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海とまぼろし-IdentityCrisis Missing  作者: MERO


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24 迷路の出口

 お風呂から上がったら、ちょっとした食べ物(たたききゅうり、トマト、チヂミ?)がテーブルに置いてあった。


「浴槽、もう一回、お湯張っておいてもらってもいいですか?」と恒星くんがいう。


 私が入って、お湯を抜いて浴槽を洗ったばかりの状態の中、もう一度浴槽にお湯を貯めてほしいようだ。


「あとで海斗さんも入ることになる気がするんで」と付け加えた。


「あ…はい」

 私は納得し、返事をしてボタンを押した。


 私に事情を説明したからか、恒星くんの西園寺先輩の呼び方は、海斗先輩から海斗さんになっていた。


「お腹、少し減りましたよね?ちょっと作ったのでよかったらどうぞ」と言うので一緒に食べながら、西園寺先輩からの連絡を待った。


 食事の片付けも終わり、時計が20時を指したあたりで、恒星くんの電話が一瞬鳴って切れた。


「海斗さんですね。下に来てるのかな?光さんも一緒にきてもらっていいですか?」と恒星くんが言う。


 二人で急いでマンションのエントランスに向かうと1台のタクシーが止まっていて、扉が空いていた。


 どさっ

 西園寺先輩が座席から崩れる形で落ちた。


「かいとさん!」


 崩れた先輩を恒星くんは抱え込み、タクシー内の荷物を持つ。

 

 タクシーの運転手に「料金は払いました?」と聞いて「はい」と返事をもらい、「お世話になりました」と言っている時に、後部座席の足元から電話が鳴った。


「ひかりさん、海斗さんの電話を取ってもらえます?」と恒星くんは私に指示した。


 私はタクシーに乗り込む形で電話を拾った。

 他に落とし物がないか確認してタクシーを降りた。


 それでも電話は鳴り続けた。


「海斗さんの指を押し付けて電話出てもらっていいですか?」と恒星くんが言うので、言われたまま、西園寺先輩の指を押し付けて、ロックを解除し、電話に出た。


 先輩を抱えたまま、恒星くんは言った。

「僕の耳に当ててください」


「はい、あー、え?いや、違います。人違いです。はい。電話切ってもらえます?」と恒星くんは電話口に向かって言って、私に「もういいんで、切ってください」と指示した。

 私は電話を切った。


 そこで先輩が苦しそうにもがいた。

「とりあえず部屋に行きましょう」と言って、恒星くんは急いで部屋に先輩を連れて行った。

トイレに直行し、先輩だけ入れて扉を締めた。


 そして玄関にいた私に「あの………電話、まだロックかかってないですよね?できたら、さっきの番号をブロックしてほしいです。かかってきても出ないようにしてもらえたら」と言い、嘔吐している様子の先輩を見て、「あと、光さん…しばらく………連絡するまで外にいてもらっていいですか?ほんとすみません」と言ってトイレに入っていった。


 私は部屋の入口にある自分の荷物を持って、外に出た。


 携帯電話のロックがかからないように操作をしながら駅前まで歩いて、ファミレスに入った。


 飲み物だけ頼んで、電話の履歴を見た。

 名前に西園寺 陸斗と書いてあった。


 先輩の家族からの電話だったようだ。

 私は番号のプロパティからブロックを選択し、ボタンを押した。


 ふう、とため息をついてしまった。


 そしてそうだ、今、設定の変更とアプリを入れようと思いだして、先輩の携帯を操作した。


 終わって西園寺先輩の携帯をバックにしまった。


 恒星くんは先輩の世話を引き受けて、私に迷惑をかけないように外に出るように言ったから、しばらくこのまま外で待たないといけない。


 私は何をしようか、おもむろにバックの中を見て、読みかけの日記帳を手にした。

どれくらい時間がかかるかわからないから、これを読もうと続きから読み始めた。


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7月10日

暑い。クーラーあたるあたらない問題でベットは週単位で変えることした。

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10月31日

ハロウィンだから外に出ようと真理恵に言われて渋谷に来た。真理恵の準備した衣装(テーマかわいい魔女)を着て楽しんだ。意外と似合ってびっくりした!

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1月7日

久々に家に帰省して寮に戻ってきた。光は真理恵の家にずっといたらしくて、羨ましい!って思った。

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4月1日

寮生活1周年。結衣がもう一年と懐かしがった。お付き卒業した光は結衣とよく話してる。私は派手めな真理恵のファッションに感化された。洋服いい感じ!と言われた。

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1月21日

健康診断後に結衣が保健室に行ってから様子がおかしい。

どうしたの?と聞いたら「光ってどこか悪いの?」と聞く。結衣のほうが弱そうだねと答えたら「そうだよね。」という。何、この愚問。

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2月3日

最近、図書館に結衣がついてくる。私の志望学科の本を一緒に読んでいる。なにか調べているようだけど、それは何か教えてくれない。秘密なの?ケチ。

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2月5日

職員室に行ったまま、結衣が戻ってこない。もうすぐ就寝時間。

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2月18日

結衣が血を吐いた。そのままタンカーで運ばれていった。もう眠れず、ベットの中に懐中電灯を入れて書いてる。え、どういうこと?なんで?勉強しすぎ?

