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屋敷内にいつもと違う空気が流れる
外はカラッと晴れており、草木も美しく彩りよく咲きはじめていた
初夏が近づいてきたような爽やかな気持ちの良い風が吹く
しかし、クロスフォード家はピンと張り詰めた緊張状態であった
「リリー、私を残して逝かないでくれ…頼む」
父が母の寝ているベットに縋り付いて離れない
「は、早く行け…」
おそらくそう言っているのだろう
声の出ないカスカスの音をパクパクしながら父によって握られた手を伸ばす
「おーお!!リリー!!!!私も愛している!!」
早くここから連れ出して仕事に行かせろと母がエマに目で訴える
「お父様、さぁ行きましょう。ここにお父様がずっといたらお母様は休めません」
「うわぁーん、リリーの側を離れるなんで私には出来ん!この状態で置いて仕事など出来るものか」
「お父様、先ほどから部下の方々が迎えに来られてます」
屋敷のみなが困った顔をしている
母はただの風邪だ、絶対に死ぬ状況ではない
この屋敷にこのまま騒いでいる父がいるほうがみんなにとって迷惑でしかない
「お父様いい加減にして下さい、お母様は大丈夫です
そこに医師がいるでしょう。薬も処方してもらったし」
「愛するものが弱っているときに仕事なんかしていられるか
私は国よりも何よりもリリーが大事だ!」
何を言ってもどうしても離れる今日なんてないのだろう
「ふー、あきらめましょう。みなさん
それでは今日1日、お父様に家でやれる仕事はやってもらいましょう」
パンパンとエマが手を叩き
次つぎと屋敷内に指示をだす
「多分、父はこのままここを動くことはないでしょう、
ですが午後くらいにはお母様もよくなるはずだから
それまで手筈を整えましょう」
「はい」
「さすがエマ様だ、頭の回転のよさは旦那様に
いざというときの行動力は奥様に似てる、あの聡明さはどんな令嬢に引けをとらない」
使用人たちからエマに対する絶賛の声が飛び交う中
エマは自身の仕事の予定も調整し、父の必要な書類をとりにいくことにした
「お待ち下さい、お嬢様!」
「何?フィン?」
「その格好で城へ行ったらまずいのでは?」
「あ、そうか。護衛騎士でもなんでもないのに
宰相室までいけるわけないか、城の女官の服か執事の服ある?」
「お嬢様!私にとっておきの服がございます」
ギラギラと目が輝いているフィンにあれよこれよと
いじられた結果、有無を言わさず
屋敷のみんなに馬車に詰め込まれた
クロスフォード家の紋付馬車
黒くてピカピカに磨かれたそれに乗せられたエマは
大きなため息をついた
大きめに作られた窓のカーテンは閉めきられ
城までの道はそう遠くない、なだらかな道だ
いつもはしない令嬢化粧を施し
日焼けしてる顔を隠すように白めに塗ったおしろい
ふわりとした淡いオレンジ色のドレスに合わせた帽子
レースの手袋に筋肉のいかにも健康的な体のラインは
全て隠れるような計算されたローブ
馬車に詰め込まれる少し前・・
「お嬢様、ここは幻の伯爵令嬢で行くべきです」
「はい?」
「旦那様の書類は国家機密も含まれるものです、それをただの遣いの者に重要書類を渡しますか?」
「いや、そんな大事なやつはそもそも持ち出し禁止でしょう?」
「旦那様の娘ならば、不審がられることもなくスムーズに事が運ぶのでは?」
「そうかな?」
「奥様も屋敷の者もお城のみなさまだってお困りです。お嬢さまだけが頼りなんです!」
「まあそうかな・・・?」
「お願いします!お嬢さま!!我々を助けてくださいませ!!」
「う、うん・・…」
そうあそこで押し切られた結果、こうして幻の令嬢
アマーリア・クロスフォードの姿をすることになってしまったのだ