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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
67/147

鳥を見た 3

 見間違いかと、タヌキは思った。

あるいはこの国、そして街はそうなのかとも。

だが外周から中心部、つまりある程度のところから上の階層をタヌキは見てきている。

この国のこの街は、地球でいうところの西欧から東欧にかけての人種がメイン。

同じく地球でいうところの東南アジア、東アジア系の人種は、市場で商人をほんの数人見かけただけで、服装もこの街のニンゲンとは違っていた。

だが武術の訓練とおぼしき行動を繰り返しているのは、服装こそこの街の労働者に近いものだが、東アジア系のニンゲンばかり。

それもみな同じような年頃の少年ばかりで、少女は二人ほど。

……ちょうど、高校生くらいの。


 タヌキはいっそと話しかけたい衝動にかられたが、今はその傍にそれこそこの街によくいる西欧系の、しかも体格のいい男が指導役としている。

時をあらためるべきと判断し、タヌキはこの場を離れることにした。


 どうやら当たりを引いたらしいと判断し、それを待つ間にここをさぐってやろうと決めた。

一度飛び立ったヒヨドリを顧みるものは誰もいなかった。


 寺でいうなら本堂と庭、あと見ていないのは宿舎らしい建物がふたつ。

一つは三階建ての木造。

もう一つは平屋の石造の建物。

石造の平屋は本堂に接しており、街の人々が出入りしている。

タヌキが中をうかがうと白い衣をつけたニンゲンが、来訪者らしいニンゲンに相対している。


「病院みてぇなもんか」


 体調のことを聞いているのを盗み聞きして、タヌキはそう判断する。

ふむふむとひとりごちながら、他の窓も見て回る。

ちょうど、窓の目隠しとしてまた敷地内の区画としてだろう、生垣とまではいかないが、木が等間隔で植え付けられている。

それがちょうどタヌキヒヨドリの足場になってしまっているのは、目隠しとしては皮肉だろう。


 治療の場らしい部屋をいくつか過ぎて、窓の位置が高く、小さくなった。

そこでタヌキはより大胆な行動、つまり窓から直接中を覗きこむことにした。

窓ガラスははまっておらず、格子のあるばかりで、おそらくこれは閉じるときには内側から戸を立てるなりなんなりしなければ、密室にはなりえないだろう。

だが今現在この部屋にいるニンゲンには、そんなことはできない。


「!」


 部屋にひとつきりの家具はベッドで、その上に一人の少年が横たわっている。

苦しみながらも声を抑えるためにか、口には布が咥えさせられている。

なにより異様なのは、左腕がぱんぱんに、そして紫に無惨に腫れあがっていること。

うめき声さえも抑えながら、窓の採光以外は灯りらしいものもない薄暗い部屋に、少年は一人寝かされている。


「怪我か? 伝染病ってこともあるよな?」


 見た所隔離されているようだし、と思いながらタヌキは次の部屋の、同じような窓に移る。

そこも同じような部屋に、同じようなベッドで、同じ方の腕を腫らしながら、同じように少年が横建っている。

そして同じように東アジア系に見えるニンゲンで、……庭で訓練をしていた者たちと同じ年ごろに見えた。


「……?」


 小首をかしげながら次の部屋へ。

そこもまた同じで、少年が苦しそうにしている。

……目を閉じてはいるが、眠っていないかもしれない。

口に咥えているのは猿ぐつわでもない単なる布らしいのに、落ちる気配も無い。

少年自らが咥え……いや、噛みしめているのだと、それでわかる。


 そのまた継陽の部屋でも同じ、

みんな同じ年頃で、同じ方の腕だったのを確かめてから、タヌキは窓から離れ、近くの木に飛び移る、

一際葉の茂るあたりに身を隠し、念のためにさらに小さな毛虫に化けて葉裏に隠れる。

鳥が来たならカラスにでも化けて追い払うつもりだが、今はニンゲンに見つからないようにするのが大事だった。


 ひとまず、ここから魔王の城までは一日もかからない。二日は観察に費やせるとタヌキは考えた。

他の陸地を探すことも考えたが、今はどうもこの東アジア、それも日本人に見える少年たちが気になった。

もしかしたらあの少女たちと同じように、この世界へと攫われた日本の高校生なのではないかという懸念がすてられなかった。

なにより、魔王の国にいちばん近いニンゲンの国である。

転移魔方陣が確立される前には、おそらくここから対魔王の軍や勇者が送られていただろうからには、という推測もあった。


 そうやって葉裏でもぞもぞと考え事をして時を過ごしたあと、日が傾いてきたのを見計らってまた鳥の姿で飛び立つ。

屋根の上から庭を見ると、訓練をしていた少年たちは宿舎らしい建物に入っているのが見えた。

電気もないこの世界で、灯りの燃料である油は貴重だろう。

夜目の効く魔王の国の人々はわずかな灯りで動くのも支障はないが、ニンゲンはそうもいかない。

あの人数を過ごさせるなら、まだ明るいうちに「今日」を終わらせようとするのが道理だ。

ヒヨドリではその観察に向かないと判断し、建物への侵入も考えてタヌキはスライムに姿を変えた。

透明な上に無色の身体は、灯りがあっても発見しにくい上に、床にかぎらず移動ができるから天井にでも貼りつけばさらに見つかりにくくなる。


 腹へっただの、疲れただの口々に言いながら宿舎に入る少年たちを追うタヌキスライムは窓から入るこんで、そのまま床の片隅に身を寄せた。

傾く陽の光では、部屋の隅に影ができる。

するする流れていくものを、見つけられるニンゲンはいなかった。


 少年たちが入って行ったのは食堂らしい。

木皿の上に料理が盛られている。

現代のビュッフェのプレート皿と似たようなものだが、あれほど多彩でもなければ量が多いわけでもない。

リゾットのようなものが、皿の上でふたつの山を作っている、

両方煮物のようなもので、生野菜はないらしい。

その上あまり美味いものでもないらしく、少年たちは空腹であろうに嬉しそうな顔はしていなかった。

味はともかく、朝から何も食べていないタヌキは、それを見ながら心の中ですきっ腹をさすった。

読んでいただきありがとうございます。

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