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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
76/147

戦果は素材 1

 『救国の魔獣様』が戻ったことは、夜更けであってもすぐに見張りの兵から、騒ぎに起き出してきた『魔王』へと伝えられた。

なにしろ地響きのような音が近づいてくるわ、それが消えるなり空からヒラハラと一枚の紙が落ちてきて、地面に達するなりそれが消えてタヌキがあらわれるわの、地球でいうならマジックショーばりの光景を見てしまったのだ。

大騒ぎになるのも当然だろう。

そしてまた、『魔王』が疲れ切っていても起き出してくるのも。


 タヌキは再会するなり『魔王』にとびついて、「ただいま! 書くもん用意してくれ」と挨拶と同時に主張した。

タヌキがどんな収穫を得たかを知らない『魔王』は目を瞬かせながらも求められたものを用意した。

「海の外を見てきたぞ」

 そういいながらタヌキは羊皮紙に文字を……『魔王』の知らない文字をさらさらと書いていった。

タヌキなりのまじめな顔で羊皮紙に書いていくのは、うねうねとした曲線の多い文字。

「正しいかはわかんねぇ。耳で拾ったやつだからな。……よし、じゃあこれ明日……もう今日か? 日が昇ったら読み上げるから、こっちの文字に書きなおしてくれ」

 そういって、タヌキは一仕事終えたと、気の抜けた笑顔を見せた。


◇◇◇


「よぅみんな、帰って来たぞ!」


 朝の食堂に顔を見せたタヌキに、兵士たちがわぁっと駆け寄った。

それでももみくちゃにするようなことはなく、一歩引いてその言葉を待つ兵士たちに、タヌキは少々わざとらしい仕草でコホンと咳ばらいをした。


「海の外を見てきた! 敵の形を見てきたぞ!」


 またしても歓声があがる。

騒ぎから一晩、どんなことが伝えられるのかを心待ちにしていたのだ。


「んでは……」


 タヌキが国外の話を始めている間に、『魔王』はそっと四辺境伯を呼んだ。


「これはタヌキ様が調べ上げてきた国外の地名です。あくまで、音が「これ」というものですが」


 今朝がた清書した地名の情報、そしてタヌキが持ち帰ってきたという大ぶりな水晶玉の入った箱を渡す。

魔法陣を担当する二人は顔を見合わせ、うなずきあう。

転移魔法陣の記載のなかに、合致するか、近い響きのものがあるのだと、その表情が語っている。


「あと、書いているうちに気づいたのですが、この地名」

「ああ、それだ。ナイセルの魔法陣のもの」


 タヌキの話が盛り上がっている中、そしてそれぞれの副官たちがそれとなく囲いを作っているため、『魔王』と幹部たちの話はその外には出て行かない。

もとより兵士たちは「魔王様たちが大事な話し合いをしているんだろう」と放っておいてくれるのだが、問題は……。


「ウツギ様」


 ウツギの副官であるマツバが注意を促す。

コーコーセーたちが近くまで来ている。

聞こえたかはわからないが、この距離であればまず大丈夫だろうし、もし聞き取れていたらさらに近づこうとはしていないだろう。

さりげなく、彼らは話題を変える。

タヌキの話とは逸れないように、彼が見てきたものに関する話題に。


「なるほど、女神ということか……」

「ああ、あれじゃないか。聖女とやらの関係の」

「神格化というものですね」

「……めんどくせぇ」


 わざと粗暴に振る舞って怯ませる。

タヌキの話に寄れば、コーコーセーたちは体力的にはこちらの農夫よりも低い。

あと、荒事には慣れていないから、威圧には弱いだろうということだった。

何も知らない彼女たちには悪いが……。

案の定、レオンシオがちらりと見ただけで、目の前に炎が広がったかのように少女たちは身をすくませ、気弱なのだろう一人に至っては、となりの友人の方にすがる始末だ。

彼女たちが退いたところで、四人は場所を移すことにした。

目配せをした後、『魔王』に目礼をして食堂を出る。

盛り上がる兵士たちは、その頃には彼らの動きに気づくことも無かった。




 イリイーンの兵、そしてサントウの兵たちによって、手早く研究成果とタヌキの戦果を突き合わせたものがまとめられる。

作業は兵舎で行われているから、コーコーセーたちは近寄ることもできないはずだが、念のため城内のメイドたちにもしばらく人払いが言い渡されている。

彼女たちはコーコーセーたちに近い位置にいるため、ふと何かを漏らす可能性もある。

それが些細なものであっても、コーコーセーたちは本来文官のようなものであるらしいから、ちょっとした言葉でもつなぎあわせて、あの魔法陣から逃げ出してしまうヒントにしてしまうかもしれない。

敵方にいたものを抱え込むには、そういった用心深さが必要になるという事だ。

『魔王』に甘い所があるなら、自分たちがやればいい、そう四辺境伯たちは全員が思っていた。


「……なるほど」


 キルトのように繋ぎ合わせるのにも似た、情報の作業。

それらをひとまず終わらせるとウツギは独り言として小さく呟いた。


「おそらくは、これが」


 そして彼は続ける。


「ただ魔法陣を発動させるだけなら、決まった場所に送られるだろうというのは、今までの推測通り。では、以前お願いした件ですが、」

「ああ。図面なら昨日届いたところだ」

「こちらも揃っている。ただ、やはり傷つけたところが欠損していて」

「もうしわけない、石を並べただけのもので……」

「いえ、これだけ揃っていれば十分です」


 四辺境伯領のあちこちにあった、『勇者』を転送してくる魔法陣。

それは一度、ウツギによる返送が成功したため、「こちらから転移させること」も可能だと判明している。

類似の魔法陣の図面を比較することで、さらに地名を識ること、共通するものを特定することができるだろうと。


 さらに彼らの手元には、タヌキが奪取してきた水晶玉がある。

すでに防音魔法で処置をした地下室で解析が進められているが、中身はくだんの返送済み『勇者』たちの最後の音声とわかっているため、解析はその仕組みが中心になるが、これが技術革新になることは間違いない。


「それで一つ提案があります。……一度、偵察を送るのはどうかと」

読んでいただきありがとうございます。

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