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海とまぼろし-IdentityCrisis Missing  作者: MERO


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10/31

10 その日

 佳奈がアメリカに行って2ヶ月。

 日本は梅雨。


 雨が振り続ける日は憂鬱だけど、雨が振らないとニュースで異常気象と騒ぐ。

 なんだか可笑しい。


 今日は仕事後、チームの打ち上げ。

 今日の予定を確認して、打ち上げの場所とそこまでの行き方を確認した。


 バックの中にあるしげから渡された携帯が震えた。

 見たら、「これから何が起こっても、俺は大丈夫だから、心配しないで。あと一つお願い。クロさ、マスターの所に連れていってあげて」と連絡があった。


 どういうこと?

 私は頭に?が浮かび上がった。

 しげの考えてることは全くわからなかったけど、これはきっと彼の決意。


 私にできることはクロをマスターに会わせることだけ。


 マスターの携帯に『おはようございます。次のお休みに猫を連れて行きたいです』と連絡した。


 そう打って出勤した。


 お昼、今日は移動中の合間にランチとしたため、14時近くになってしまった。

 お昼を食べていると、プルルと自分の携帯が鳴ったので開いた。


『ちょうど今日だよ。用事終わったから、夜に連れてきてくれるかな?』


 タイムリーでも、今日、打ち上げ…。

 打ち上げの参加は必須じゃないから、断ろう。


『はい、わかりました』

 そう打って、私は会社に連絡した。


 仕事が終わり、その足で実家に戻った。

 ガレージのクロをバックに入れて、お店に向かう。


 お店の前で掃除をしていたマスターに会った。

「あれ、光ちゃん、早かったね」


「今日は定時ですぐ帰宅したので」

「そっか、ちょっと待っててね。掃除終わらせて、家でゆっくりご対面させて。」


 そういって、マスターはカランコロンと扉を開けて店内に入っていった。

 店内は暗くてよく見えなかったが、近くの椅子に黒い人が座っているように見えたのは気の所為だろうか?


 しばらくしてマスターは戻ってきた。

 出るときに、鍵を締めた。

 先程の黒い何かは、荷物の見間違いかもしれない。


「光ちゃん、そういえば、テレビは見ないの?」

 マスターの自宅はお店から少し先の私の実家の途中にある。

 マスターは車で通っていて、その車に載せてもらいながら、聞いてきた。

「見ますよ。朝と夜のニュースと、映画を見ます」と私は言った。

 続きがあると気になってしまうから元々、ドラマはあまり見ない。


「………そうかい。私は歴史のドラマをついつい見てしまうよ」とマスターは言った。

 でも、何か違和感。

 マスターは私は時間があれば映画を見に行くことを知っているし、ドラマはあまり見ないことも知っている。


「あの……どうかしました?」

 私はマスターに聞いた。

 マスターは少し慌てて、「いや、ニュース見るよね。うん、朝晩つけっぱなしにするよね。うんうん」


「?」

 私は何かを隠してるマスターに疑問が湧いたが聞いてほしくないのだろうかと思って、それから自宅まで黙っていた。


「さぁ、ようこそ」

 猫はね、こっちの部屋にいるよ。と案内された部屋に入った。マスターは洋服を着替えに行き、その間、私は部屋の中を見回した。

 そこには立派なキャットタワーとソファがおいてあった。


 私はクロをかごから出した。

 クロはのんびりソファに座った。


 そこへマスターは戻ってきて、「この子がクロさんかぁー。よろしく。」

「あれ?マスターの家の猫さんは…?」


「あぁ実は去年の夏に亡くなったんだよ。今でも生きてる気がして部屋はそのまま」


 そうだったんだ。だからクロを連れてきてほしかったのかな、と思いながら私は「そうだったんですね」と言った。


「うん、それもあったけど、ほんと連れてきてくれてありがとう。光ちゃん。しげはきっとそういうだろうな」

 私はマスターの顔をみた。

「!?」


「大丈夫。しげから聞いてるから。まぁ、そろそろニュースになってる頃かもな」と私に向けて、マスターは言った。


「マスター……一体どういう意味?」

 マスターはクロを膝に乗せて、よしよしとしながら、「しげは今日、死ぬ」


「何で?それを」

「聞いたんだ」

 しげはマスターに話したのか、それともマスターがしげを狙ってた人?

