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領主の館ではたくさんの人間が働いている
大きなその館はもちろん領主も住んでいるし、住み込みメイド、執事などいる
どの人たちも忙しそうに動いている
領主の執務室の年季の入った濃い茶色の机に重厚感のある椅子
その場所に座ることのできるのはただ1人
領主ハリセント・イルムラだけ
その男はこそ椅子に座っていた
領主であることを意味するのだが・・
無精ひげが生えたまま、髪は伸びきってぼさぼさ
服は縦ストライプの水色のよれたパジャマの紺色のガウンを袖を通さずに肩にかけたまま
積み重なった紙の書類の山と分厚い本に埋もれるようにして顔を伏せている
「うわぁ~!!!終わった!!!」
「またここで本を読んで寝ましたね・・ハリセント様」
「ちょっと、これを見てくれ」
「手紙ですか?」
しわ一つないワイシャツに
黒のリボンタイとつけ、黒のベストを着用し体にぴったりと合った黒のジャケット
黒のスラックス姿でオールバックにしている髪は整料剤により艶がでている
初老のその執事コンラットはハリセントが持っていた手紙を受け取り封筒を裏返すと焼印が押してある
「この印は、クロスフォード宰相ではないですか」
ハリセントは机に顔をふせ、少しあげたかと思うと頬は完全に机についてつぶれている
「ふむ、お嬢さまと宰相補佐がキリアンに来ているからよろしくと書いてありますが・・」
「先輩にバレた・・」
「だから言ってるではないですか、怒られるのが嫌なら最初っからやらなければいいって」
「あー、アイリスはいないし。先輩は怖いし。どうすればいいんだ」
「まずは着替えて身支度を整えてください、ハリセント様」
「娘には手をだすなって当たり前じゃん、私もそのくらいの分別はありますよ。新婚なんだから」
「その新婚なのに奥様が家出されたのは、あなたが女にだらしがないからでしょう?」
「言うね~」
「もしクロスフォードのお嬢さまが、お綺麗な方だったらどうします?」
「女性は例外なく、みんな綺麗でしょう」
「はぁ~」
「仕事したくない」
「ハリセント様の信者たちが日に日に増えてますが・・」
「そうなの?私人気者だね、でも領主はもう辞めたいんだよね〜」
「あぁ、うちの永遠の少年どうにかなんないですかね~
この際だからクロスフォード宰相に怒られればいいのに」
「はぁ・・アイリスまだ戻らないのー?」
だらだらとした格好で全くやる気のないハリセントに盛大なため息をつく
ハリセント付き執事のコンラットだった




