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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
狸と狐編
114/147

立案

 いつもと同じ朝食を、しかし食堂ではなくベッドの上で『魔王』は食べることになった。

大事を取ってとのことで、そのことでもやはりあの一日は夢ではなかったのだと彼に自覚させた。

で、あれば……己が見てきたあの国の様子もまた夢ではない。


 パンをちぎって口に運び、水を含んで飲みこむ。

その動きは上の空で続けられ、もう味も感じてはいないほど『魔王』は思考に没頭していた。

あげく、ちぎっていた方の手が空振りをした上、パンを持っていた方の手も空っぽで、食べきったことにすら気づいていなかったほど。


 水とパンだけの朝食が終わったのを思考の中断タイミングであるとあきらめて、『魔王』は寝床を出た。

体は痛むが、やはり動けないほどではない。

寝間着を脱いで、またもうひとつ『魔王』は現実を実感した。

体のところどころに包帯が巻かれており、それと当て布の下にはひどい打ち身のあとがあった。

内出血と、それが青く変じかけている打撲傷。

ちょうど、あの体を固定するベルトが当たっていた位置だ。

落下しかけたときの衝撃が、体に痕として残ったもの。

ゆっくりと『魔王』は着替えを済ませた。

帰ってこれたならば、しなくてはならないことがたくさんある……。




 四辺境伯、そして内政の文官としての五貴族を集めると、『魔王』はあらためて話を切り出した。

ゆっくりと、彼らを見回しながら。


「転移する場所をマークできました。移動を、魔法で行うことができます」


 転移魔法は、一度望みの場所まで行かなくてはならないが、転移の魔法陣のように人数をしばられることなく一瞬で移動を完了することができる。

つまり移動に必要な日数、食料をはじめとした物資、そして船をはじめとした移動手段のほとんどが必要なくなるということでもある。


 そのことに、五貴族たちがまずほっとした顔を見せた。

千人万人の、いわゆる大戦力を動かすのとはくらべものにならないが、それでも三桁の兵力だ。

動くだけで資源が膨大に消費される。

貧しいこの国において、それがどれだけ痛手になるか。

それがなくなれば、余力が生まれるし、決行までにコストを蓄える期間も考えなくてよくなる……。

五貴族が胸をなでおろすのは当然といえた。

そしてそれは軍部を担当する四辺境伯も同じこと。

移動による兵たちへの負担はバカにならない。

それを考えずに済むなら、遠征そのものの難易度が下がる。

すなわち、勝利を得やすくなる……。


「現在の私の力では、まだ全員を一度に送り出すことはできませんが、何回かにわければ……」


 すっと、レオンシオが手を挙げる。


「まぁ待ってくれ。今すぐ出立……出陣するわけじゃないんだろ? とりあえず一度の遠征に必要なものが減った。ここまではそういう認識でいいんだな?」

「……はい」

「よし、理解した。じゃあ準備は今まで通りすすめるが、余裕ができたってことでいいんだな?」

「はい」

「了解。それじゃあ準備を進めておく」


 レオンシオのその発言が、まるで噛み砕くように中身を細かくしていく。

それが自分を落ち着かせるためであると、すぐに『魔王』にはわかった。

走るな、と。

できるようになることと、実行するのは違うと、機を見ろと後ろに引っ張ってくれている。

『魔王』は小さく息をついた。


「お願いします」


 レオンシオばかりではない。

よくよく視界を広げてみれば、案じ顔は他のものたちも同じだ。


「さて、その上でのことだ。……どこまでやる?」


 だが、そもそもこの国は戦争らしい戦争を百年近くしたことがない。

準備を進めてはいるが、それで正しいかなどはわからない。

そして何より、どこを着地点とするか……始めることはきっかけさえあればできても、終わらせることは難しい。

あのニンゲンの都市を落とすだけで終わらせれば、他の国が参戦してくることは充分考えられる。

国全体を落とすとなれば、さらに準備が必要となり、他国からの介入も激しくなるだろう。

この国がニンゲンたちから攻撃され続けてきたのは、この国のほかはニンゲンの国ばかりであるから……「そうしてもいい相手」と見なされてきたからだ。

それを完全に払拭するならば、戦争を続行しなくては……他国をも相手どらなくてはならない。

レオンシオの言葉はそこまで含めたものであった。

おそらく彼は、蟲たちに対処する日々の中でもずっと考え続けてきたのだろう。

どこまでやれば終われるのかを。

レオンシオが言うのは、終戦のための区切りだ。


 しんと、その場が静まる。

継戦には遠征とは比べ物にならないほどの、兵士たちの命をも含めたコストがかかる。

『魔王』は静かに呼吸をした。

覚悟を決めろとレオンシオはいっている。

同時にまた、現実を見ろとも。

この国に戦線を拡大し続けるような力は無い……。

読んでいただきありがとうございます。


この辺はウツギも気にしているところですが、今回は『魔王』にとっての兄貴分であるレオンシオに任せたかたちです。

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