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2 高校時代の思い出

 携帯で調べると、ターミナル駅なので、コインロッカーは複数あるようだった。


 駅ナカに1つ、外に8つ。

(どこかな?)

 ロッカーナンバーは45。

 よくみると、外はコインロッカーがある場所は多いがロッカーの総数は多くないようで、駅ナカにあるコインロッカーに入っていると予想して、駅に入り、向かった。


 コインロッカーのすぐそばに、

 都内でここだけの有名なコーヒーショップがあった。コーヒーの香りが漂っている。


 パスワードを入れて解除。

(40,41,42,43,あった。)

 ロッカーの中から、紙袋を出した。


 袋の中には、手紙と携帯とコーヒーが入っていた。


 手紙の表面に、『人がいないところで見ること』と書いてある。

 しげの状況が伝わってきた。


 周りをみると、電車の往来に行き交う人々が忙しくなく動いていて、この手紙とのギャップに誰かがみているのではないかというしげの意識が薄れそうになった。


 紙袋は近くのコーヒーショップのもので、入っているコーヒーはそこで購入したものなんだろう。

 法要に持って来たバックは小さくて、紙袋は入りそうにない。

 そのまま持っていても違和感ないし、コーヒーを買いに来たことにして、バックと一緒に紙袋を持つことにした。


 そして帰ろうとした時、携帯が鳴った。

 恒星くんからの連絡だった。


------

お疲れ様です!

帰宅されました?

実家から大量の食品が送られて、よかったらおすそ分けしたいんですけど、このあと、どうでしょう?

------


------

お疲れ様です。

用事があってまだ帰宅していません。

大量の食品のお裾分け、残念です。

また声かけてください。

------


 電車は休日であるが帰宅する人たちで溢れていた。

 長椅子の真ん中ぐらいに立って、目の前のつり革に捕まり、私は今日1日の出来事を振り返った。


 皆、明るく振る舞っていたけど、実際は全然、元気はなかった。むしろ、一年前から時が止まったような感覚だった。


 あの場で佳奈は特に悲しむ姿は見せなかったけれど、体を壊すのではないかと思うほど、仕事に没頭しすぎてるんだろうと思った。


(きっと、またこのままだと倒れる。)

 私の意識は高校時代の寮生活に戻っていた。


 佳奈は真梨恵と同じく、高校からの付き合いで、寮仲間。


 私と真梨恵と佳奈ともう一人、『由衣』と高校時代、四人部屋の寮生活をしてた。


 もともと私は中学から寮生活をしていた真梨恵と仲がよかった。


 もの静かな由衣と勉強好きな佳奈は読書仲間で、寮では四人部屋だったけど、分かれて行動していた。

 仲良くなったのは、ある日、捨て猫を真梨恵がみつけてきて、その猫を寮の部屋で飼おうと言い始めたのが始まり。


 皆、気が付かないよと真梨恵はノーテンキにいい、私はともかく、ほとんど話したことがない由衣と佳奈がオッケーを出すとは思えなかったが、私と真梨恵の二人のベットの下においたダンボール箱で猫を飼い始めた。もちろん、その当日の夜に佳奈から、すぐに指摘された。


 しらをきる真梨恵に、佳奈は「面白半分で、最後まで飼えないならつれてきちゃだめだよ!」と怒った。真梨恵は「最後までちゃんと飼う!光が!!」と私に丸投げしてきて私も困ってしまった。そこに由衣は、興奮してる二人をなだめて、「とりあえず、これからどうするか考えるとして、数日いてもいいんじゃないかな」と折衷案を出してくれてなんとか事なきを得た。


