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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
国内平定編
36/147

城内に蠢く 1

 下級兵たちの立ち入れる場所の探索はあらかた終わった。

魔法陣をひとつ発見することに成功し、おおむね目的は果たせたといえる。

ただ、魔法が守る扉などもあり、完全には調べ切れていない。

だが、候補の一つであった食料庫の奥には、彼らは入らせてもらえなかった。

そこから先はこの城の台所を預かる者たちの職域である。

それ以外のものが立ち入る事まかりならぬ、と。

しかしそこを無理に押しとおろうとする者はなかった。

……そこを守る者の意見がそうなら、それに従おうと。

この点において、今代の魔王の兵たちは、お互いの職分に立ち入らない慎みがあったといえるだろう。

魔王の権限を持ってそこを、とすることもできたろうが必要ないと『魔王』にも思えた。

必要ができたなら、向こうから言い出してくれるのではないか、とも。


◇◇◇


 魔法陣の発見と破壊を区切りとし、一旦探し物を終わらせる。

ちょっとした騒動になりつつあった城内の探索を、『魔王』はそういった形で収束させることにした。

もちろんこれからも、何かしらの異常が発見されれば探索は再開されるだろうが、それまではひとまずの安全は確保されたとしての決定だった。


「皆のおかげで、城内の危険は取り除かれた。ありがとう」


 そんな『魔王』の言葉に、兵士たちは満足した顔で己の持ち場に戻っていった。

本来、持ち場を離れるなどとんでもないことであろう。

いかに敵襲が無い時期とはいえ……クアドラド領、またこの魔王城事態にも突然の襲来の前例があるのだから。

だが、『魔王』の兵の長たちも四辺境伯もなにもいわなかった。

それが兵たちの士気にはよかったらしい。

魔王様は、自分たちが助力したことを喜んでくれたと。


「『魔王』様、おおよそですができあがりました」


 兵たちが持ち場に戻り、『魔王』たちも兵舎まで戻ったところで、コアが手にしていた羊皮紙を示した。


「陛下、こちらもです」

「おう、以下同じってやつだ」

「まじめにやれ、レオンシオ」


 四者四様に口にするのは、城内における間取りや部屋の位置関係について。

不自然なところを改めて洗い出した。

城内には四人とも自由に入れるのだが、どうしても注目を集めてしまって、己の違和感をはっきりさせることができない。

兵たちに遅れる形で城内に入る途中で、マカールが言い出したのを機として、この騒ぎに乗じて調べてみてはとすすめたのは『魔王』だった。

もちろん歩きながらの会話だ。

密偵らしい気配がついてきているのはわかっていたが、さて相手が聞き取れたかどうかまでは。

羊皮紙が手から手に渡され、『魔王』の懐に収まる。


 さて、タヌキはといえば城内をまわっている間中、『魔王』に抱えられるまま大人しくしていた。

まるでありふれた座敷犬かなにかのように。

城内の魔法陣を探すときなどは、何かしら『魔王』たちの知らない、鉄の大きな、自ら動く工具のようなもの(つまり、工事用の重機である)に化けて、壁を崩したりはしたのだが、それ以外では大人しいものだった。

その代わりのように丸い耳はせわしなく前後左右と動いていたのだが、それに気づいたものはごく少数だった。

それは今も。


「タヌキ様、なにか?」


 抱き上げていればさすがにわかる。

そっと小さな声で訊ねた『魔王』にタヌキは小さく答えた。


「気配、一つ増えて、また消えた。何か伝言しにきたのかも。……もうそろそろ、俺たちをどうにかするとかさ」


 物騒な言葉に、『魔王』は緊張とともに、しかしそれでも他に気取られぬよう、タヌキを抱きしめた腕に力を込めた。

その動きに、さりげなく周囲を固めていた者たちは話し言葉をやや大きめにした。

唇を読まれることはあろうが、タヌキのいうことまでは読み切れないだろうことは計算のうちで。


「だからな、俺ちょっと偵察出てくる。俺がいねぇの、なんとかごまかしてくれ」


 身代わりもちゃんと用意すっから、というタヌキの言葉に、何をするつもりかは、やっぱりまったくわからないが、それでも『魔王』はうなずいたのだった。




 『魔王』の私室のベッドにもぐりこむなり、タヌキは中の薄い毛布をつくねた。

もちろん密偵の目を避けるためではあるのだが、材料が毛布だからということもあるのだろう。


「タヌキになれ!」


 ぺしん、と仕上げのように前足が茶色の薄手の毛布の塊をはたく。

と、それはむくむくと姿を変える。

尖った鼻が突きでる。

前足と後ろ足が気持ちよさそうに伸びる。

尻尾がふさりと揺れた。

だが、生きているわけではなく、形成されたときに動いただけ。

くりくりと黒い目も、石か何かでできているボタンを縫い付けているだけ。

ありていにいえば、それはタヌキのぬいぐるみだった。


「よしよし」


 タヌキは化け術をもってして、毛布をタヌキ自身のぬいぐるみに変えてしまった。

その気になれば葉っぱであっても、好きなものに変えられるのが狐狸の化け術。

元から得意な術に、さらに守鶴和尚ゆかりの一族のもとで磨きをかけたタヌキのそれはかなり精度が高くて強固だ。

実際に爆発する爆雷を、石から作れる程度には。

タヌキは完成したぬいぐるみを、布団をそっとめくって様子を見ていた『魔王』に差し出す。


「明日から俺が出るときはこれを抱えててくれ。夕飯までには戻るから」


 いったい、何をどうするつもりなのかは言わないが、にこにこしているタヌキには何も言えず、『魔王』は布団の中に突っ込んだ頭をうなずかせるしかなかった。

読んでいただきありがとうございます。


守鶴和尚、つまりは分福茶釜のもとの話のタヌキです。

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