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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
生贄勇者編
57/147

遠景:歪な組み分けのそのわけは

 『魔王』の城には、そこに通じる魔法陣を使うことになるが、十人ずつしか使えない。

そういわれ、彼ら……某高校二年三組は十人ずつに分けられた。

男女十五人ずつの三十人クラスなのだから、男女五人ずつ十人で三組つくればいいものを、男子六人女子四人を一組、男子九人女子一人を一組、女子十人で一組の三組。

それも好きなもの同士で組むようにというわけでもなく、お前はこっち、お前はあっちと割り振られた。

曰く、神のお告げであるらしい。


 それでも、割り振られた組の内容を見ればなんとなく感じるものはある。

体格のいいものを集中的に集めて、主力としているのだろうな、と。

助けてくれた女性のいうこと、そしてこれを拒めばどうなるかわからない後の無さから、彼らはそれを受け入れた。

以降は、その組で魔法や剣術など、魔王を倒すための力を身につけることになる。

この宗教施設は裕福であるとはいえ、三十人の大所帯だ。

早く厄介事を片付けさせたいのだろう。


「なぁ」


 そっと、深夜同級生へと話しかけたのは、三宅一幸。

彼らを促して、女性についていかせた少年。

そして話しかけられたのは、神戸和秀。

元々このクラスの委員長だった少年。

彼らはそれぞれ、女子の一人の班、女子が四人の班に振り分けられていた。


「……なにか?」


 部屋の片隅の狭いベッド。

この教会……というべきか、神殿というべきか、元々はここへの巡礼者を泊めるための部屋に、彼らは住まわされて、もう一週間にもなる。

日本で使っていたものよりも、目が粗くがさがさしたシーツと硬い寝床ではあったが、成れない訓練をさせられている身、風邪をひかないような寝床でとにかく眠れるだけで、彼らは満足せざるをえなくなっていた。


「……今更だけどさ、どう思う? あの班分け」

「たぶん、だけど。女子の多い班は元からあまり戦力視されてないと思う」


 その上で、「付き合っていた男子と女子」をことごとく別の班にしてある。

まるで、これでは。


「話の通りなら、それから、俺たちをこっちの常識で見てるなら、女子の班は最初から……」


 そこで彼らは黙る。

ゲームやファンタジー小説では、女性戦士はいても当たり前の存在だ。

だがなんの訓練も無く、動ける人間だって運動部が限界、付け焼刃の攻撃や魔法となれば性別関係なく戦力にならないだろうが、女子は特に腕力の面で不利すぎる。


「かも、しれない」


 一幸は同級生を思い出す。

この修学旅行を前に付き合い始めた、と嬉しそうにしていた友人。

彼もまた例外なく、彼女と班を分けられてしまった上に、こうした大部屋では男女分けられているため、たぶんバスの中か『召喚』された現場かが、交際相手と話した最後になっただろう。

昨日も落ち込んでいた。

さらに双子のクラスメートも別の班に分けられている。

まるで、つながりをわざと断っているような印象がある。

そう一幸がいうと和秀もまたうなずいた。

もしそうだとしたら、彼らを観察した上で念入りに分断したということになりそうだが、そうする理由には一幸も和秀も、まったく心当たりがなかった。


「正直さ……戦うなんて、怖いんだ」


 ため息交じりで和秀がつぶやく。


「魔法も初めてできたときは興奮したよ、そりゃね。……けど」

「そうだな」


 他の人間を起こさないように気を使っているが、実際にはその必要はなかったかもしれない。

彼ら三十人は毎日を、夜明けから日暮れまで修行に費やしていたゆえに、この時間にはすでに深い眠りに落ちている者の方が多いだろう。


 体格に優れたもの、元から運動部だったものは重い剣やら槍やらもたされ、そうでもないものは様々は魔法を試みに使わせられた。

それはどうも、適性を調べるためであったようで、いくつもの種類の魔法を彼らは分担して練習させられていた。

一人は火、一人は水、一人は感知、一人は防御といった具合に、一人一つずつ。

「それ」しかやらない、「それ」一辺倒というのは、伸ばすには効率的だろう。

リソースの集中は一番簡単な効率化だ。

ただそれは、人間の教育として考えるならば歪で、「それ」しかできないことと背中合わせでもある。


 彼らは日本ではまだ子どもではあっても、決して愚かではない。

彼らをインスタントな戦力にすると同時に、「決して一人で行動しない」ように互いに互いを頼らせることになる。

戦場においてはそれが一番身を守るのによいとはいえ、「ここ」では身を守ると同時に彼らにつけられた首輪でもある。

一人では逃げ出せない。

数が多ければ目立って逃げ出すのは難しい。

そして逃げ出せたとして、はたしてその先は……?

そして彼らには、自分たちを守ってくれようとした先生たち大人の無惨な死が焼き付いてしまっている。

あんなに簡単に人を殺す連中にとって、自分たちはどうなのか、と。


「第一陣の出発……そろそろだって噂があるんだ」


 和秀の声に、一幸は唇をかむ。

ゲームでいうならラスボス戦。

そのど真ん中に、なんの力も持っていないも同然の彼らが送り込まれる。

もう一週間。まだ一週間。


「どこが、行くんだろうな」

「わからないよ。わからないけど……」


 間違いなく、第一陣になる班の被害は甚大なものになるだろう。

黙り込んで声を途切れさせた和秀の頭をちらりとよぎったのは、「全滅」という言葉だ。

おそらくはそれさえも、彼らを奮い立たせるための糧にされるのだろうということも、含めて。


「ウワサ……本当じゃないといいな」


 地球から遠く離れたこの世界からの声はきっと届く事は無いだろう。

それでも一幸も和秀も、祈る事しかできなかった。

彼らの、そして形は細部は違えど、他のクラスメートの祈りも願いも届かなかったことを彼らが知るのは、翌日。

そのまた翌日に第一陣が『魔王』の城へと送られるという決定を聞かされたときだった。

しかも第一陣として指名されたのは、外れてほしかった予想の女子ばかりの三班。


「まるきり、生贄になれって……いってるようなものじゃないか……」


 一幸の独り言は、誰にも聞こえることはなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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