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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
86/147

赤い文面

 さて、調べるとしてどうするか。


「契約書のたぐいであれば、金庫がお決まりというものだが……」


 マカールの言葉にウツギが首を横に振る。

上位五貴族の財産はすでに没収済みだ。

金庫、書庫、おおよそそのたぐいをしまい込めるような部屋や箱などは総ざらえしてある。

中でも書類はさまざまな事柄の証拠になるため、特に念入りに調べたという。


 契約となれば、この世界に置いては甲乙双方が持つものであるとウツギはいう。

となればどこかに必ずあるはずだ。

国と国とで結ばれたものである以上、逃げ出した上位五貴族の誰かが持っていたとして、その誰かが新しい魔王とならなければ、意味はない。

今代の魔王は簒奪者ではなく、後継者として正当に認められている存在であるから、逆に奪ったままでいることの方がマイナスが大きい。


「となれば、あそこじゃねぇ? くじあった倉庫」


 一度閉ざせば、十年間閉ざされ続ける……とされている倉庫。

その実、アンカーソン家による兵士たちの書類偽造などで開けられることはあったのだが、それでも立ち入った人数は少ない。

人目に触れることはほぼないといえるだろう。

ただしそこに収蔵されている物品の数を考えると……。


「人手が足りませんね……」


 内政は、今まで十貴族で行っていたものを半数でやっている。

今までの担当者たちが……そう、たとえばトバイアス・マーローのような怠け者が多かったとして、それらが今まで怠けていた分を取り返さなくてはならない。

四辺境伯家のものたちは訓練や解析で忙しい。

兵士たちもそれに準ずる、となればそんな膨大な量をどうさばけばいいか。

そしてタヌキは忙しいこともさることながら、文字がわからない。


「んじゃ、コーコーセーにやってもらわねぇ?」

「コーコーセー? 危険だろ……いや、まてよ。文字が読めないんだよな?」


 元々敵方であったニンゲンを重要なものに当たらせたら、どうなるか。

情報を抜かれるどころか、見つかった新たな情報そのものを隠匿されかねない。

だが、それに当たらせるものが、情報を読み取る能力を持っていないなら?

すでにコーコーセーたちが持たされていた例の盗聴器は、音声のみを送信するものであると判明している。

情報はかんたんに形を変えることができるが、それは変化させることができる者でなくては不可能。

たとえば、耳で聴きとった音を伝えるのに、文字が書けなければ、声で音として発することしかできない。


「それにさ、確かこの国、大事な契約書のインクって決まってるんだよな」

「はい、竜の血……あ」


 小さく『魔王』が声を上げる。

以前、兵士の契約書を書きかえるために使われた二種類のインク。

『竜の血』と『道化師の虚涙』。

竜の血はインク消しでは決して消えない。

道化師の虚涙は全部消えてしまう。

だからこそ、竜の血に近い赤色の道化師の虚涙は、作っても使ってもならないものだった。

この国において、契約の文面は赤い。

読めなくても、赤い文面のものを選び出す作業はできる。


「おう、それだ」


 タヌキがうなずく。

そして赤い文面の書類すべてが、『当たり』ではない。

今必要なのは、単純な人手。

単純な作業に限らせるなら、人数が必要でもなんとかなる。


「そうですな、では念のためテストをしてからあたらせることにしましょう」

「そうとなれば、人数揃い次第さっそく作業させるか。ひとまず逆スパイを申請してきた娘と、盗聴器持たされてる娘は外して、そうだな、十人くらい選べばいいか。二十人のうち十人なら、その二人を外しても目立たないだろうしな」


 コアとレオンシオが手早く話をまとめる。


「もってこさせさえすれば、内容はこちらで確かめることができますな」

「内政の方で契約の方面に詳しいのは、やはりワイズマンの老公か?」

「魔力で契約を縛っている可能性もありますな。ダイオプサイトの手も借りた方がよいやも」


 淡々と、次々と、話が進んでいくのを『魔王』は必死で追いかけた。

この話について行けるのが魔王として当然なのだとわかっていたから。

手加減しない、いらないのが四辺境伯同士の関係性である。

それに追いつきたい……。

タヌキいうところの「よきにはからえ」なのだか、「よき」になっているかの判断は問われるものだ。


「では、この手順で話を進めてもかまいませんか?」


 くるりとコアが『魔王』に自分に話をふる。


「わかりました。お願いします」


 努力のかいあって、彼は即答できた。


「じゃあ、差が刺せている間にこっちで内政の方にも話を通しておく」

「ウツギ殿、そういえば例の水晶玉の妨害魔法の進捗はいかがですかな?」

「今も試用中ですが、おおむね順調ですね。どうやら据え置きのものなので機能が多いのですが、その機能を限定していけば我々にも作れるでしょう。通信に限れば彼らの持つものと同じ大きさにして、双方向できるようになります」

「通信機! 技術革新きちゃったな!」


 続く会話にはタヌキも参加した。

こういった技術的なものは、この魔獣の世界にもあるものであるらしい。

『声だけならば、かなりの遠隔地とも即時やりとりができる』。

『小型化に成功すれば、移動しながらでも集団同士でやりとりができる』。

この二つだけでもとんでもないことになるのは『魔王』にもわかる。


 ひとまずコーコーセーたちに書類を整理させること、技術をこのまま改造・開発し続けることなどが決まる。

そしてもうひとつ。


「偵察用綿毛の数も揃いました。平行して行えます」


 かねて懸念の偵察が可能になったということだった。

読んでいただきありがとうございます。

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