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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
狸と狐編
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会議

 寝室に運ばれた『魔王』はうつらうつらとしながら、世話をされた。

寝間着への着替えと、それに伴う清拭。

それからせめてこれだけでもと用意された白湯を飲んで、『魔王』は寝具にもぐるなり眠ってしまった。

それを見届けて、ウツギたちは会議室へと場所を移した。

そちらでは、内政の担当者たちである五貴族が顔を揃えている。


「では、進められるだけ進めておこうかねぇ」


 上位五貴族の失脚からこちら、下位五貴族をはじめとして事務にあたれるものは全員といっていいほど、彼らの後始末と国家システムの再構築に駆り出されていた。

アーリーンたちはその纏めやらチェックやら進捗の把握やらで、出陣の場にもいられなかったのはその場の誰もが知っていた。


「みなも知ってのとおり、『封印行』にかかる諸費用のほとんどが外国からの出資であったことが判明している。つまり兵士たちの給料をはじめとしたありとあらゆる金だね」


 まぁ豪気なことだとアーリーンは呆れたようにいった。

その中の幾ばくかはエドマンドをはじめとした上位五貴族の懐におさまっていた。

……だからこそ、彼らは『封印行』の間隔を半減させることに同意したのだろう。

死ぬのは彼らではないから。

そして、その上で入る金は倍増することが見込めるから。


「さて、その金は前金だったようでね。予算としてはあと四年分。だがその先は無い。私のいいたいことはわかるね?」


 要はあと四年で国の経済を立て直さなくてはならないということだ。

そこで、会議室中央の大テーブルに静かに、そして丁寧にさまざまな資料が広げられる。


「元からの耕作地はもちろんだが、現在荒地になっている土地の回復なども含めた計画書を作ってみた」


 バイロンが広げた内容を説明する。

開拓に適している土地と植え付けるべき作物。そして方法。

今までは魔獣がいたために手を出しにくかった辺境地、元上位五貴族所領、そしてその上位五貴族がわざと手を入れないようにしていた場所、そも荒野であった場所などがあるから、土地は充分にある。

ユークレース家の治水の知識を総動員したとおぼしき資料には、詳細な説明も加えられてわかりやすい。


「耕作地の地力の回復はわかりやすいが、荒地は開拓した上で土地を畑にせねばならないから、これこそ四年かけてもまだかかるだろうが、そこから先のこの国に必ず必要となるから計画に入れさせてもらった」

「開拓計画にも、長期と短期とのタイムスケジュールを組み合わせてみました。ただ、人手が……」


 メリンダもその説明に加わる。

重機らしいものはあっても、動力源はだいたいが人手か家畜。家畜のコントロールにも誰かが必要。

必然的に大規模なものには人手が多く必要となる。

その点はその場にいるものたち皆が理解していた。

ただ、ため池の整備の鬨のように辺境領の兵士たちを借りるわけにはいかない。

なにしろ辺境領の開拓計画も同時進行するのだから、そちらに振り分けられることになる。

そこで城の守備兵たちだ。

人数はおよそ百人、誰もが体力や腕力には自信のある健康な若者だ。

(それはすなわち、十年ごとにそんな若者たちを百余人、犠牲にしてきたということでもある。)

本人たちの希望はあるが、作業に当たってもらうならば最適だろう。

……ただ、こればかりは今のところすべて机上の計画に留まるものだ。


「農業の方は、ひとまず船員目を通しておいておくれ。その上で、次の会議で具体的なものを組み直そう。次の項目に移るよ」

「では、次の資料を」


 続けてレジナルドが資料を提示する。


「亜竜の巣の有る山が鉱山だったという調査報告です」


 亜竜。『魔王』の城が『封印行』にみまわれた後、虐殺後にあらわれるスカベンジャーである。

プテラノドン類似の姿をしたそれは、タヌキがあらわれた日にもこの城を襲った。

タヌキが迎撃に出たため、そのほとんどは倒されている。

亜竜の主戦力……蜂でいうならば働き蜂がそのときに来ていたのだろう。

あらためて亜竜の山を調査したところ、居残っていたと推測される亜成体ならびに幼体の亜竜の骨になりかけた死骸を発見した。

食料を求めていたからこそ、先祖代々使ってきた『餌場』に『食事』の気配があったから向かったのだろう。

餌を持ち帰るはずの空を飛べる個体が戻らねば、未熟な仔は生き延びられないのは自然の摂理ではあろう。

そうやって安全を確認した上で調査が行われたのだという。


「採取されたものの一覧は表の二番に。もっとも貴重なのは鉄鉱石銀鉱石ですが、この二種は強い魔力を帯びた魔鉄と魔銀であることが確認されています」


 魔力を帯びた金属は、元の金属とは別物といえるだろう。

取り扱いの難易度は変わるが、錆などの腐食はおこらず、また加工後にわずかながら自己修復能力が発生する……。


「そういえば、聞いたことがあります。ニンゲンたちがこの国を襲っていたのは、魔鉄があるからではないかと、父が」


 ウツギの父、アコウの言葉が当たっていたならば、皮肉にも上位五貴族の支配という形が魔石鉱山を隠しきっていたということになる。

ニンゲンが直接統治していたならば、各地の調査は必ず行われ、地下資源にかぎらずすべての資源がニンゲンの支配下に置かれていたはずだ。

それほどに価値のあるものの発見の報告に、彼らは顔を見合わせる。

生かさず殺さずが上位五貴族の統治法であったこと、亜竜の棲家であったことなどが重なって、鉱山資源は手つかずのままで放置されていた。

だがこれもまた採掘するにも健康的な人手が必要であるし、なにより……


「ですが、これを利用するためには鉱毒への対処などに準備が必要でしょう」


 その一言に、全員がうなずいた。

国を富ませようとするときに、功や成果に焦って土地を傷つけ、実りを減らすのは愚策というものだろう。

鉱山に関しては調査をメインにし、もろもろの用意が整ってから採掘をおこなうということで意見が一致した。


 そうやって『魔王』が眠る間にもいろいろのことが筋道をたてて決まっていった。

今日は区切りであって終わりではなく、明日も続くのだからと。

そんな会議の様子を、タヌキは部屋の片隅、荷物の上に丸くなって見ていた。

読んでいただきありがとうございます。

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