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海とまぼろし-IdentityCrisis Missing  作者: MERO


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16 メッセージと再生

 風花がいなくなった部屋で1人黙々とパズルを解く。


 今日は帰りが何時になるかもわからなかったから、恒星くんには土日は自宅にという話をしていたから、帰るのは明日。


 風花に解こうと思えば解けると話をした手前と、一人でいる寂しさを忘れるため、没頭した。


 ご飯も食べずに、ひたすら解いて、何時間経っただろうか。


 その昔に、一回開いたパズル。

 その方法で開いても、何もない。

 ぐるぐるしながら、何度も解く。

 一回開いた後に、中を触る。

 ぐるっと回るような感覚があった。

 ん?これ?何?

 表側のブロックがいくつか飛び出してきた。


 もしかして、これはスイッチ?

 そこから、次の場所を開くを何度か繰り返し、パズルは開いた。


 そこには小さなUSBと、次のパズルの場所が書かれた小さい紙。


『おめでとう、光。これで私達からのパズルは最後。場所は…』とメモに書かれている。


 自宅のノートパソコンを起動し、USBを差すと、勝手にいろんなソフトが終了、wifiはオフに設定が変わっていった。


 そして、画面にメッセージに『記憶の消去はできない。それでも見るか?』と出てきて、yesnoが表示された。


 私は父が残したメッセージの意図が全くわからなかった。


 記憶の消去?

 つまり何らかの情報が入っていて、それを見たら、見なかったことにはできない、そういうことだろうか。


 しげ、佳奈。

 この前、二人がいたから私は先に進めた。

 一人で進められるのだろうか。


 そこで棚に立て掛けていた本が目に入った。

 佳奈の日記帳。

 私はテーブルのパソコンの横に日記帳をおいた。


 私は佳奈なら、どう答えてくれるのだろうか。一枚目をめくったら、付箋が貼ってあった。


[嬉しい時も悲しい時も、どんな時もかけがえのない思い出だね☆読めば、今のどんな困難も乗り越えられそうな気がする。かな]と書かれていた。


 佳奈のちょっと達筆な文字が私を励ましている。そしてパソコンをみて、何かを知って絶望しないか、その考えがぐるぐると周る。


 今以上に辛くなるかもしれない。

 それは、わかってる。


 そして全ては過去の出来事。

 辛くなったら…佳奈の日記を読めばいい。


 私は大丈夫と何度も自分に言い聞かせた。

 父の、両親のメッセージには、きっと私に伝えなければならない何かがあると思って残したはず。


 うん、見よう。

 そう決意して、マウスを動かして、yesを選択し、ボタンを押した。


 まず、パソコン内で映像が再生した。

『産まれました』


『脈拍等異状なし』


『人類初の遺伝子合成クローンの誕生です』


 場面は切り替わり、病室になった。

『無事に仕事は終わったよ。お疲れ様』


『はい。ありがとうございます。所長』


『あの子はどうなるんですか』


『………前に言った通りだよ。これから、死ぬまで観察対象』


『いえ、そういうことではなく、誰が育てるのですか』


『………そうだな。そこは課題だな。でもささいな問題だ。生まれた今となっては』


『であれば、私に育てさせてもらえませんか』


『産みの親だけではなく、育ての親にもなりたい?』


『そうです』


『課題会議にかけて、検討しよう』


 またそこで、映像は切り替わり、『光、これをみているね?』


『光は複数の遺伝子をかけ合わせた受精卵のクローンだ』


『いくつも作成したが、残ったのは光だけだ』


『我々は結婚し、光を育てている』


『プロジェクトは国家単位で実施している。研究結果は国の財産だ。このプロジェクトは政治が絡み、財閥系の西園寺グループからの巨額の投資で成り立っている』


『そして最近、不穏な動きを確認した。実はこの研究の基礎は他外国から盗んだ技術で成功したことが判明して、関係する研究者たちが次々に死んでいる。我々もいつ狙われるかわからない』


『だからここに光の全てを残す』


『光、産まれてきてくれてありがとう。私は光を育てて、そして光の存在がこれからの発展に寄与することを祈ってる』


『それを見られないことが残念だ』


『監視され、我々と同じように、光の友人そして配偶者は制限される可能性がある。だけれど、君の精神も肉体も君自身のもので、君は自由だ。忘れないでほしい』


『当初は研究に目が眩んで、クローンを作り出すという行為が何であるのか、我々の理解が足りなかった。人を作り出す、その方法が違うだけでクローンというラベルで識別し、研究を続けようとする浅はかで愚かな人間を許してほしい』


 そこで映像は終わった。

 同じフォルダに、遺伝子作成までの一部分が記録され、私がクローンであることを証明する証拠が入っていた。


 これは何の記録?

