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馬車が家の専用口に着き、父にエスコートされるようにして降りて家の中へ入る
広い玄関を抜けた先にある温かみのある部屋に母がいた
「おかえりなさい、あなた」
質素なドレスに髪を緩くまとめた母が父を出迎える
「ただいま、愛する私のリリー」
父が母の頬に口づけをしてぎゅっと抱きしめる
娘がいようが、甥がいようがいつもこの2人は自分たちの空気を作るのだ
「おかえり、エマ、ジル」
ふわっと微笑んで迎え入れる母はまだまだ若い、まるで少女のよう
小柄な体でエマとジルに背伸びするようにして2人を抱きしめる
「あのバカ王太子、私のエマに色目を使って、夜会のパートナーなど100年早い!」
上着を脱いで母に渡し、襟元を緩め椅子に座る父
「殿下、ついにエマにアプローチし始めたんだけど玉砕したんだよね」
「あら、素敵じゃない、何その話?」
先ほどの王太子に呼び出されたことや騎士訓練で女性から黄色い歓声を浴びていたことをジルが
全て母に話す
「私が夜会でるわけないじゃない、私は貴族令嬢としては向いてないもの、出たとしたら王太子の婚約者とか言われて
騎士なんてやってる場合じゃなくなる。そんなの絶対イヤ」
ふ~と母がため息をついて、ジルと目を合わせる
ジルは何も言わずやれやれともうすぐ運ばれてくるであろう食事を待っていた
「まだエマに色恋は早いって・・本気で王太子の想いに気づいてないんだからさ、つーか、あいつが男に惚れることなんてあんのかな?」
「当たり前だ、エマは嫁になんてださん」
「あなた・・エマのこととなると見境つかなくなるのは分かるけど、王太子殿下に迷惑はかけてこなかったのよね?」
「あ、あぁ・・迷惑はかけてない」
「圧はかけてたけどね」
「あなた!」
「こら、ジル!」
父は母に弱い
我が家で一番強いのは間違いなく母だ
いつも通りにぎやかな食事を終え、自分の部屋へと向かい風呂に入り、寝る準備をする
「美味しかったよ、フィンの焼きタルト、やっぱり焼きたてで食べたかった」
「ありがとうございます、今度はベリーの時期にまた焼きますね」
小麦色の肩より少し長いくらいの髪を丁寧にすくようにとかしてくれる
侍女のフィンは、エマの小さな頃よりこの家に仕えている
カタンと引き出しから刺繍が見事なハンカチを取り出し、ぎゅっと握るエマに
ベッド横のテーブルにハーブティを入れてそっと置く
「洗濯しておきましたよ、お嬢さまの宝物」
「うん、ありがとう」
「何かあったんですか?」
「あの子は妖精だったのかな?」
「そのハンカチの君ですか?」
「そう、王太子殿下に聞いても知らないっていうの、あの日お茶会に来たんじゃないのかな?
いろんな女の人に聞いても珍しい髪色なのに手がかりもないなんて」
「お嬢さま、おいくつになられましたっけ?」
「なんで笑うの?フィン」
「いえ、お可愛いらしくて。世間ではかっこいいといわれているお嬢さまが妖精を探しているというのも・・」
クスクスとフィンは笑う
「ねぇ、ほんとなんだって。妖精だし天使だったの」
「おやすみなさいませ、お茶飲んでくださいね」
失礼しますとフィンは部屋をでる
お茶を飲んでベッドに横になり、あの時もらったままのハンカチの見事な刺繍をなぞってエマは眠りについた