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タヌキ無双 生贄魔王と千変万化の獣  作者: みかか
狸と狐編
106/147

遠征準備(の、準備の準備の…)

「遠征……マジか」

「はい、今のところは準備の準備……そのまた用意から始めた所なんですが」


 寝室でいつもと同じように今日のできごとを話すなかで出した話題に、タヌキが目を丸くするのに『魔王』はほんの少しだけ得意な気持ちになった。

自分から言いだせただけではあるのだが。


「それで、必要な……タヌキ様?」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 その『魔王』の目の前でタヌキが頭を抱えている。

『魔王』は知る由もないのだが、前回タヌキが使った手段は「ジェット戦闘機での移動」、つまり速度はマッハに近い。

高速バスでもこの世界では驚異的な速度だ。

この国で用意できる移動手段では、いったいどれほど時間がかかることか。

それはもう計算しなくてもわかることだ。

この難問を解決できるのは件の魔法陣ではあるのだが、この城にあるものは制限人数十人。

それで向こうに待ち構えているだろう軍隊レベルのニンゲンたちと戦えるとはとてもとても。


 まさに、そここそが『魔王』側の遠征のネックになっている。

―――それを考えればまぁよくぞ初代勇者は魔王討伐を成し遂げたものかと思うし、後詰めの船団がどれほどあったかとも思うが―――。


「その意気やよし!” だけど移動日数はたぶんとんでもなくかかるし、移動コストだってやばいくらいかかるだろ」

「タヌキ様、あの魔法陣は転移魔法を固定、固着させたものとはご存知ですよね」

「お、おう」


 そこに、『魔王』はかぶせる。


「ナイセル家の資料に、この城の資料をあわせて、その固定を解くことができました。転移魔法が使えます」

「できるのか?」

「はい」


 ナイセル家の、もはや跡地となった屋敷から接収した資料には、魔法陣生成に関するものはあまり残されていなかった。

それは確認されている。

だがそれは魔法陣を描くための直接の知識を得られるような資料。

それ以外の、残されたものを精査したところ、魔法自体に関するものがかなりあり……その中には本来魔王の城にあるべきだろうと思われるものまであったのだという。

おそらくそれを質草にすれば、ニンゲンの世界に逃れる、まぎれるどころか、保護されそうなものまで。

それを置いていったのには、あれ以上のものを持っていけなかったという理由はあるだろうが、九十五年をかけて価値を見失っていったのかもしれない……。

だが、それは今は必要のない思考だ。


「てことは?」

「はい、転移魔法で大人数を送れます」

「大人数……具体的な数は出るか?」

「まだまだ現時点では数まではでません。ですが魔法陣よりもはるかに多くを。ですがひとつ、人数以外の問題があります」


 改めて、『魔王』の部屋の小さなテーブルで向き合って真剣に話をする。


「一度その場所にいかないといけないんです」

「んー……まぁそりゃそうか。適当にぶっとんでって、石の中にいるってのは洒落になんねぇし」

「ですから、私とタヌキ様で行くのはどうかと思って」


 要は斥候を電撃作戦で行うということ。

大人数を問題なく展開できる、できるだけひらけた場所。

しかも同じくできるだけ人目につかず、人通りのない場所。

矛盾している条件を備えたそんな場所を、この国にいながら探すことは不可能。

それに加えて転移魔法の「一度その場所に行ったことがある」という発動条件を考えるなら、たしかにいかなくてはならないだろう。

タヌキが考え込む。


「うーん……ジェット戦闘機だと慣れてねぇとやばいよな。ドラゴンだと遅いし外に出てるし」


 口に出しながら算段を立てているらしい。

むーむーとうなりながら左右にゆれている。

『魔王』はそれをじっと見守っていた。

タヌキが自分によいようにしてくれるということを、『魔王』は知っている。


「うーん……巡航速度を抑えれば体の負担もおさえられるか? 小型機で……」


 考えることしばし。


「わかった。でも行くときは一人きりだから、ウツギやアーリーンにちゃんと許可とってくれ。何日か出かけるんだから、その間仕切ってもらわなきゃいけねぇし、遅くなった時の万一の用心だっている」


 基本的にタヌキは『魔王』のすることに反対はしない。

だからこんなときには、どうすれば可能になるかという方向で考えてくれる。


「でも、ほんとにちょっと地面触って帰るだけだからな」


 念には念をとばかりにいうのは、『魔王』がニンゲンの街に行きたいなどといいださないようにだろう。

それくらいは『魔王』にもわかる。

それがどんなに危険なことなのかもだ。


「わかっています。それでは明日にでも二人に話しますね」


 ウツギもアーリーンも、それが必要といわれたら赦すだろう。

だが許可の有る無しで大違いだ。

その後、タヌキは『魔王』がベッドに横になってからもなにやら計算を続けているようだった。




 翌日、『魔王』が起きた時にはもうタヌキは寝台を抜け出していた。

仕事中も見かけることはなく、ようやく見つけたのは昼の食堂。


「タヌキ様」

「よっす、昨日いってたことだけどな、なんとかよさげなのがあった。行けるぞ」


 タヌキの話によれば、あまり早いものだと中で目を回してしまうから、早すぎるのはよくないとのこと。

やはり『魔王』にはよくわからなかったが、特別な手段には制約が伴うということでろうと理解した。


「私の方も、アーリーン媼とウツギに許しを貰えました」


 件の申し出をアーリーンはともかくウツギは少し難色を示したが、遠征に必要と言われれば少し考えてうなずいてくれた。

ただし、必ず『逃げ』の一手でいることを約束した上でのこと。

『魔王』の弱さは前回の一件で、ウツギのトラウマにも近い認識になってしまっているのは仕方ないことだった。


「よし、じゃあ準備しねぇとな!」

読んでいただきありがとうございます。

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