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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
85/147

十年目

「……俺たちの班も、本命じゃないとは思ってました」


 しばらくの沈黙ののちに、カズヒデが言葉を選び終わったのか口を開いた。


「でも、本命のはずの班まで壊滅を」

「うん、俺がこっちにきてから、もう二組『勇者』は来てる」

「それは……あっちでも、聞きました。すでに二組やられたって」

「お前たちの前に二組。お前たちだけでも三組。その後が無いとは考えられねぇ」

「……」


 それは、『選ばれた者』であるとされた者であっても、代替えがきくものでしかないという、そんな話。

カズヒデにとっては受け入れがたい……いや、誰であってもそんなもの受け入れられまい。

彼らは命がけなのだ。

だからこそ、彼らがそう思わないように、情報である程度誘導して、そちらに思考がいかないようにしていたものだろう。

「それ」をカズヒデに与えるのは……彼らが向こうに流す情報に、彼ら自身の手で取捨選択を淹れさせるため。

『賢い奴は利用されりゃ怒る。怒ったらどうなるかなんて目に見えてらぁな』そうタヌキはうそぶいたものだが、怒らせたいというよりは、見限らせたいのかもしれない。


 その後は、必要なものを質問したり、逆にタヌキがここではどういう存在なのかと質問されたり(それに対して「すごく、えらいぞ」などといっていたものだが)、この先のことをはなしたりといった、第一陣の少女たちと交わしたような雑談でもって終わった。

小さな菓子を渡して部屋に帰らせるのも以前と同じだ。

小さな甘さは心の疲れに一番利く。

カズヒデが終わったら、また別の少年への面会がまっているが、内容は大して変わらないだろう……。


◇◇◇


 そうやって数日かけて、一人と一匹は十人の少年少女から話を聞きだした。

すでに口裏あわせはしていたようで、キミヒコが何をされていたかについては、知らないの一点張り。

ただ、治すことができるという点は例外なく喜ばれていた。

正直あんな風になるなんて思いもしなかった、と呻くようにいっていたのが数人いたのは、あの壊れたような動きがよほど恐ろしかったためであろう。

十人の内、少女一人が逆スパイを申し出るというハプニングはあったものの、驚く『魔王』をよそにタヌキは「気を遣わなくていいよ」とさらっと受け流した。

たしかに信用できるかどうかでいえば、「信用しろというほうが無理」というものだろう。

引きさがりはしたが、たぶん後で何らかの接触をしてくるのではないかと予想されている。

それに対する用心も、兵士たちに周知しなくてはならないだろう。


「それにしてもよぉ、こうなってくるとやっぱり待つしかねぇのか」


 ほ、と小さく息を吐くのはレオンシオ。

四辺境伯を集めた会議を始める前に、各々に配られた茶碗に満たされていた粉茶は、一滴も残っていない。


 兵士たちの士気は今現在も保たれている。

だが待機というものは、体力を温存できる代わりに、状況によっては緩みが生じかねない。

準備ができていればいるほど、「まだかまだか」という心持になるのは当然だ。


「そういうな。先代も先々代もその前も、我らはただ十年、手をこまねいて死を待つばかりだった。今は待つにしろ、まったく別物だろうに」


 苦笑するマカールの指先には、いつもの焼き菓子。


「そうでしたな。……思えば、十年。選ばれた者たちは逃れ得ぬ死の苦悶に十年もの期間、焼かれ続けていたも同然」


 焼かれる、とは南方領のものたちをして、最恐の苦痛であり、最悪の死に方。

コアの静かな嘆きにウツギもまた同意した。

ここにいるものはタヌキをのぞいて、みな、身内が十年に一人ずつ生贄として死んでいった。


「そういやさ、俺不思議なんだけど」


 そんな中、タヌキが挙手をする。


「みんな、強いじゃんか。今までずっといっしょにやってきたけどさ、二組目のやつらな、あいつら、相手にもなってなかったろ?」


 タヌキがいっているのは、西方領の蟲群の巣に転送されてきた『勇者』たちのことだ。

半数をいちどきに戦闘不能状態に追いやったとはいえ、あまりにもその後があっけなさすぎたと。

今代に集った四天王役は、たしかに四辺境伯領で最高の人材である。

だが必ず死ぬからと、先代以前には戦う力も持たないようなものを選んだだろうか。

むしろ今までの身内の仇、一矢報いてやろうというものも多かったのではないかと。

だというのに、あの二組目の『勇者』も、そして一組目の『勇者』も、魔王は殺せて当たり前といった様子だった……と。


「それが不思議な事なのです」


 ウツギがため息を零した。


「今まで登城したものたちは、サントウ家のなかでも優秀なものたちを送り出してきました。生還の可能性にかけて」


 しかしそのことごとくが、帰ることはなかった。

防御を固められるものも、魔法での回避ができるものも、また強力な攻撃魔法を扱えるものも、……それこそ一点に限るならウツギより腕が立つものたちが、十年目にみな死んだ。

五年目に最初の『勇者』役が訪れた今回とは違って。

それが、不思議なのだと。


「私も気になっていました。……叔父はもちろん、四天王のみなさんとは比べようもなく弱いです。ですがそれでも、城に集められた兵士たちは少なくとも毎回百人はいたはずです。それをほぼ無傷の状態で全滅させうるとは思えないのです」


 『魔王』も、また。

普通の兵士であったとしても、数が数だ。


「……なぁ。講和とか結んだの、上位貴族の連中だったよな? ぶっちゃけあれ、条約っつーより、契約に近いよな……? 中身、調べてみねぇ?」

読んでいただきありがとうございます。

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