けと洗い物、しようかな」と私は席を立って言った。
洗い物をしながら、私はどうしたら皆にとっていい方法があるか、考えていた。
そうして、ふと恒星くんのファーストキスの思い出を思い出していた。
先輩が言ったという言葉。
『俺が俺である意味なんて一つもないんだよ。…だから、俺がここにいるっていう証拠を作っただけだ』
私も同じ。
クローン(もどき)で、私の遺伝子、ひいては私という生きた人間の治験が必要なだけで、私が私である意味なんてない。
私がここにいるっていう証拠がほしい。




