25 作戦会議
ヨナたちは、ノクリアの計画を手伝うことになった。ノクリアの話を聞いた後、ヨナたちだけで話し合いをし、その結果、やるだけの価値はあるだろうということになった。
エクレルが『龍の爪痕』にいることは、まだ秘密にしておくこととした。もちろん、ノクリアには『龍の爪痕』のことはある程度話をした。ノクリアはヨナたちの話を聞いて、特に詮索をしてくることはなく、その力を借りられるならありがたい、と礼を言った。
「よし、では、早速計画を立てるぞ。女、まずはお前の計画を話すんだ」
「はいはーい、カルロさん。意見があります。一応、この人は仲間になったんだからね。『女』って呼び方は酷いと思いまーす。あと、そろそろ縄を解いてあげてください」
サーシャにしてはまともな意見を出してきた。
「わ、私はそのままで構わないぞ」
「はいはーい、カルロさん、早く解いてください。なんか子供の教育に良くない予感がするので」
「何言ってるんだ? お前も子供だろう」
「まあまあ、いいじゃないですか、そんな些末なことは。ノクリアさん。それでいいかな?」
「あ、ああ。まあ、私はそれでも構わない」
カルロはノクリアの縄を解いた。ノクリアは心なしか残念そうだ。
「じゃあ、よろしくお願いします。ノクリアさん。僕はヨナ」
「私は、ウィステリアよ。そんでこっちのうるさいのがサーシャね」
「おいっ、そこは私に喋らせなさい」
「はい、うるさい」
ウィステリアがサーシャをからかっている。そんな様子を見て、ノクリアは緊張がほぐれたのか、少し微笑んだ。
「おい、サーシャ、先に進めていいか?」
「はいさー」
相変わらず、変な掛け声だ。だが、カルロはいちいち相手にせず、そのまま話を続けた。
「ノクリア、すまないな。改めて、お前が考えている計画を教えてくれ」
「あ、ああ。あ、えっと、計画と言っても簡単だ。基本的に、私は人に見つかることなく行動できるから、まず一人で王宮内のエマ王女のところに行く。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。見つからないって、何でそんなことができるのよ」
ウィステリアが突っかかる。
「私も、魔法が少し使える」
「えっ、あなたも魔法が使えるの? 何で?」
「ダークエルフだけではなく、エルフ族はみな魔法が使えるのだ。ただ、お前たちのような強力な魔法は使えない。あくまで簡単な支援魔法のようなものだけだ。私は人の気配を消す魔法が使える」
「なるほどね、だから密偵なんかやってるってわけね」
「そうだ、だが、私の魔力では二人分の気配を消すことができても、長くは保たない。王宮内までは何とかなるが、そこから王都を出るまでは、少し賭けになる。もちろん、王女には変装してもらい、夜に紛れて出てくるつもりだ」
「で、王宮から王都の外まではどのくらいかかるの?」
「一刻と少しの時間があれば十分だ」
「それなら、簡単ね。ヨナ、あんたも付いていけばいいじゃない」
「……どういうことだ?」
「ヨナも、気配を消す魔法が使えるのよ」
「な、なんと、それは凄いな。……それなら、何とかなる気がしてきたぞ」
だが、ヨナにも心配事はあった。自分の、気配を消す魔法の効果時間を知らないことだ。
「でも、僕の魔法の効果時間がどのくらいか知らないんですけど」
「もし魔法が切れかけたら、そのくらい自分で分かるでしょ? その時は追加で魔法をかければいいのよ。でも、ヨナの魔力なら、二人分で一刻くらいは余裕だとは思うけど」
「ま、まあ、そうかな……」
「よし。では、王女を王都外へ連れ出すまでは、ノクリアとヨナの二人に任せてもいいな?」
「はい、頑張ります」
「ああ、よろしくな、ヨナ」
ノクリアがこっちを見て、手を差し出してきた。よく見たら、ノクリアはかなりの美人だ。そして綺麗な髪をしてる。服が、少し露出が大きいから、ヨナは目のやり場に困ってしまった。
「はい、よ、よろしくお願いします」
「ヨナ……なにまた鼻の下伸ばしてんのよ」
「えっ、そ、そんなことないよ」
「あっらー、ヨナは綺麗な女の人に目がないねー。しかもノクリアさんはー、ウィステリアちゃんにはないものたくさん持ってるから、目のやり場にこまっちゃうね」
