番外編 愛されたい元令嬢は恋を知る 2
ジルクモンドは合同訓練のあの日、黒の騎士
シャーロットの兄であるランスタ―伯爵子息に声をかけた
「お手合わせしていただけませんか?」
「なぜ?」
「ランスター家のご嫡男、
もし俺が勝ったらひとつ聞いてほしい願い事があります」
「ふ、馬鹿な事を・・俺が負けるわけないだろう」
構えの姿勢をとるシャーロット兄
それを見てニヤッとするジルクモンド
「それは、相手をしていただけるっていうことで、
間違いないでしょうか?」
ジルクモンドも構えて
先に踏み込んだ
かーんと訓練用の剣が混じりあう音が鳴る
”重い・・でも返せないほどではない”
ジルクモンドは攻撃をうまくかわす
「ふん、大したことないではないか」
”こういうプライドと自身の塊のやつほど、やりやすい”
余裕を浮かべる兄が力いっぱい踏み込み
こちらへとに向かってくる
構えの型を変えたジルクモンドが
その力の反動を利用し体制を変え、剣を交えると
そのまま、シャーロット兄の脇腹へと入った
「うっ…」
崩れるように片膝をつくシャーロット兄
「痛いでしょう?あなたの力そのまま利用しましたからね」
穏やかな笑みを浮かべて兄に近づくジルクモンド
「お前も怪我してるじゃないか!」
確かにジルの腕から血が流れているのは事情だが
シャーロット兄の負けは、片膝をついた時点で決まっていた
ジルは優しい口調で言う
「約束ですよ・・・」
「なんだ?願いごととは?」
以外なあまりにも素直なその様子に
呆気にとられクスっと笑いがもれた
「妹君に優しい言葉をかけてほしい」
「…はぁ?友人か?それともお前、惚れてんのか?あいつに
残念だったな、もう次の婚約者は決まっていて
近々、領地に送ることになっている」
「へー」
ジルクモンドはじっと兄をみつめる
腹を抑えているが、なかなか立ち上がれないようだ
「では…その領地へ行く前に妹君に婚約のことを伝えて欲しい」
「はぁ?」
「いやぁ…黒の騎士って強い人の集まりって思ってたけど
大したことなかったなぁ〜」
「は…?」
「約束ですからね、騎士に二言はないでしょう?」
ジルはニコリと微笑む
「お願いしますよ・・?俺、口軽いですからね?」
ふんと鼻をならすシャーロット兄
「わかった・・男に二言はない」
手を出し、立ち上がりを補助しようとするもその手を断り
兄は立ち上がり去っていった
腕の血が流れている
腕を押さえて家へと帰るジルクモンドは
兄からの問いを思い返していた
「惚れているのか?」
「No」
「友人か?」
「No」
一体俺は何をしたいんだ?
こんなことして何の意味がある?
シャーロットはこんなことを望んでない
あの緑の勝気な目でこういうだろう
「余計な事しないでくださる?」
その姿が頭によぎり、ジルクモンドは笑う
完全に俺の自己満足だ・・
完璧な淑女であり
恋多き女と呼ばれる妖艶な令嬢
実の中身は、優しい心に隠している孤独感
自分のものにしたいわけではない
ただ少し、幸せであってほしい
そんなことをジルクモンドはぐるぐると考えていた




