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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
66/147

鳥を見た 2

 勢いよくタヌキは空を飛んでいく。

眼下にあった魔王の城は見る間に遠ざかり、小さくなっていく。

以前、南のエルア領からニンゲンたちは船で侵入してきていたというのを聞いていたので、一旦南へ出ることにした。

地上よりも強い日の光に目を細め(ているつもりだ。ジェット戦闘機にキャノピーのガラスはあっても目は無い)タヌキはその向こうを目指す。

湖の向こう、海に出てしばらくしたとき何かを突き抜けた、と思った瞬間にタヌキは空気が変わったのを感じた。

いや、高度一万メートルの気温なんて、地球と同じでマイナス五十度よりなお低い。

それに変わりはない。

だがタヌキの鉄の肌が、何かが違うと感じ取った。


 海上をしばらく飛ぶと、もくろみ通りに陸が見えてきた。

港も、また。

そこに泊められた船は大きなものばかりで、この港がこの陸の国の海の玄関口であることと見当がつけられる。

だがジェット機の高度と速度で判別のつくような軍船は見つけられない。

本来なら高度と速度を下げてもっと詳しく、といったところだが、ここは本命ではないと見て、タヌキはそのまま上空を通り過ぎた。

街の周辺は緑豊かで、穏やかな気候のように見える。

……南のエルア領よりさらに南となれば、地球でいうところの赤道直下ほども暑いかとタヌキは思っていたのだが、植生がそれっぽく見えない、ような気がする……。

むしろ北半球、ヨーロッパの辺りのような。


 地球なら、この高さはそこそこ飛行機がいるらしいのだが、さすがに誰も飛んでいない。

この高さにまでくるのはドラゴンにも無理だろうと、その当のドラゴンにも化けられるタヌキは思うし、だからこそこの高さだった。

だが、端的にいえば雲の上である高さからの偵察は地形をさぐるレベルのものしかできないだろう。

次の街を見つけたタヌキは、それゆえに高度と速度を下げつつ姿を変えた。

ジェット戦闘機からプロペラ機に、プロペラ機からグライダーに、グライダーから大型の猛禽類へ、そして小鳥へと変わる前に、タヌキは周囲を見回した。

より大きな鳥に襲われるのは避けなければならない。

大型猛禽類のままでいければ楽なのだが、人のいる街でワシやタカは目立つ。

獲ろうとする者もあるだろう。

ありきたりの小鳥がサイズもいちばんいいが、だからこその確認だった。

敵影無し、街の周辺も大型の鳥が営巣できそうな場所でもない。

街の高い壁にいたるまでには、タヌキの姿はありきたりのヒヨドリに変わっていた。


「ぴょろろろろー……で、よかったか? ま、鳴けなくてもいいか」


 すいっとタヌキヒヨドリはその街がなんなのか知らないまま『教都』に潜入してしまった。


 『教都』はこの小さな宗教国家の首都である。

少なくとも国の第一の都であるからには、といいたいところであるが、この街のインフラは整いすぎていた。

石畳の道路、整然とした街並み、それでいて街中にはいくつもの広い公園や屋上に庭園をもつ家もあって緑も多い。

上品な高級住宅街といった街並みが、城壁近くまで続く。

市場なども整然としたもので、最初の段階で街ごと設計図を作ったかのような街である。

ここは市場、ここは住宅街といった具合に。

自然にできあがっていった街が、芯となる建物や川などへと集合していくような形であるのに対してのそれ。

タヌキの知るうちでいうなら、発展していたナイセル領の城下町といえる街より美しいだろう。

ただ、タヌキのあずかり知らぬことだが……この国の規模に対して、街が美しすぎるのだ。

作り物めいた、あるいはテーマパークの街並みにも類する美しさだろうか。

常に誰かが整えるか、乱さないようにする者ばかりが住むのか。

つまり、この国は豊かなのだろう。……不自然なほどに。


 タヌキヒヨドリはそんな街の中をヒヨヒヨと飛んでいた。

主にはニンゲンの街の様子を見るために。

ニンゲンの身なり、商店に並ぶ品物、露店の様子、街の活気、建物の堅牢さや傷み具合。

文明の程度を計っている。

それをさぐりながら不自然な美しさを見落としたのは、タヌキが現代の日本にいたからだろう。

電線にとまることはできないから、木々を文字通りの止まり木として待ちゆく人々の様子を見ているタヌキを、茂る葉がほどよく隠してくれた。

城壁近くから中心部、つまり大きな建物のある方向へと飛びながら、その移り変わりを見ている。

通り過ぎたのは、貴族か商人かはわからないが、ともかく金持ちの家だろうという屋敷。

たぶんこの街の領主に近い存在なのだろう。

それをさらに上回る敷地面積を持つのは、学校かな?と思うような建物。

敷地内にはメインだろう建物の他にも、いくつか建物がある。


「ふむ」


 緑豊かなその敷地をひとまわりした後、タヌキはいちばん大きな建物へと近づいた。

鐘楼のある尖塔をもつその建物は、近づくと柱や壁などに花の意匠が飾られていることがわかる。

大きく開け放たれた窓からは、一定の速度で女の声とそれを復唱する大勢の声がする。


「寺かなんか、そういうもんか」


 となれば、学校みたいなつくりも納得できるとタヌキは思った。

本堂と宿舎みたいなものだろうと。

じゃあ校庭みたいな、開放的な場所で棒を振り回しているのは……? 僧兵だ!

ヒヨヒヨと飛んでいったタヌキはその近くの木にとまり、その様子を見ようとした。

……あれ?


□□□


 さてではタヌキに通り過ぎられた街ではどうだったか。

当然ながらこの世界の住人は飛行機雲など見たことも無い。

空を一直線に断ち切るような白を見つけた人間の、おどろくまいことか。

しかもその白はぐんぐん伸びていく……どんどん、先へ。

天変地異かと騒ぐ人々の姿は、タヌキのいる高さからは見ることができない。


 すぐに早馬が仕立てられ、その白が伸びていく先へと報せが出される。

だが馬がジェット機に追いつけるはずもない。

それが地上からはどれほどゆっくりに見えても、だ。

その早馬を駆る者は絶望しただろう。

報せは決して間に合わないと、目の前で見せつけられる。

白の伸びていく先にあるのは、この国最大の都市にして、国教であるルブス教の本拠地のある首都。

あの雲がもし、悪霊であったなら。

馬上の使者は祈った。

教女さま、あの悪しきものから都市の人々をお救いください、と。

読んでいただきありがとうございます。

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