23 結婚式
風花の結婚式当日。
受付のため、集合時間より1時間ほど早く式場について打ち合わせ。
集まった恒星くん、先輩、私は「今日はどうも宜しくお願いします」と風花と今日、晴れて夫婦となった旦那さん、そして家族から打ち合わせの最後に挨拶された。
そしてウエディングドレス姿の風花が「では最後の準備に入ってくるね♡」と言って控室に移動した。
「僕らは受付いきますか」と恒星くんが声をかけて移動を始めた。
「俺、オーナーと会うから、先、行ってて」と西園寺先輩が言った。
それぞれの場所に向かおうとしたその時、先輩の電話が鳴って、先輩はポケットに手を入れて携帯を取ろうとして、一緒に入っていたキーケースが落ちた。
先輩は電話に夢中で気が付かないようで、そのまま向かおうとしたので、私が拾い上げて見せたら、先輩は私の結婚式用のバックを指した。
「ひかりさん、預かってもらえます?」
後ろにいた恒星くんが西園寺先輩に代わって言う。
先輩はそのままどこかに行ってしまった。
苦笑しながら恒星くんがフォローする。
「朝から、預け忘れて何度か落としてたから多分、それで預かってほしかったんだと思います」
「うん、そういうことなら」
そう言って私はキーケースをバックにしまった。
受付では来場者に名前の記帳をお願いし、ご祝儀を受け取った。
そうして、久々に大学の友人の面々に会い、和やかに式は進行した。
二人の出会いから今までの軌跡。
そしてお色直しをし、華やかな青色のウエディングドレスをきて、ケーキにナイフを入れる風花。
斜め前に先輩の顔が見えた。
先輩とは違う座席。
座席表を見ると、西園寺名で3名ほど並びで会社メンバーが固まった場所に座っている。
周りとも会話がなく、静かに会場の中心を見つめる目線。
そんな中、先輩の名前が呼ばれた。
「続きまして、来賓挨拶となります。一人目は、新郎が入社した会社への紹介者であり、新婦の大学時代の先輩である、西園寺海斗さんから頂きたいと思います。では、よろしくお願いします」
先輩は座席から移動して、マイクに向かって話しだした。
「大樹さん、風花さん、ご結婚、心よりお祝い申し上げます。私は、新郎新婦の大学の先輩で新婦の風花さんと同じサークルに所属していました西園寺と申します。この良き日にお招きに預り、このように皆さんの前でお話をする機会まで頂き、嬉しく思います。今日はお二人の出会いのエピソードをご紹介させていただきたいと思います。進路が迫った大学3年に、職業の相談で大学からOBとして新郎の大樹さんとやりとりしておりました。大樹さんは非常に将来を見据えた意識を持って活動しており、時には現状とのギャップに考え込むことがありまして、その時、同じく就職活動をしていた元クラスメイトの風花さんの話題が挙がりました。風花さんと私はサークル活動で繋がっており、風花さんの現実的かつ、自分の理想を求めるバランス能力の高さに驚いた旨の説明をした所、大樹さんが興味を持ってランチに誘った所から交際に至ったとお聞きしました。このとおり、就職という右も左もわからない、地図があるようでない困難の多いタイミングで進むべき道を探して、新しい船に乗り込んだ二人です。この旅路において、結婚は1つの立ち寄り地に過ぎないとは思いますが、そんなお二人の出会いに立ち会え、この場にご招待頂いたことを本当に嬉しく思います。これからもどんな状況においても二人で道をみつけて、乗り越えて行ってほしいと願います。
本日はご結婚、おめでとうございます。これにて、挨拶とかえさせていただきます」と二人に向かって笑顔で先輩は言った。
風花から風花の旦那さんは就職で先輩にお世話になったと聞いていたけど、出会いから関係していたとは知らなかった。
風花と風花の旦那さんはお互いをみつめた。
風花はうっすら涙を浮かべている。
横に座っていた恒星くんは先輩を見て拍手している。
先輩は新郎新婦の席に向かって、親族に向かって、最後に全員に向けてお辞儀をして席に戻っていった。
テーブル近くに戻り、周りの人に何度かお辞儀したあたりには、先程の笑顔がなくなった先輩になっていた。
同じように見ていた横で先輩の動きを追っていた恒星くんは、おもむろに携帯を膝に出して何かした。
そう思ったら、私の携帯がバックの中で震えた。そして顔をあげると、先輩がこっちを向いて、少し笑った。
私は携帯をチェックしたら、スピーチ、よかったですよというメッセージとGoodのマークが恒星くんから皆のチャットに送っており、どうものマークが先輩から返ってきていた。