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3月10日

結衣が病院に行って、帰って来ない。

私はいつもどおり、今までの勉強内容を結衣のカバンの中に入れた。そこに国立研究所の名刺をみつけた。結衣、いつ、行ったのかな?

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3月18日


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4月10日

最終学年。だだをこねたので、そのまま寮の部屋は変わらず3人。光と本を紹介ごっこ。意外と趣味が合う。

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 ここで一旦、日記を読むのを中断した。

 3月18日は結衣が亡くなった日。

 それから10日ほど日記は更新されていなかった。

 ここまで読んで、結衣が入院中に結衣のカバンの中にあった名刺に書いてある国立研究所に覚えがあった。

 両親の勤務先。


 まさか………結衣も………?

 私のせいで、殺されたというの?


 1月21日に確か健康診断を受けて保健室に呼ばれた。

 ・・・思えば、私の健康診断の内容を組織がそのままにするだろうか。何らか結衣は研究所に関係する書類をみて気がついたのではないだろうか。

 結衣は私の両親のことも知っている。どこに勤務しているのか、研究内容は調べれば高校生でも辿り着ける。


 そして一人で向かって………それで。

 私は手が震えた。

 そして、そこでもう1つ私は疑問にぶつかった。


 真理恵の事件はほんとに教授の殺害、だったんだろうか。


 私は佳奈の日記を2年前ほどに日付を勧めて、読み始めた。


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7月9日

真理恵が浴衣きてお祭り行こうとイベントに誘ってくれた。しげの浴衣が意外と似合っている。ビビる。光が選んだ浴衣らしい。なるほど。

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7月29日

真理恵に光のしげに対する態度を相談したら、「あの二人はあのまんまでいいの。」と一蹴された。何で×100

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8月5日

わざわざ真理恵からご忠告。しげと光のことは私が責任持つから口を出すなと。

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10月15日

教授とケンカしたらしい真理恵。呼び出されたにも関わらず、ケンカ理由を聞いても教えてくれない。何で?

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1月3日

神社に皆で行く。真理恵に何を願った?と聞いたら、「いつまでも皆と過ごすこと。」というので泣きそうになった。そして真理恵が「私が光を守る。」って言う。え?しげから?

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1月21日

ついに真理恵は教授と別れたらしい。教授のパソコンに最後に細工してやったというから、おーこわっ!と言ったら、全然怖くないよ。ほんとに怖いのは、素知らぬ顔して裏で手を回して国民を騙してる国と言われる。どーした?

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2月3日

豆まきしようと真理恵に言われた。光はほんとに豆準備してた。途中で教授から電話かかってきた。すごい剣幕で「君がやったことがどういうことなのかわかっているのか!」と怒鳴っているのが電話越しにも聞こえた。真理恵は答えずに電話を切った。大丈夫かな?

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3月12日

ホワイトデーのお返しに最後にあってほしいと懇願されたと言って真理恵は教授と会うらしい。皆で止めたけど、けじめつけてくるねと言った。私にだけメールで「私に何かあっても心配しないでね。あと光を私の分までよろしく。」って縁起でもない。

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 ここまで読んで、あぁ、やっぱり。

 佳奈は几帳面に全ての事象を記録してた。


 教授は私がクローンだったことを知っていたか、研究に関係していたのかもしれない。

 その研究資料を真理恵は破棄したんじゃないだろうか。


 豆まきで鬼を退治していたら、教授が鬼のような声で叫んでたのを覚えてる。

 真理恵は素知らぬ顔して、「しらけた」みたいなことを言っていた記憶がある。


 それにしても佳奈は教授の電話の内容をよく覚えてる。


 そして真理恵の「私が光を守る。」という言葉に泣きそうになる。


 真理恵は自分が殺されると知っていたのだろうか。真理恵のことだから、刺し違えてもいいって思っていたのかもと思ってしまう。

 ………でも相手はもっと上手。

 事実を知る教授もろとも殺してしまったのかもしれない。


 そう考えると、私のことを深く知る人達を組織が両親と同じように、しげや佳奈と同じように排除してきたということ。


 この日記でその事実を改めて突きつけられて、私は愕然とした。


 私がクローンじゃなかったらこんなことは起きなかった。


 自分を利用して生きていく、という決意がまた萎んでいく。


 偽物なのに。

 私のせいで………。

 私は何もできないんだろうか。

 今すぐ死んだほうがいいだろうか。


 そこまで考えて、………実家にいるナリを浮かべる。

 海外で一人なんとか生きてる佳奈。

 このまま隠れて生きていけるわけじゃない。

 とにかく二人を安全な場所で生活できるようにする。


 ………死ぬのは、その後でもいい。

 そう、まだやらないといけないことは、ある。


 私は奥歯をぎゅっと噛む。


 涙が出そうになることを抑える。

 まだ、泣くことすら自分に許すことができない。


 息を大きく吸って日記を握りしめて、落ち着かせる。


 先輩の携帯とキーケース。

 これで先輩側の情報も取得できるはず。


 ………今度はこっちが相手の裏をかく番。

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