 私の頭の中で、ぐるぐる疑問がまわっていたが、マスターは「まぁ、それは気にしないで」と軽く言った。


「……」

 私はただ黙ってしまった。


 マスターはおもむろに棚から手紙を出した。

 そして手渡してきた。

「また連れてきてよ。私もジョギングついでにクロに会いに行くよ。まぁ、とりあえず見て」


 手紙を開くように促されて、開いた。

 『光へ』とつながるしげの文字がまず、めにうつった。


-----

光へ


これを呼んでるってことは決行日なんだろうな。


俺は今日を最後にいなくなる。

でも、安心して。


俺を狙ってるのが誰かわかった。

狙われてる理由は不明だけど、

生きてる限り、狙われる。

もうこの方法しかないって思った。


……

-----


 その手紙を読んで倒れそうになった。

 彼は今日、まさにこの手紙の内容を実現しているのだ。しげを狙っているであろう人を特定し、その人にわかるように自分が一人であることを伝え、そこに誘導し、自分から事故で死を見せつける、と簡単に言えばそのようなことが書かれている。

 この計画も含め、そんなにうまくいんだろうか。

 そもそも誰がしげを狙っているの?


 私の様子をみて、マスターは「居間でお茶飲もうか?クロちゃんはここにどうぞ。」といった。


 私はマスターの言葉をうけて、クロを置いて居間に向かった。


 マスターは紅茶を入れてくれた。

「はい、どうぞ」


「気持ちは少し落ち着いた?」と聞かれた。

「………」


「今日はさ、まぁ、一緒にいてくれって」とマスターに言われて、私はしげに言われたんだろうと想像した。


 言葉を選んでいたら、携帯が鳴った。

「どうぞ」とマスターに言われて、電話を取った。


「お疲れ様です。西園寺です」

 聞き覚えのある先輩の声が飛び込んできた。


「はい、お疲れ様です。狭山です」と答えた。


「あれ?今日、どうした?」

 電話口はガヤガヤと煩い、どうやらチームの打ち上げに参加しなかったから、連絡がきたようだ。


 チームの他の同僚の声が携帯から聞こえる。

「狭山ー、参加しないって‥さぁ、これはペナルティなっ!」と会社の別の人が電話口で叫んできた。


 酔っ払っているようで、「おいおい、そういう日もあるよ」と先輩がフォローしてくれた。

相手は飲んでて気が大きくなっているようだ。

「皆、心配してるだけなんだ。何事もなければいいよ。それで……体調とか問題ないかな?」と聞かれたので、「すみません、所用ができて参加できませんでした。それだけです」と伝えた。


 先輩はちょっと考えて、「………参加してほしかった、かな。まぁ、必須じゃないけど、チームの懇親会は久々だったし……あぁ、俺何言ってんだろ?まぁ、うん、話したかった」

そんなことを周りもいるのに、言うなんて西園寺先輩にしては珍しい。


 携帯の周りも「もー、西園寺さん、しっかりしてくださいよ」

「フラフラしてません?飲みすぎじゃないですか?」と声かけられているようだ。

「ちょっと飲みすぎてるかも。………じゃあ、また次の機会に。お疲れ様です」

 私も挨拶し、電話をきった。


 電話をしている間に、マスターはテレビをつけた。

 ニュース番組に切り替えた。

 ちょうど番組が始まったばかりだった。

「では、本日の速報です。廃棄工場で事故があり、会社員成田廣重さんが行方不明です……」


 息が止まりそうになった。

 しげのニュース。

 体が自然と震えてしまう。


「光ちゃん。大丈夫。信じて」とマスターが声をかけてくれた。


 きっとしげは私のことを考えて、マスターに託したんだ。

 目から涙がぽろっと零れそうになり、私は手で拭いて言った。


「それでどういう状況なんですか?」

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