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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
95/147

勇者という名のバーサーカー 3

「それから、陛下にですが。……どうしてタヌキ殿をお待ちにならなかったのですか」


 暗い表情のまま、ウツギは続けた。


「十人を相手にすること、無力化することなど、コア殿やレオンシオ殿にも難しい。ましてや相手は凶暴化するとわかっている存在です」

「はい……」


 説得できるかもしれなかったというのは、申し開きにもならない。

実際できなかったし、その可能性を残せば次こそはと思ってしまうだろうと、ウツギがその『可能性』を潰すための説得をすることは目に見えている。


「……十五年前、先々代の『封印行』において当家から出たのは、私の息子の一人でした」


 だがウツギはまったく別のことを口にした。


「当時、四天王役の者は生贄も同然であることは定着していました。息子は魔法の才には恵まれていましたが、身体が弱かった。……そのことを、気に病んでいたのでしょう。その末に、他の者が行くよりもと、思ってしまった……。反対すれば、他の者が犠牲になる。長である私が反対できないとわかっていてのことでしょう。せめてもと、登城に至るまでにありったけの魔法の知識やアミュレットを持たせましたが……」


 結末は、ここにいる誰もが知っている。

先代から遡って二代目の魔王に至るまで、四天王は『封印行』から生き延びることはできなかった。


「息子は、そうですね、見た目はあなたと同じくらいの年でした。ヘルバの年はヒトのものよりも長いとはいえ、同族の中で育つならば時間の間隔はヒトのものと変わらないでしょう。私は……息子が死んだ時と同じことが、起きるかと」


 ゆっくりとウツギの声が沈み、消えるように終わる。

『魔王』が謝ろうとした声も、途中で止まる。

『魔王』は父と叔父を喪い、ウツギは息子や一族を喪い続けてきた。

わかるからこそ、何をいうこともできなかった。


「今後は、必ずタヌキ殿と同行なさるようにしてください」

「……はい」


 『自分が行けばいい』という思考は、ことこの事態においては、本物の命取りになりかねない。


「難しく考えなくていい。旗印は前に立つなってこった。そういうのはコワモテがやりゃいい。そういうこったろ、ウツギ殿」


 そこで口を出すのは自分の役割とばかりにレオンシオがいう。

陽そのものの笑顔は、その場の雰囲気をきれいに、しかも良い方向に塗り替えた。


「ではコーコーセーたちについてはこのまま、なんとか毒抜きを進める方向で治療をしていきます。ですが、もはや人手は限界です。これ以上同じようなものが送り込まれても、我が方は対処できません」


 気を取り直した、しかし厳しいウツギの声。

難しいとは言わず、『できない』。

すなわちこれ以降、凶暴化をおこした敵方はすべて見捨てるということ。

それを断言するのは、ウツギの誠意。

無理をすれば必ずどこかで破たんする、それも自軍の兵の疲弊を伴うとなれば、この選択は当然。

凶暴化と呼びならわされたあの状態の治療は、地球でいうなら高度医療と呼ぶレベルのものだ。

しかもそれが三部分同時進行である。

まず最初に人手不足が上がるのは当然だろう。


「わかりました。タヌキ様の話によれば、現時点でこちらに寄越された班で、おそらく攫ってこられたコーコーセーたちは全部。……彼ら以降は、見捨てます」


 その上で、『魔王』が宣言する。

これをもって、正式に対処が決定した。


 件の状態は、現時点で有効打とはならないまでも、そして一時的に自我を失う暴走状態になるとはいえ、個人の腕力を大幅に上げることができるとなれば、これ以降それを引き起こす処置をされる兵士は増えるだろう。

さらに、コーコーセーたちからの通信から、彼らがこちらに保護されていることは向こうにもわかっている。

こちら側の甘さを利用しない理由が無い。

兵士を『魔王』の国に寄越せば寄越すだけ、こちら側の資源を人的にも物的にも喰い潰せるとなるのだから、やらない方がおかしいだろう。

敵方とはいえ、非道な人体実験のようなものを施された人々は犠牲者でもある。

だがそれでこちらが害を被るわけにはいかない……。

だから、『彼ら』は見捨てる。その決定だった。


「だがまぁ、今いるコーコーセーたちは何とか治せる。それだけはタヌキ様には朗報だろうな」


 ふ、とため息をつくようにマカールが言い添えた。

とりあえず「そこ」が線引きの最低ラインにできる見込みができた……。


「ウツギ殿、人手不足の状態に重ねてのことで申し訳ないのですが、件の綿毛についてですが」

「ああ、ご安心ください。一旦情報を取り置いているところです」


 一旦コーコーセーたち、ならびにあの状態についての話が終わったため、コアが出してきたのはその前にこちらから送りだした無人偵察機……ヘルバたちの綿毛のこと。

上手く拡散したことはわかっているが、情報の受け手であるウツギも、そしてヘルバたちも今は手一杯で、それに取り掛かることができないでいる状態だ。

―――それを狙ってコーコーセーたちを送り込んだなら大した手腕だが、実際はタイミングが合っただけだろう。


「それで、我々全体ではその手のことは得手ではないのですが、人魚たちならばと」


 コアが連れてきたスクウァーマ三種族の兵士たちのうち、人魚は五人と数こそ少ないが、それゆえに強力な者を連れてきていると彼は語る。

一旦取り置きにした情報を仕分けるなどの仕事はできるのではないだろうかと。


「助かります。では、手伝っていただけますか?」


 タヌキはまだ会議室に戻らない。

読んでいただきありがとうございます。

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