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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
98/147

綿毛ドローンより

 『魔王』の城は初代が建築したものを代々使っている。

先の魔法陣探しでほぼ城中を探索した上、上位五貴族の逃亡により、彼らが占有していたエリアも解放されたため、内部は完全に今代『魔王』の把握するところとなった。

その中には使われていない部屋も多かったため、ナイセル家をはじめとした上位五貴族からの押収品の一時的な倉庫、あるいは資料室に転用した。

それでもなお余った部屋のひとつが、情報を集積する部屋になっていた。

そう、文字通り。


「改めて見ると、こう……」

「おお……たしかにな」


 壁際にずらりとありあわせの棚を並べ、その上には水晶玉や珠に加工されていない水晶のルースが並べられている。

たいだいひとつひとつが大きなビー玉ほどもあろうか。

タヌキが持ち帰ったのが一抱えほどなので、差がわかりやすい。

だが、これらひとつひとつが綿毛と連動している。


「これは受信に成功したものだけですから……」


 ヘルバの担当官の説明からは、ここに並べなかった数がうかがえた。

その中からさらに有用な場所にいったものを選び出したり、ひょんなことから有用になったりで、水晶は棚から出されては戻される。

そしてその動きのすべてが、この部屋の担当官たちによって記されている帳面がある。

また珠やルースのひとつひとつに紐づけられた記録もあるので、この隣の部屋がその収蔵庫になっている。

それはすなわち、件の水晶玉がどれほど大容量かということでもあるのだが、反面、タヌキが持ち出せばそれだけで簡単に大量のデータが、ということでもあった。


 テーブルの一つに、一人と一匹は案内される。


「こちらになります」


 着席するなり、人魚の担当官が皿ほどの小さな盆にのせて水晶のルースを一つ持ってきた。

今日、この部屋に一人と一匹が訪れたのは、人員を増やすことで処理能力の上がったこの部屋から、不審な情報の報告があげられたからだ。


「使用法は、手に握って、端を親指で軽くたたいてください」

「ありがとう」


 『聞く』方法は元の水晶玉と同じく、手のひらからの振動によるものであったが、ウツギはさらに『見る』こともできるという。

今回のものは音声のみでも十分わかるので、これで、と。


 目を閉じ、音声に集中していた『魔王』の表情が曇る。

水晶を握る手が開いたのが終了のしるしで、次はタヌキへと渡される。

タヌキの鼻づらにもぎゅっと皺が寄った。


「マジかー」

「おわかりに?」

「おう」


 前足で水晶を返しながら、タヌキはいう。


「これ、相手の幹部や重要なとこに潜ませたやつもあるんだよな?」

「はい」

「しばらくはそっち重点的にするか」


 ムァー!とかなんとか、言語化しにくい呻きをタヌキはあげる。


「チキューから、さらに呼ぶ、と」


 聞こえたそれを、確かめるように『魔王』はたずねた。


「おう、それも俺みたいなのを、だってよ」


 フスフスと鼻息も荒いタヌキに対して、『魔王』の顔色は悪い。

彼はタヌキを誰よりも近くで見てきた。

彼はタヌキが何をできるかを、この地の誰より知っているといってもいい。

そのタヌキと同類を呼ぶとなれば、どれほどの脅威となるか……『魔王』の心配は当然のものである。


 だが一方で狸族もピンキリということまでは彼は知らない。

キリが化けることを知らない野山の狸なら、ピンは神社もち……たとえば栄誉権現の御狸様、山口霊神、蓑山大明神、八股榎お袖大明神などといったところ。

名前でぴんとこなければ、山口霊神は隠神刑部狸、蓑山大明神は屋島の団三郎狸、いずれ名高い狸である。

『魔王』のもとにいるタヌキのコータは刑部狸のおひざ元伊予松山の生まれ、金平狸に学問を授かり、お袖狸に変化の手ほどきを受け、刑部狸の眷属……いわば一門に加わっている。

決してキリではないが、ピンの位置にはまだ遠いといったところか。

同じ狸相手ならそうそう『負け』はない。だが無敵ではない。


「まぁ心配すんな。知り合いだったら取っ組み合ってでも俺が説得してやっから」

「取っ組み合ってでも、ですか」

「おうよ、任せろ」

「……お任せします」


 そのあまりにもあっけらかんとした、なんでもないこととしての物言いに思わず『魔王』は顔をほころばせた。


 彼らが部屋を出て、向かうのは兵舎のウツギの部屋。


「ウツギ殿」

「戻られましたか」

「はい。……確認しました。タヌキ様と同じような存在を、と」


 四辺境伯家の長たちとの話、特に内政にかかわらないものはこちらで行うようになっている。


「あいつらの計画だけどな、俺がなんとかしてやる。安心しろ。……さすがに沖縄までは行けてねぇし、エゾタヌキには面識はねぇけど、本州四国くらいなら師匠筋から説得するよ。狸皆兄弟まではいかねぇけどな」


 前足で胸を叩いてみせたその動作自体は愛らしいものであるだろう。

だがタヌキという存在の、この世界における反則ぶりはウツギたちもまた知っている。

同じ世界のコーコーセーをはじめとしたニンゲンたちが滅んでいないのを不思議に思う程度には。

だが、同じタヌキであればまだしも、もしも……


「あの、もしも……タヌキ様の一族に拮抗する種族が来たら」


 もしも、同じような能力を持つ別の種がいたとしたら。

同族に対しては和解できても、他種であれば……?

思えば無礼な質問であったtが、タヌキは至極真面目に考える様子を見せた。


「そうだなぁ、貂とか貉とか、あのへんなら勝つ自信あるぞ。俺は近代兵器に化けられるからな。その点は俺が有利だ」


 テンもムジナもこの世界にはいない。


「狐は……まぁ、そうだなぁ、知り合い、じゃなかったら」


 キツネも、この世界にはいない。

そんないない種族を、どんなものであるかを考えていたから、少しのその違和感を見逃してしまった。

知り合いならば、ならよくあることだからと。


「まぁまかせろ! なんとかしてやっから!」


 そんなタヌキの強い念押しもあったがために。

読んでいただきありがとうございます。

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