 私は………クローン?


 私は、私は監視されていて、私の周りの人は制限する?

 我々と同じように狙われる?


『誰かに狙われてるいるんだ』

 しげの声が聞こえてくる。


 ………私の、せい、だった?


 私は椅子から降りてよろよろと床に体を落とし、手をついた。


 そして父のメッセージの言葉が重くのしかかってくる。


 記憶の消去はできない。

 それでもいいか。


 これは過去じゃなくて、現在にまで続いているってこと。


 私はなんとかもう一度テーブルについて、父の資料を漏れなくノートに書いて整理した。


 父と母は殺された?

 多分、しげは狙われていた。

 佳奈の行方不明も?

 ………誰が?


 政治、西園寺グループ…盗んだ技術。


 財閥系グループの御曹司、西園寺先輩。

『俺は家に言われたら何だってする』と言った先輩を思い出す。


 先輩の顔が浮かんだ。

 西園寺先輩と、恒星くん、風花。

 この三人が狙われなかった理由は、………それ、なの?

 その為に先輩は…私に近づいたの?


 私は答えが出ないことを考え、そして一つの結論を出した。


 そう、なんだ。

 だから、私を一人にしたくなかったんだ。

 私の近くにいて、監視していたんだろうか。

 そして、近づいたしげと佳奈に危害を加えた?


 うまく先輩とそれらの出来事はすぐに繋がらず、想像できなかった。

 ただ、なぜ先輩が私の友人なのか、ずっと不思議だったことに納得した。


 恒星くんと風花は私のことを知っているんだろうか。


 ちょうど携帯が鳴った。

 私は震える手で携帯を持って見た。

 恒星くんから「今日、帰ってくる?」と聞かれた。


 私はそのままにしようかと思ったが、不自然なので「家の整理始めたら終わらなくて今日は自宅にいます」と返信した。


 まだ私がこの事を知ってるとは思ってないようだ。


 お父さんは、なんでこのメッセージ残したのか。


 ここに佳奈がいたら、どう考えただろうか。

 佳奈は前回、一緒に過去を振り返ったとき、これは私を大事にしている、大きくなることを楽しみにしている証拠だと言った………。


 そうだ、きっと、お父さんとお母さんは私が見る前提でこれを残したんだ。


 私のやるべきこと。

 それは私のせいで起こった出来事に悲しんでいることじゃない………。

 一体、二人が私に命をかけて残そうと思ったこと。それを明らかにすること。

 そして、私がクローンだとすれば・・、きっと彼らは私を研究対象として情報を集めているはず。

 うかつに動いたら、私自身がその事実を知ったことがわかってしまう。

 それを理解した上で動くこと。


 まだパズルの、最後のメッセージがある。

 パズルは実家にある。


 あまり動きすぎると、怪しく見えるので、私は実家に行く理由を考えた。


 しげのいなくなった日から、クロはずっとマスターに預けっぱなしだったので、クロを引き取りに行って、そのまま、明日、実家に帰って見よう。


 そうしたら実家に帰っても怪しまれないはず。


 マスターに連絡する。


----

こんにちは。

クロのお世話を任せっきりですみません。

落ち着きました。

明日、お店が終わったら、引き取りに行きたいのですが、予定はいかがでしょうか。

----


 マスターから連絡があった。


----

こちらは休憩中!

光ちゃんにちょうど連絡しようと思っていたんだ。

全然、クロのことは気にしなくていいんだけど・・まぁ、ちょうどいいタイミングで、こちらも光ちゃんに渡したいものもあるので、明日、終わったら、車でクロを家に連れて行くね。

----


 大丈夫、私は言い聞かせる。

 大丈夫じゃないと言った途端に、私は私であることに耐えなくなってしまいそうだった。


『わたしのひかり』

 お母さんのメッセージ。


 もう過去を振り返らない。

 後には戻れない。


 一人静かに、私は誓った。

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