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幻の伯爵令嬢は初恋の君に恋をする  作者: 間宮沙紀
キリアン出張編
37/71

34

「もう最悪だよ、こういうのを夕立っていうんだっけ?」

「普通に一緒に入ろうとしているが、私は一緒には入りませんけどね」


湯屋にたどり着いて、服を脱ぎだすジルクモンドと

まだびしょ濡れの服を着たままのテオバルト


「なんで?早く脱いで湯に入らないと風邪ひくよ?」


普通貴族は大衆浴場なんかで入ることはない

誰かと一緒に入るなんてテオバルトの常識にはない

ジルクモンドはなぜこんなにも庶民的なのか

伯爵邸で育ったならば、そのへんの配慮もできるはずだが

などととテオバルトが考えていると

ジルクモンドが声をかけてくる


「恥ずかしがらなくてもいいですよ~俺ら以外誰もいないようだし。男同士だし問題ないでしょ?」

「まぁそうですが・・」

「それに俺から離れて大丈夫なの?寒いし、それに誰か追ってくるんじゃないかと

心配するくらいなら・・早く一緒に入っちゃったほうがいいと思うけど」

「そうですね・・・」


確かにジルクモンドのいう通りだった

なぜか町で指名手配犯のようなことになっている現状で

こうして裸で大衆浴場に入るっていうのも危険な気がするが・・

などとテオバルトが悩んでいると

もうジルクモンドの姿はなく湯に向かっていた


「あーあったかい!気持ちいい!!誰もいませんよ!ほら早くテオバルト様」


ジルクモンドに急かされ結局テオバルトも服を脱いで浴槽へと向かった


ごつごつとした大きな岩に、広く大きな湯船

湯気が立ち上り、白く濁ったとろりとした湯にテオバルトは体を沈めた

ジルクモンドは奥のほうに浸かっている


「あー先客さんがいたんですね。気持ちいい、いい湯ですね」


ジルクモンドが岩の陰の人物に話しかける

誰にもでも話しかけられるその社交性の高さは見事な才能であるとテオバルトは思う

こんなに広いなら別に一緒に入っているという感覚ではないが

誰かいるならまた話は別だとジルクモンドの声の方に耳を傾け、緊張感を持つ


「は??エマ??」


ばしゃんと水の音が跳ねる


「なんでお前ここにいんの??」

「ジル・・・」


その声はまさしくエマの声だった


「ジル・・あのさ、全部見えてる」


湯から立ち上がったことで、ジルクモンドの体はエマからすべて丸見え状態だった


「お、おう・・」


少しエマから距離をとったところで背を向け、ジルクモンドが湯につかりなおす


「雨すごかったでしょ?びしょ濡れで寒かったからここに来たんだけど」

「え?男女って普通、別じゃないの?」

「あなたは字が読めないんですか・・?入り口に男湯ってありましたけど」


脱衣所側で一人湯に入っているテオバルトが呆れた声でエマにたずねる


「え???テオバルト様もいるの??」


ばっと体を隠すエマ

もちろんテオバルトの姿はエマから見えないし、テオバルトからエマも見えない


「女湯の入口から入ったよ!もちろん!」

「俺らも脱衣所に荷物はなかった、つまり脱衣所は別だけど浴槽はつながっているっていうこと?」


浴槽はとても広い、何十人も入れるその大きさは中でつながっている説も十分に考えられる


「・・・・」


3人は無言になる


「私、もう上がるわ」


エマはジルクモンドたちがいる反対側から出ようと歩いていく

さばさばとした水音をたてている


「ぎゃ~~~~!!!」


突然、エマの悲鳴が聞こえた


「どうしたー??」


ジルクモンドがその場を動かずに声をかける


「へ、へびがいる~助けてぇ~ジル」


エマは蛇が苦手だった、触るのはもちろん、見るのでさえダメだ

エマはジルの元へ戻ってきた


「助けてって俺がそっちに行って誰かきたらまずいだろ」

「今は誰もいないもん。どうすればいいの?いやっ無理!無理!」

「避けていけば問題ない」

「それができたら、そうしてるよ!うわぁ~無理!!こっち向いてるもん」

「しょうがないから、こっちから回っていったら?」

「テオバルト様の前を通れってこと?」

「そうするしかない、テオバルト様には目をつむってもらって」

「テオバルト様、すみません、緊急事態です!通ってもいいでしょうか?」

「え?」

「すみません、少し後ろ向いていてもらえますか?」

「は、はい」


ざばざばと水が動く音がする


「すみません!ありがとうございましたー!!」


エマが元気よく返事をする声が脱衣所方向から聞こえる


「なんなんですか、あなたたちは本当に・・」


未婚の男女が同じ浴槽に入る、しかも裸で

見ていないにしろ貴族社会的常識はアウトだ

パニックになっているとはいえ、男湯方向へと行くだろうか・・

ジルクモンドの思考もどうかしている、自分が女湯に行くのはアウトで

エマが男湯に来るのがよしとする意味が分からない

テオバルトは恥ずかしさとその常識外れな行動で、更にどっと疲れが増した


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