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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
狸と狐編
110/147

相互理解

 ああなるほどと、『魔王』は得心した。

この女は理解したいのだと、彼の方こそが理解した。

この地、自分が呼ばれた国はどのようなものなのか、それを見極めようとしている。

ならば、きちんと伝えなくてはならない。

だがその前に。


「わかりました。でも最初に、伝えさせてください。コーコーセーのみなさんは、無事です」


 このことだけは伝えなくては。


「三十三人ともか?」

「え?」


 ひゅっと、『魔王』の顔から血の気が引いた。

あと三人、この国に残されている?


「待ってください、我が国に送られてきたコーコーセーは三十人です。三人、残されているということですか?」


 そういえばタヌキは全部で何人とはいっていなかったような気がする。

あるいは今いるコーコーセーたちの知らないコーコーセーがいた?

ということは、まだかの拷問にさらされているコーコーセーがいるということか?


「あの、こんなことをいうのは場違いかもしれませんが。残り三人のコーコーセーを、どうか助けてあげてほしいんです。彼らは、この国で酷い目にあわされていたんです。どこか隠されているのかも。あなたなら」

「……落ち着け。わかった」


 慌ててしまった『魔王』の早口を女がやんわりと止める。


「今は、お前の国の話を訊きたい」

「わ、わかりました。……この国は、九十五年前に私たちの国に攻め込みました。当時の国王、ならびに側近たち、そして城にいたものたちはほとんどが殺されました。それから、今まで、ある意味での狩場として支配され続けています」


 『魔王』は少しでもわかりやすく、しかし正確に伝わるように言葉を選んで最初から説明した。

九十五年の、間接的な支配。生贄としての魔王という存在。

『封印行』という行事として十年に一度魔王を殺し、封印といいかえること。

そしてその様子をどうやら娯楽として消費しているという、近年知り得たこと。

父は兵士として、叔父は魔王として死んだこと……その娯楽のために。

その『封印行』のもろもろの事々は女神の名において結ばれたもので、本来は十年に一度となっていたものが、なぜか今回五年になっていたこと。


 上手く説明ができたかはわからないくらい、『魔王』は緊張し、夢中で話したが、女は一言も口をはさむことはなく、ただ『魔王』が話をするのを聞いていた。

必死で語り終えた『魔王』は、気が付くとずいぶんと呼吸が早くなっていた。

おそらくは無自覚の内に、かなり早口になっていたのだろう。

その呼吸を落ち着かせるために『魔王』は意識して深呼吸をしなくてはならなかった。


「この国が、そちらに攻め込んだ理由は?」


 落ち着くのを待っていたように、女が問いかけた。

その質問に対して、『魔王』は迷った。

そんなものは知らない。この国が勝手に攻めてきた。

これも正しい答えではあるだろう。


「……私たちが、国という形になりかけたからだと、思います」


 だからこそ推論ではあったが、自分の考えを答えた。

叔父の庇護のもと、魔王城の図書館でひたすら研鑽を積む中で思ったことを。


「もともと、私たちの国は国としてのきちんとした形をもっていませんでした。種族ごと、あるていどの集団ごとで生きていたそうです」


 そのくらいの『群れ』であれば、政治は原始的や初歩的なもので十分。

群れが大きくなればそれが集まって複雑化していくため、国としての形をとらなくてはならない。

初代魔王が諸国から狙われ出したのは、まさにその過程にとりかかっていたところだった。

その、はずだ。

少なくとも『魔王』の記憶によれば。


 現在の中央十貴族、四辺境伯はそれぞれの『群れ』の首長だった。

彼らがそれぞれを従え、魔王が彼らをまとめた。

初代魔王は実力もさることながら、そのことで相当のカリスマであったことが限られた資料でもうかがえる。

国の形がややまとまった、そのあたりからニンゲンの攻勢が強まった記述がある。


 ニンゲンにとってはそれまでは沿岸部で何人か狩っては「魔物を討ち取った」と手柄にしていたものが、組織立った反抗を受けるようになった。

今までのように漫然と『魔王』の国のものたちを獲物とできなくなったニンゲンたちは、少数精鋭を仕立てて送り込むようになった。

いわば暗殺者。

初代魔王の存在が、具体的な標的となったのだ。

「あの男さえ倒せば」と。

いくつもの集団の中に、おとぎばなしの『勇者』と『聖女』がいて、ついには初代魔王は倒され……そこを突破口として、中央部まで制圧された。

侵攻の理由という問いかけからは離れてしまったが、つい『魔王』はそこまで話してしまった。

それなのに、女は止めることはなかった。


「十年に一度、魔王たちを殺しに来るといったな。反抗はできないのか?」


 それどころか、さらに問いを重ねる。


「『勇者』を返り討ちにすれば生き延びることはできます。ですが、お話した契約によって、こちら側の戦力はその時点でかなり低下させられていたのです」


 実際初代から何代かは徹底抗戦にでた。

生贄と目されるようになってからも、生き延びようと腕を磨くものたちはいた。

だが神の名のもとに結ばれた契約は、その力を使っての強制力のあるもの。


「ほう」


 そのことに、女が小さな声を上げる。

どのような意味であろうかと『魔王』は息を継いで、女の次の反応を待った。


「それはかなり大掛かりな契約なのか?」

「城一つ分、百人以上の兵士や側近たちの力という力を抑え込むものでした。腕力も、技術も、魔法も。なかにはかなりの実力者もいたはずです」


 『魔王』はウツギの息子を思い出した。

ウツギが山ほどのアミュレットを持たせ、魔法を教え、しかし帰ることはできなかった息子。

また心配をかけてしまう……とぼんやりと『魔王』は思った。


「なるほど、よくわかった」


 その思考が、女の一言で止まる。

読んでいただきありがとうございます。


キツネはもちろんわざとです。

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