式も終わりに近づいて、私はお手洗いに向かった。
化粧直しをし、ふとバックの中のキーケースを思い出した。
個室に入って確認する。
先輩のキーケースは鍵がいくつかと車のキー、小銭、カードが入るタイプだった。
カードとか鍵の間にある布の裏に隙間があった。
ここに入れられるだろうか。
短時間の稼働であれば耐えられる小さな盗聴器を出した。
もしかしたらみつかるかもしれないけど、これしか先輩の荷物でセットできる方法が考えられず、止む無く私は先輩のキーケースの布の内側につけた。
あとは携帯、と心の中でつぶやいて、式場に戻った。
二次会は別の日に実施するというので、結婚式が終わって今日はお開き。
私と恒星くんは預かった名簿とご祝儀を渡しに控室に向かった。まだドレス姿の風花がそこにいて、「光、恒星くん、ありがとうございました」と挨拶してくれた。
「おめでとうございます」と二人で声かけて、「次は二次会で」と言って帰ることにした。
ホテルのエントランスで私は「キーケース」と思い出して、西園寺先輩に連絡した。
先輩はそれからまもなくやってきて、無事にキーケースを受け渡した。
「ありがとう、狭山」
「………二人はもう帰るんだよな?」と先輩は聞いた。
恒星くんは私をみて、「はい、帰ります」
先輩はちょっと考えているあいだに、「西園寺さん」といつの間にかエントランスに集まっていたグループに先輩は声をかけられた。
「今、行きます」と先輩はそのグループに声をかけて、「途中で抜けるから、後で・・家、行っていい?」と私達に聞いてきた。
恒星くんはまた私を見るので、私は頷いた。
それを見て、「いいですよ」と恒星くんは答えた。
先輩は少し笑って言った。
「ありがとう」
恒星くんが「………あのメンバーで行くんですが?気を付けてください」と言った。
「あぁ、わかってるよ」と先輩は小さく頷いた。
家に帰ってから、私は結婚式用の服から普段着に着替えてリビングに向かった。
浴室からシャワーの音がする。
恒星くんが浴びているようだ。
私は時間ができたので、その間、佳奈の日記を開いた。
佳奈の日記は高校生になった4月から始まった。
高校生になった佳奈は、まず初めての寮生活について綴ってた。
----
4月5日
初めての寮生活。
二段ベッドの上に人がいるのがむずかゆい。
上に寝ている藤川由依さんは気にしてないと言ったけど気になる。
----
4月6日
学校始まって教科書の準備で藤川由依さんが困ってたから教えてあげた。姓名で呼んでいたら、名前で呼ぼうと提案された。
由依さん、と言ったら、由依と訂正された。
同じ川繋がり、だから親近感あるね、と言われた。
----
4月25日
もう3週間近くになるけど、同じ部屋の他二人とは会釈ぐらいしかしてない。一人は派手めな子。もう一人は学校が始まるギリギリに入寮して、その派手めな子が連れ回してる。土日はほぼ結衣と部屋に二人。気にせず本がたくさん読めるからいい。
----
6月18日
雨が続いている中、部屋に猫の声がして、派手めとお付きの二人が寮で猫を飼おうとしてた!反対したけど、数日おいて置くことになった。飼い主が無事に見つかることを祈ってる。
----
6月19日
派手めの名は真理恵。お付きは光。結衣の提案で名前は呼び捨てになった。二人とも、名前のイメージ通りだと思った。
----
佳奈の日記を読んでくすっと笑ってしまう。
懐かしい。
両親の葬式の関係で入寮が遅くなってしまったこととか、派手めとお付きって。
そうやって日記を読んでいたら、浴室に続く扉が開いた。
タオルを肩にのせた恒星くんが出てきた。
冷蔵庫から水を取り出して飲む。
そしてリビングテーブルの椅子に座って、「ひかりさんも先に入っておいたほうがいいかも」
「?」
どういうことかわからず、戸惑っていたら、
「多分、今日、海斗さん、すごく酔っ払って帰ってくるから」と恒星くんは教えてくれた。
会社関係の人だから、飲みを強要されて、飲み過ぎちゃうのかな。
その程度に私は思って返事した。
「それなら、入るね」と言って椅子を立とうとしたら、恒星くんが言う。
「あのグループの中に、海斗さんの家族いたから。結構、荒れると思うけど、気にしないでね」
家族。
結婚式の座席表にそういえば、西園寺と名前が入っていた。
だから恒星くんはあのメンバーと言ったのか。
私は日記をバックにしまい、自分の部屋の入り口前に置いて、お風呂に入った。




