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海とまぼろし-IdentityCrisis Missing  作者: MERO


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27 事件の全貌

 無言になった後、私はそのまま一部始終を聞いた。

 人の性行為を覗き聞くことになるなんて、気持ち悪くて気分は最悪になった。


 途中で、イヤホンから電話が聞こえた。

 そしてばたばたと音がする。

「はい………海斗です。…今からですか?…わかりました」


 がさがさと音がして、先輩は言う。

「父から呼び出し。………家に行くことになった」


「………どうぞ、ご自由に」

 力なく、恒星くんは言った。


 私はそこで盗聴器をOFFにして、携帯のGPSに切り替えた。


 西園寺先輩は、電車で自宅に戻ったと思ったら、今度はタクシーで世田谷区のある場所に向かった。


 私はその場所をググると、どうも西園寺先輩の実家のある場所のようだった。

 ここからまた盗聴器をONにする。


「海斗様、おかえりなさいませ」

 扉をあけた音がして声がする。


「ただいま。父はどちらですか。」

 海斗先輩は言った。


「…応接室にお呼びしますので、そちらでお待ち下さい」

 その声は感情のこもらない言葉で説明した。


 先輩は少し間を空けて回答した。

「………わかりました」


 応接間に移動した先輩は椅子に座った。

 椅子に座る際、ボトッとにぶい低い音が聞こえたが、先輩は気づかなかったのか、そのまましばらく一人で待っていた。


 そこにがやがやと複数の人が応接室に入ってくる音がした。


「海斗、遅いぞ。もう時間がないから手短にしてくれ」と男性の声。テレビの政治演説で聞いたことがある声。きっと父親だと思う。


「はい」

 海斗先輩が言う。


「狭山の娘の件は、状況はどうだ。二人整理して、病気になんてなってないだろうな。貴重な研究成果物を潰すなよ」と父親は言った。


「はい、問題ありません。手は打っているので、もう次は………不要です」

 海斗先輩はすらすらと力強く答えた。


「狭山の娘って、昨日の結婚式に友人として参列していた子だよな。………横の男がいたが…海斗、まさか自分の知り合いをあてがったのか」

別の男性の声が馬鹿にしたように言う。


「………」

 海斗先輩はその質問に答えなかった。


「問題なければ、いい。お前が全て管理するといったんだ。知り合いだろうが、なんだろうが、何かあれば責任は取ってもらう」と父親。


 先輩は、はいと繰り返した。


「ほんとにうまくいっているんですかね。甘々の末っ子気質で今まで機会が何度もあったはずなのに、今更ですからね。お父さん、ここまで時間かけて、何回も失敗したんですから、ペナルティはないんですか」

 もう一人の男性は強く抗議をした。


 それに対して冷静に父親は言う。

「もうすでにそれは考えている。それが2番めの話だ」


「………」

 先輩から声はない。


「結婚相手は狭山の娘でもいいかと思っていたが、予定通り、秋元の娘と結婚することはもう既に伝わっているな」と父親は言う。


「はい」


「秋元食品の創設者である秋元と繋がればまた一族のネットワークは広くなる。接続役として、きちんと仕事をしてくれ」

 父親はしてくれとはいうものの、気持ちは全くこもっていない言い方をした。


「わかっています」

 先輩も気持ちの無い返事に聞こえた。


「結婚、早々に秋元食品の人員を整理する。陸斗と一緒に対応してくれ」と父親が言う。

 話を聞くともう一人は弟の陸斗だったらしい。


「私一人で十分です」

 陸斗は言う。


「陸斗、海斗に手順を教えてやってくれ。お前には別の仕事をさせたいからな、可能なことは全部海斗に回せ。」父親は陸斗に指示を出した。


「そうですか、それであれば。彼にできるかわかりませんけどね。海斗、俺の足を引っ張るなよ」弟は高圧的に言う。


「………ああ」

 先輩は力なく返事をした。


「海斗への話は以上だ。陸斗は残れ」

どうもキーケースはそのまま音を拾った。

 扉の音がしたので、先輩が部屋を出ていったようだ。


 父親は扉が閉まった後で話しだした。

「陸斗。海斗にかまうな。あいつは一族の落ちこぼれだからほうっておけ。お前は教授の後始末をしてほしい」


「でも、海斗はあの女の近くにいるのに、今まで家に全く関わってこなかった。そんなあいつに仕事を振るなんて」と陸斗が言った。


「陸斗を馬鹿にしてると?海斗は単なる駒、だから今までの経緯もこの先も何も知らせてない。ただの作業員だよ。この機会にやる気になったんだから、それを利用するに越したことはない。それに・・教授の情報漏れさえなければ、そのままお前にやらせたさ」父親は説明する。


