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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
国内平定編
33/147

遠景:四辺境伯領

 雪原の中だというのに、その一帯のみは黒々とした石の肌が見えていた。

それを見つけた者たちが、そろって表情を曇らせる。

九回の『封印行』、そのうちの何回かに、ここは使われていたのか。

もしかしたら雪熊の襲撃によって音信が途絶え、全滅したとされていた村の幾つかも『勇者』役の手に寄るものだったのかもしれない。


「若様は発見次第、機能を壊せとのおおせだ。工具を出せ!」


 騎狼隊による探索を組織したのは、魔王城からの報せを受けた老当主であった。

たったひとり残った孫の出陣に思う所があったのだろう、報せを受けるなり、騎乗の巧みな者を五騎一組として探索に向かわせた。


 北方イリイーン領は雪に覆われた地だ。

雪に足をとられない、騎馬ならぬ騎狼隊がこの地でもっともはやく移動することができる。

その能力をもってして、雪熊が我が物としていた土地をくまなく調べよ、と命をくだした。

老当主もまたグラキエース、その頂点のひとり。

いわば霜の老女王からの命令である。

おまけに次期当主である「若様」からの依頼ともなれば、乗り気にならない者の方が少なかった。

そして二日ほど念入りに探した結果、雪も積もらない石床を、雪熊の活動していた地域の中心に近い所で見つけることができた。


 石床に刻まれた魔方陣に傷が大きく穿たれ、文様を崩す。

「他にもあるかもしれない。探すぞ」

 白い狼たちは主人を乗せて、また走り出した。


◇◇◇


 大きく、扉が開け放たれた。

水中の城とは言え、エルア家の城の内部の半分程度、空気が満ちた空間がある。

その空間のうちひとつの扉だ。


「ここもか」


 床には魔方陣が色石を並べて作ってある。

すでに他の場所でも同様の物が見つかっていた。

ひとつは外からも見える、水中温室、ガラス張りの部屋のそのガラス越しに発見されもしていた。

ただ、この色石は埋め込まれているものではなく、たんに並べただけのもので、足を踏み入れた者が蹴散らすだけで簡単に崩れた。


「使い捨てかねぇ」


 しかもその色石の下に、お手本としての魔方陣があるかと思えばまったく無く……その呆気なさに、スケイルテイルの一人が呆れていた。

たしかに水中に有るこの城に飛んで来れば、到着時には劇的な感動も得られるだろうが、外に出るのも一苦労、来た魔方陣は到着時に仕えなくなるとなれば、二重の意味で「使えない」となるのは当然か。

「他の場所も探した方がよさそうだ」という声が上がるのも。

エルア領でも『勇者』が出没したことがある。

だったらどこか他の……人間が外に出るのが容易な場所に、別の魔方陣があるはずだった。


◇◇◇


 大樹の根方は深々と穴があき、もはや洞窟にも等しい大きさになっていた。

東方サントウ領の大樹はその大きさに見合った根を持っていたためでがあるのだが、そこに潜ろうとする者たちに相応の覚悟や装備も必要とさせた。

ロープを腰にくくりつけ、ゆっくりと一人ずつ懸垂下降していく。

根の分かれ方によって、横道が無数にできている。

その中にはもぐりこむことなく、彼らは手のひらに、タンポポの綿毛のようなものを載せて息を吹きかけた。

吐息に乗って飛んでいくそれは、ヘルバの魔法使いにとっては小さな偵察機である。

ふわふわと、穴の隅々まで飛んでいく綿毛たちは迷うことなく奥へ奥へと進んでいく。

そして、しばらくすると、幾人かに「感あり」との受信があった。

その横穴をメインに、人手に寄る探索が行われる。


 見つかったのは、地中にはまずない人工的な石の壁。

防毒措置が魔法に寄って施されていることはすぐにわかった。

その壁の向こうに何か空間が作られていることも。

壊された壁の向こうには、はたして広々とした地下空間が有り、床には魔方陣が刻まれていた。

すぐにその文様は壊され、さらに探査がおこなわれる。


 床、天井、壁のすべてが防毒措置を施されたものであること、またここから出る地下道も同様に。

長く伸びた道の先は、大樹が現れたために棄てられた近くの村の廃墟にまで続いていた。


「ずいぶん手が込んだ造りだな」


 呆れたようにも聞こえる声は、しかし別の意味も持っていた。

こんなもの、誰が作れるんだ?


◇◇◇


 西方クアドラド領の探索は北方とある意味似た形で進んでいた。

ケンタウロスのウングラも多いので、その機動力を持って領内を見て回る。

彼らが奔るうちに、藪の中に石床が見つかった。

魔方陣を刻まれた床は、彼らの知らぬことではあったが北方のものと造りは同じ。

藪の中には蟲から身を守る壁は無いから、ここまで足を踏み入れるのは難しかっただろう。

逆にここをスタート地点にする相手には、ウングラたちから身を隠す意味で有利だ。

さすがに蟲の巣以上の安全さは望めないからか、使われた形跡などは無かったが、近くには小さな村もある。

その魔方陣が発動していたら、その村が補給に使われていた可能性もあった


「同じような条件なら他にもありそうだ。皆に、藪を探せと伝令を」


 留守を任された者は、領内の地図を広げ、やや具体的になった探索方針をうちだす。

大きな穀倉地帯である西方領だが、木々の茂る森や藪はあちらこちらに点々とある。

そのうち幾つに魔方陣が隠されているかは、探してみなくてはわからない。

読んでいただきありがとうございます。


今回のお気に入り:たんぽぽドローン

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