「うるさい! 馬鹿サーシャ」
「いったーい」
二人は相変わらず戯れ合っている。
「それで、王都の外に出てきた後はどうするんだ?」
「無事に出てくることが出来たら、あとは夜道をひたすら歩くだけだ。三日もすれば、里に着く」
「俺たちは着いて行けばいいのか?」
「ああ。そして我々の里まで来てもらいたい」
「俺たちはエストーレ王国の内情を出来るだけ探らないといけないんだが……」
「それなら心配ない。無事にエマ王女を救い出せたら、エマ王女から詳しく聞くことができる。誰よりも詳しくな」
「そうか、分かった。国の内情はお姫様から聞くことにしよう」
「ノクリアさん、それで計画はいつからですか?」
「今晩だ」
「ええっ、今晩ですか? それはまた、いきなりですね」
「エマ王女は急いでおられる」
本当は、一刻も早くエクレルの手掛かりが欲しいという理由だけなのだが、ノクリアはそのことは伏せた。
「あと一刻もしないうちに始まっちゃいますね」
「そうだな、とりあえず飯にでもするか」
「わーい、やっとご飯だー」
「おい、サーシャ。そこの川で何か釣ってこい。お前たちの水浴びの後だから、それを目当てに魚たちが寄ってきてるだろう」
「……カルロさん、言い方」
と、ノクリアから思いも寄らない発言が。
「そ、そう言えばお前たちも水浴びしていかないのか?」
「俺たちは、まあいい。また次の機会にでもするさ」
「いや、お前たち相当臭うぞ。このままエマ様に会わせる訳にはいかない。お前たちも水浴びしておいてくれ」
「……そんなに匂うかなぁ」
ヨナとカルロは水浴びまではしてないが、水場がある度に、軽く汗を流す程度はしてきている。そこまで臭っているとは思えない。するとサーシャもそれに乗ってきた。
「いいじゃないですかー。お姫様に会うんだから、一応全身清めておかないといけませんよ」
「サーシャ、お前、まさか」
「そして、ついでにお魚取ってきて貰えると嬉しいかな」
「やっぱりか」
「カルロさん、まあいいじゃないですか。元々浴びる予定だったんだし。せっかくだから浴びておきましょう」
「おい、ヨナまで。……まあ、そうだな。それじゃあ、俺たちは行ってくる。飯の準備はお前たちで頼むぞ」
カルロとヨナは水浴びに行ってしまった。
「ウィステリアさん」
「なによ」
「『なによ』じゃないでしょ。あっちあっち」
サーシャはにやにやしながら、ヨナたちが歩いて行った方を指さしている。
「あんた、……ま、まさか」
「はーい、千載一遇の機会が巡って参りましたー。さて、勝利の栄光を掴みに行こうではありませんか」
「大馬鹿!」
「ぐはっ」
ウィステリアの後ろ回し蹴りがサーシャに炸裂した。
「全く、何考えてるのよ。破廉恥な。さっさとご飯の用意するわよ。ノクリアさんもこいつに何か言ってやって。ってあれ? ノクリアさん?」
ノクリアはちょうど、二人の後を追いかけて行きそうになっているところであった。
「の、ノクリアさん」
「ん? 何だ、サーシャ」
「ま、まさか、カルロさんを……」
「い、いや、まさか。誤解だ。誤解。み、水浴びしているときの、あいつらの身の安全を少し気にしていただけだ。流石のカルロでも、無防備のときに敵に襲われでもしたら大変だろう」
「ほーう、確かに、それもそうですな。我々は大切なことを見逃していたかもしれない。よしっ、ウィステリア、彼らの身の安全のため、様子を見に行くよっ」
「行くわけないでしょ、馬鹿サーシャ」
「ふぎゃっ」
今度は、ウィステリアの強烈な手刀が、サーシャの頭に炸裂した。
「ノクリアさん、心配はいらないわ。カルロさんは天賦の才を持つ優秀な剣士よ。危険くらい自分で察知するわ」
「そ、そうか。確かに、カルロは天賦の才を持つ男だな……」
「ノクリアさんが言う天賦の才の意味が気になるところですが、まあ、そう言うことにしておきましょう」
「何よ、サーシャ。どう言うこと? 間違ってないじゃない」
「ま、まあまあまあ、そうだね。間違ってないよねー」
「馬鹿やってないで、早くご飯の用意するわよ」
それぞれの思いを抱えながら、三人は食事の用意を始めた。




