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エマが警備隊たちと訓練をしている同じ時間帯
テオバルトとジルクモンドは町をぶらぶらとあるいていた
ローデルからお使いも頼まれていたが、買い物は終えており
紙袋をジルクモンドが抱えていた
中には果物や野菜、日用品などが詰め込まれている
テオバルトは髪をまとめ、帽子の中にすべて入れ込んでいた
目立つその容姿は、髪を隠すこととキリアンの服を着ていることで少しは町に溶け込んでいた
すらりと背の高い平民の青年に見える
「君の目的はなんですか?」
テオバルトはジルクモンドに突然話を切りだす
「え?なんのことですか?」
「祭りに参加する目的はなんですか?何かあるんでしょう?」
「怖いねーさすが宰相補佐、人のことをよく見てるし疑い深い」
「あなたは楽しんでいるだけじゃない、優勝を目指すその理由は何ですか?」
「喧嘩を売られたから」
「は?そんな理由ですか?」
「売られた喧嘩は買うのが男でしょ?」
樽酒をエマが飲み干したその日、ジルクモンドは領主派の人たちに絡まれていた
エマが酒の勝負で勝ったのは認める、でも連れのあんたは何もしていない
といわれてカチンときたジルクモンドは、じゃあ一番恐れているその祭りで優勝してやると
宣言したんだという。テオバルトが考えていた理由よりも馬鹿げていたその話の真相をきいて
テオバルトは呆れていた
でも、祭りはキリアンの人しか参加できないように制限がかかっていて
どうしようかと悩んでいるところでローデルに出会ったと
その奇跡の出逢いに感謝しているとジルクモンドは言う
「エマのことどう思っているんですか?」
横に並んで歩くジルクモンドは今度は、テオバルトに聞く
「素晴らしいお嬢さまだと思いますよ」
「いや、好きかどうか聞いてるんだけど」
「好きとはなんですか?」
「え?そこから?」
「きゅんとするとか、可愛いなとか。一緒にいたいなとか思わないかってこと」
「・・・」
「え?なんか思い当たることあった??」
ジルクモンドがテオバルトの方を向くと
テオバルトの横顔越しにテオバルトの顔がみえた
そんなことはあり得ない、一人は横顔、もう一人は正面を向いているなんて
「え???何これ??」
「何ですか??」
明らかに話の流れではないトーンで返事をしたジルクモンドのほうを
テオバルトが向くと、顔を指さされる
「それ・・」
指は顔をそれて後ろの壁に向かっている
そこには、何枚ものテオバルトの顔が貼ってあった
それはまるで、懸賞金がかかった犯罪者のようだった
「あははっ」
「笑いごとじゃありません」
ジルクモンドは荷物を抱えたまま大笑いしている
選挙ポスターのように同じ顔が何枚も貼られたその異様な光景にテオバルトは一度目を閉じたが
開いたときには同じ光景が広がっていて現実であることを受けいれざるを得ない
「あー!!あの兄ちゃん!絵と同じだ」
小さな男の子がテオバルトを見つけて声を出す
「何ー!!!」
それを聞いた大人たちがどこからは次々とわいて出てくる
「やべっ!テオバルト様走って!!」
ジルクモンドはテオバルトを先に行かせて、誤魔化すようにしたが限界だった
次から次へとテオバルトを見ようと人が出てくる
2人は全速力でその場から離れた
次第に雨が降り出す、ざーっと本降りになる頃に走った雨が自身にも飛び散り
ローデルの家に着いた時にはぐしょぐしょだった
「うわ、あんたたち。どうしたらそんな格好になるんだい、まずは家に入る前に湯にいってきな」
ローデルに着替え一式を渡されたため
テオバルトとジルクモンドは荷物を置いてすぐに湯に向かうことにした




