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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
80/147

近景:和秀のはなし

あとがきに二班のメンバー名を加えました。

 リーダーにと指名された神戸和秀にとって、仲間はなにがなんでも守る物だった。

すでにクラスメートの三分の一は、「あっけない」といっていいような状態で喪われた。

そう、彼は思っていた。

日本に戻ることができるかどうかはわからないが、先生と運転手さんとガイドさん、三人の大人が彼らを守るために死んだことを伝えるために、とにかく生き延びなくてはならない……。

そんな思いが、彼らの中には共通して有った。

それなのに。


 魔王城への突撃後、決死の覚悟とともにバーサークを決行した友人は、赤子の手をひねるように無力化されてしまった上、人質にされてしまった。

自分たちがいうことをきかなければ、友人はスライムの中であっという間に骨まで溶かされてしまうだろう。

和秀の率いる二班は、これをもって実質失敗した。

ここから先は魔王側に従うしかない……。

そこまでの早さに、彼ら二班は、三班同様の餌、あるいはくべられるべき薪として、こちらに送り込まれたのだと悟った。

善戦すればいい方、元からあてになどされていない。


 装備品をはぎ取られ、簡易な服に着替えさせられると、彼らは男女別で別室に入れられた。

件の友人、二村公彦はスライムに包まれたまま、どこかに運ばれて行ってしまった。


◇◇◇


 牢とはいえ、不潔ということは決してなく、元々は牢ですらない普通の部屋を三人で使うように指示された後、食事も出された。

内容はパンが二個に野菜と肉のスープ。

野菜スープは具が多く、味も濃い目。

見回せば兵士たちは見張りについているものの、特に注視しているような様子はない。

だが添えられたカトラリーは、木製の匙が一本きり。

隠そうとしても三人ずつの部屋では、食器を返す時に確認されて終わりだし、木製の匙で掘るには壁は強すぎる。

和秀は脱出と反抗を別の方法で考えることにした。

いや、諦めることをそう考えざるをえなかった。


 ……それでも、食事は美味かった。

あちらの国で自分たちに出されていた物に文句をつけるのはよろしくない、ということは彼もわかっているのだが、なんというか、一皿にまとめてぐちゃりと載せられていると、食欲がわきにくかったというのは事実。

味が薄いというのがそれに拍車をかけ、彼らは自分たちが食に関しては贅沢な環境だったのだと思い知らされた。

それに住環境に衣服、自由、生活、勉強……。

奪われて初めて理解した。

だがここでは、昼の間は監視付とはいえ部屋を解放され、他の部屋の男子や女子にも会えるし、特に何か話すことを止められることもない。

むしろ完全に放置されているかのようでもある……。


 そんな彼らに解放された部屋で、和秀は三班の女子が物陰で何か不思議な動きをしているのに気付いた。

手でもう片方の手を覆い、そこに顔を近づけている。

小さな声でなにごとかいっているようだが、小さすぎて聞き取れない。

そんな彼の様子に気づいたらしい、別の女子が彼をそっと読んだ。


「……志水さん、通信してるの。邪魔しないであげて」


 その女子、八木千鶴子は、たしか三班のリーダー役になっていたと彼は思い出した。

彼女がそのままこちらでもまとめ役になっているのだろう。

今の和秀と同じように。

志水初穂は見張り役の兵士の、ちょうど死角になる場所にいて、それに話しかけるなら死角の外からということになる。

通信というなら、スパイ行動か……。

千鶴子のいうとおりだと、和秀は視線を外し、その不自然さをカバーするのに千鶴子と話し続けることにした。

折よく、彼女の方も話したいことがあるから、彼を呼んだらしい。


「神戸くん、中田くんのこと何か知らない?」

「中田か……二村と同じで、毎日俺たちとは別の部屋に連れ出されてた。たぶん同じようになってると思う」


 和秀からばかりではなく、他のクラスメートからも『二村公彦』がどんな状態になったかを三班の少女たちは聞いていた。

それと同じと聞かされて、千鶴子の顔が青ざめる。


「そんな」

「……ああ」

「志水さん……」


 小さな、呻きのような呟きとともに肩を落とす千鶴子の様子に、和秀も悟る。

ああ、そうだったな……。

と、同時に一班の一幸と話していた事を思い出す。

つながりのある人間同士を、丁寧なほどに引き裂いているようだと。


「たぶん、一班も近いうちにこっちに来ると思うよ」


 なんの慰めにもならない。

それでも和秀はそういわざるをえなかった。


「それに……変な話だけど、魔王たちは二村を治療してくれているみたいなんだ」


 和秀の目の前で千鶴子は眉をひそめた。


「信用できると、思ってる?」


 一度裏切られ、利用されたという経験が、彼女を用心深くさせてしまったのは当然だろう。

あるいは目の当たりにした、人間に近いが決して人間ではないモノの存在も、その疑いを強化したか。

人間じゃないものが、自分たちをまともに扱ってくれるか? ……同じ人間にだって酷い扱いをされたのに。

それに三班のリーダーとして、元より責任感のある少女だったのが、班員を守ろうとすることにもつながっていた。


「信用できるかは置いとくよ。二村は、……もうあいつらの手の内なんだ。どうしようもできない」

「それは、そうだけど」

「治ったなら……ごめん、もう治ったら儲けものみたいな段階かもしれない。あの連中にとったら、俺たちは何も惜しまなくてもいい存在みたいだから、あっちで何をされたか……」

「そう、ね」


 もしかしたら、「ここの連中」も、「あの連中」のように自分たちを扱うかもしれないという所に再び行きついて、千鶴子は黙ってしまった。

そう、彼らがどうなるか、彼らにはまったくわからないのだ。

読んでいただきありがとうございます。


以下簡単に二班の名前


・男子 全員が前衛

神戸和秀 リーダー役 委員長

二村公彦 (バーサークを仕込まれていた)

芦村研二 

光村敏彦 

秋葉駿吾 

牧崇広  

・女子 みなと以外は後衛

大川薔 

藤波みなと

水野芹 

小池ひとみ

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