 後で聞くと、どうも由衣は猫を飼いたかったのに自宅で飼えなかったから、ちょっとこの出来事が嬉しかったらしい。

そこから四人は秘密を共有して、結束した。


 それぞれ引き取り先を探してみたけど、なかなかみつからなかった。そして見つかったのが、私の自宅の隣家の人。


 隣家の部屋で飼うのが厳しいから、私の家のガレージも使わせてほしいという条件付きで、猫の基本的な住処は、空き家の我が家の車庫となった。


 比較的がっちりした作りでそこに隣家の人が餌とトイレの対応をして、猫は隣家と駐車場を行き来する生活でよければという話になった。

 結局、今も老齢となった猫はいる。


 それまで話すことのなかった由衣と佳奈と猫を通じて少しずつ、話すようになった。


 由衣は猫の話で挙がった空き家の我が家について、そして私の生い立ちが気になったようで聞いてきた。


 そう、私の両親はもういない。

 私の両親は同じ独立行政法人の研究者として働いていた。そして、私が高校入学したくらいに、ニュースにもなるぐらいの、実験による事故により、二人一緒に亡くなった。


 高校は学校の奨学金制度のおかげで通い続けることができたので退学は免れた。さらに中学から寮生活だったので、精神的にはだいぶ緩和されたということ。


 とにかく奨学金制度を受けるために、勉強はしなければならないといけないということ、家はあるけど、思い出がありすぎて帰りたくないこととか、溢れた想いを由衣にぶつけてしまった。


 真梨恵以外に話したことがないことを、由衣は静かに話を聞いてくれた。


 そして、「そんなことがあったなんて全然わからなかった。同じ部屋なのに、挨拶だけでどうして話そうとしなかったのか、理解したよ。話してくれてありがとう。忘れないでね、ここが光の居場所だよ。」と慰めてくれた。それからよく体も心も悩みがあれば、相談するようになった。



 そう、高2の終わりに由衣が病気で倒れるまでの一年と少し。


 由衣自身、病気の姿を想像できただろうか。

 体は強くなかったけど、それまでの寮生活で大きく人と違うような状況ではなかったのに、ある日を境にどんどん悪くなる症状。

 そして入院し、あっという間に亡くなってしまった。


 佳奈に対して、また倒れると思ったのは、あの時も、ものすごく勉強して倒れてたなって、思い出したから。それからだ、私が佳奈と一緒に読書や勉強をよくやるようになったのは。


 そして全然、外にいかない私と佳奈を見兼ねて、真梨恵はしょっちゅう外に連れていってくれた。そうしてバランスを取っていたというのに。


 走る電車の窓の外はもう暗くなっている。

 私は両親のみならず、大事な友人二人も失って、

 あの部屋のメンバーは私と佳奈だけになってしまった。


 さっき、佳奈の話をもっと聞けばよかったかもと、思い返す。

 内に内にと気持ちを閉じ込めてしまうのは、私も佳奈と同じなのに、自分に一杯一杯すぎて見逃してしまった。

 きっとそんな私を風花や恒星くん、先輩は心配して声をかけてくれたんだと今更ながら、気がついた。


 涙が出そうになるのを抑えて、片方の手に袋とバックを持ち、その中から自分の携帯を取り出して、佳奈にメッセージ送った。


-----

佳奈、お疲れ様。

今日は何だか疲れた。

お茶を誘ってもらったのに、ゆっくり話せなかった。また近いうちに空いていたら、神保町歩こう。

予定教えてね。

-----

 すぐにブルルと、携帯が鳴った。


-----

光へ

…ちょうど連絡しようと思ってた♪

ほんと疲れた↓↓↓


しげと一緒に帰ったら、

延々、野球の話を聞かされて、

チケット取るから行こうよーって言われて、何回も嫌だといったのに、ノーを受け付けずに

結局、行くことになった。

光もセットだからね!よろしく。

しげも野球観戦前に神保町に連れてくっ!

予定はまた連絡する〜またね。

-----


 しげ、佳奈を元気づけようとしたのかな。

 ちょっとホっとした。


 そうか、私、しげと佳奈が一緒に帰るときいて、

 無意識に、しげに頼っていたのかもしれない。

 きっとしげなら、元気のない佳奈をどうにか考えようとしてくれるって。


 しげは押しは強いし、よくピエロになって笑われ役になるけど、実際は思いやりのある、優しい人だと思う。ちゃんとしていないようでちゃんとしてる人。

 人として尊敬できる、私の大好きな人。

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