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領主の館の前には、頭にハチマキを巻いた老若男女がいる
公園で叫んでいる集団を通りを挟んだ反対側からエマとテオバルトはその集会を見かけた
「我らはハリセント・イルムラを支持するー!!」
「ハリセント様こそーキリアンの最高責任者ー!!」
「ハリセント様の女好きー!!」
「いつも面白いー!!」
「愛してるぞー!!!」
「突拍子もない馬鹿なところが好きー!!」
「何ですかね?あれは・・」
エマはテオバルトを見る
異様なその人物たちは叫ぶ内容に拳を上げ、おーと賛同しあっている
テオバルトにどんと背中から背の低い老婆がぶつかってきた
老婆はテオバルトの顔を見た瞬間に固まる
「なるほどな・・これはいける」
ぐいっとテオバルトの腕を老婆とは思えない力で引っ張るとエマが割って入って止める
「何をしているのかな?2人で」
どこかからジルクモンドが現れ、腕を組んで仁王立ちをしている
「おとなしくしているように言ったのに・・まあ最初から無理だと思ったけど」
「ジルさん、この人で間違いないよね?」
ぐいぐいとテオバルトの腕を引っ張る老婆はジルクモンドのことを知っているようだった
ジルクモンドは老婆に向かってうなづく
「そうです、では行きましょうローデルさん」
「ちょっと、ジル!どういうこと?」
「とりあえずついてきなさい」
テオバルトの腕を離さず、老婆は速足で赤い屋根の石で造られた高台に立つ海が見える素敵な家へと向かう
家の中は2つの部屋だけの小さなつくりではあるが、風が抜けて涼しい
大きな窓からは見下ろすように海が見える。温かみのあるアンティーク調の家具とキリアン風の装飾がマッチしていて
とても落ち着く空間だった
「えーすごい海が見える」
窓から見える海はどこまでも広く遠くに見える
青い空と海がとても綺麗だった
「いいころだろう?はい、お嬢さん椅子をどうぞ」
「ありがとうございます」
「こちらの男前はちょっとこっちに来てくれ」
ローデルはテオバルトの腕をひっぱったまま隣の部屋へと連れていく
「え??なんですか?」
「これ?どうしろというのです?」
エマとジルは少し待てといわれたまま隣の部屋からはテオバルトの戸惑いの声と
いいから任せろという時々有無を言わせないローデルの声が聞こえてくる
「何してんのかな?これはどういうことなのジル?」
「まぁ、楽しみだな、絶対エマも喜ぶと思うぞ?」
「できたぞー!!」
ローデルがエマたちの前に姿を現したときより少し曲がった腰を伸ばし
額にかいた汗をぬぐい、可愛らしい満面の笑みで隣の部屋へこいと手招きしている
隣の部屋に入ると、女性用ドレスをまとったテオバルトが低めの椅子に座っている
顔は薄いレースのベールで隠し、長い首には襟とネックレスがあることでうまく男っぽさを隠してある
広めの肩は二の腕までの切り替えレースのあるデザインで全くわからない
ふわっとしたチュールが幾重にも重なったスカートが可憐さを際立たせる、テオバルトは全体的に筋力がなくて細い
それがうまく女性らしく見えるように工夫されており
まるで人形みたいな美しさだった
「うわっ・・・信じられない・・可愛いっっ!!」
エマはその姿を見て拝むように手を合わせた
ジルクモンドは拍手をしている
エマはキラキラした表情で片膝をついてテオバルトに手を差し出す
「私と結婚してください」
テオバルトはぺしっとその手をたたいて払いのける
その様子をジルクモンドとローデルは大爆笑をして見ていた




