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合同訓練
その名の通り、王都騎士、近衛騎士、時々軍の騎士を交えての
3か月に1回開かれる騎士たちの訓練の場だ
その日はよく晴れていて、澄み切った空と雲が風に流されて
心地よい気候もあり、早めに甲冑姿の騎士たちが次々と広場へと集まって来る
エマは頭のかぶりものを脇にかかえて広場へと来ていた
観客スぺースをキョロキョロと見渡す
テオバルトの姿がないか確認しに来たのだ
エマへと黄色い歓声が上がる
その方向を見て手を振るエマ
テオバルトの姿はまだなかった
「準備は出来た?」
同じ甲冑姿のジルクモンドがエマへと声をかける
「うん、もうばっちり」
「では、お互い頑張ろう」
ジルクモンドはグーの拳をエマに突きつける
エマはにこっと笑いながらジルクモンドの拳にタッチする
エマは頭を被り、ジルクモンドとともに訓練へと出た
甲冑が動くカチャカチャ音
剣が交じり合う高めの金属音
応援スペースからの歓声
「なんかエマ様、今日は気合入ってない?」
「いつにもましてかっこいいよね」
「確かに」
「知ってた?最近エマ様、左手の薬指に指輪してるらしいよ」
「えー??噓でしょう恋人出来たってこと?」
「誰だろうね・・相手って」
そんなエマファンの声が聞こえるすぐ側でテオバルトは静かに訓練を見学していた
「あの、なぜ自分もここにいるんでしょう?」
「何か問題ありますか?」
「いや・・ないですけど・・」
テオバルトに連れられてリントも見学に来ていた
彼女らの恋人話を聞いて少し顔がほころぶテオバルトだった
「すごいっ。身体能力どうなっているんでしょう?」
「かっこいいですよね・・」
エマファンに混じってすっかり魅せられたテオバルトとリントは
そんな言葉をつぶやいていたため、エマファンから声をかけられる
「あなた達もエマ様のファンなの?」
王宮侍女の制服を着た女性がリントに声をかける
テオバルトがその女性のほうへと振り返ると
連れの同じ制服を着た女性が目を丸くして
ひゅっと空気を吸った
そして、顔をそらす
テオバルトはその様子を不思議に思ったが追及することはしなかった
訓練が終わり
甲冑を脱いだエマがこちらに向かって手を振っている
テオバルトは小さく手を振り返していた
先ほどの驚いた顔をした王宮侍女が少し段になっている
階段を踏み外し
「きゃっ」
と小さな悲鳴を上げて、訓練場へと出てしまった
訓練場への立ち入りは危険なため、きつく禁じられている
それが事故であっても、規則に反したら
罰が下りても文句は言えないのだ
訓練場へと流れ出た女性のもとに他の騎士が向かおうとする様子を
遠くから見えていたエマはさっとその侍女のもとへ来て
スマートに手を差し伸べる
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「は、はい。すみません。大丈夫・・」
彼女はそう言い終わらないうちに
エマはその侍女を横抱きにしていた
「怪我人確保しました!医務室へ運びます」
他の騎士へとそう伝えるとエマは侍女を抱いたまま
近くに設置された医務室へと向かっていった
「何あれ・・」
「すごいかっこいい」
「羨ましすぎる・・・」
「あれこそ騎士って感じよね・・」
その一連を見ていたギャラリーたちは
エマのかっこよさにため息をついていた
「クロスフォードのご令嬢・・ほんとにかっこいいですね」
リントはテオバルトを見てそういうとテオバルトは
無表情で何も答えなかった
「テオバルトさん?」
「私に何を見せたかったんでしょうか?」
「え?」
「その女性との仲?」
「は?まさか!!」
「もう私に興味ないとか?」
「いやいやいや・・何をどうしたらそうなるんですか?」
「男らしさとはこういうことだとか客観的に伝えたいとか?」
「いや・・違うと思いますけど・・」
テオバルトは無表情で何かを考えているようだが
リントの言葉は入らないし
そのななめ上を行く発想にリントは呆れていた
「何この人・・ほんと仕事以外で分かりある気がしない・・・」
リントはため息をついていた