「あれは………教授の女がやったことで。それにあの女を自由に生かしているからこんなことになるんであって、病院に閉じ込めればいいことじゃないですか」

 焦った陸斗の声がした。


 それに対して全くトーン変わらずに父親は言う。

「陸斗。俺はお前を目にかけているんだ。お前にはこの情報を元に今後、大臣になって、日本国を守ってほしい。だからその前に飛びちった情報を綺麗に片付けてほしいんだ。そして考えろ。もう二度とこんな事象は起こさない方法をな。あとな、病院に閉じ込めてどんな状態になるか、海斗に聞いてみればいい。それにあの方法は関係者が多くてな、その上、できそこないが出来上がった。多分に成果物に影響し、コストがかかりすぎる」


 そこにトントンという音がして、「落とし物があるということで、一度、確認してもよろしいでしょうか」玄関で聞こえた声がした。


「いいだろう。もう我々も出る。陸斗、今日の会食に付き添いなさい」父親はそう言って歩く音がした。


「承知いたしました」

 陸斗も返事をしながら部屋から出たようだった。


 私はここで盗聴器をOFFにした。

 ノートに今、聞いた内容をノートにまとめる。


----

・父親が指示 弟の陸斗と先輩が対応

・先輩が関わったのは最近?※少なくとも真理恵の事件までは陸斗が実施。

・先輩の結婚は政略結婚。

 それじゃなければ私と?

・この情報を元に今後の国を守る。

・整理とは排除すること(殺人?)を示してる

・父親は先輩に結婚する父親の会社の人員整理を依頼

----


「この情報を元に今後の国を守る。」とはどういうことなんだろう。

私は少し考えたが浮かばず、しょうがないので、クローン人間とは?で調べた。


ちょうど人間のコピーに等しい。………優良な形質をもった家畜の大量生産には産業的価値が期待されているものの………


 文章を読んで、私は気がついた。

 人間のコピーして今後の国を守る。

 それは、大量の戦争用の人間を作ることを指している?それかそれに等しい行動ができる所まで水面下で研究したいということ?


 恐ろしい巨大な計画。

 だから・・私に関わる人を殺していった。

 両親の想像通りの、状況に私は震えた。


 そして、一つ、ほっとしたことがある。

 今までの事件に先輩は関係していなかった。


 先輩はしげと佳奈の件から関わっていて、もう整理させないために、恒星くんの所に行かせた?


 私の事件に巻き込まれなかったら政略結婚はなかった?


 陸斗という人は、私を病院に閉じ込めることも厭わない。でも先輩からそんな素振りは今まで見たことがない。むしろ、ずっと心配されてた。


 ………先輩は自分が関わることで・・、私を守ってる?


 西園寺先輩………。

 先輩にとって、私は守るほどの価値なんてないはずなのに、と思い返して、先輩の発言を思い出した。


 それはしげと佳奈がいなくなって私が憔悴仕切った中で、先輩は言った言葉。

『………俺にとって大事な友人なのに………俺は………それでも、少しでも力になりたいって思って………せめてもの償いに…』


 大事な友人なのに…俺は………?

 少しでも力になりたい?

 せめてもの償い?


『俺が狭山にできること、それは安心して過ごせる狭山の居場所を作ることなんだ・・・・。』


 先輩が私にできること、それは安心して過ごせる私の居場所?


 しげの殺害はしげ自身が気づいて成功しなかった。やり方も絶対に殺すという意思には見えなかった。


 まさか………先輩は元々、しげも佳奈も殺すつもりなんてなかった?

失敗するつもりだった?


 しげが自分から仕掛けて、死んだことになってしまったから。それは先輩にとっても、想定外だったのかもしれない。


 私は先輩を取り巻く環境、私の周りを排除する理由、そして先輩が一人で戦っていたことを知り、複雑な感情になった。


 その上、このまま私は自分の意思とは関係なく、研究され続けたくないと強く感じた。


 両親が最後に伝えてくれた。

『強く、自由に生きて』

 その実現方法を模索しなければ…と、ノートに書いて、そっと閉じた。


----

・皆で安全に、自由に過ごす場所をみつける。

----


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