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風が土を舞い上げる
からからに乾いた土地には草木もあまりみられない
日差しがじりじりとさすようになってきた
馬車内に3人は暑い、これからの行く場所は都よりも南の地だ
日が高くなるにつれてその暑さは増す
がらがらと平地を行く馬車の車輪の音が妙に響いていた
「マジできれいな顔してんのな、なんでこんなに暑いのに汗ひとつかかないの?」
「ジル、失礼なこと言わないでよ。テオバルト様の美しさ馬鹿にしないでくれる?
テオバルト様は妖精なんだから、これくらいで汗かくわけないじゃない」
「・・・」
テオバルトは一人、向かい合わせにエマとジルが座っている
意味わからない言い争いを始めたエマとジルと涼しい顔で黙ってみるテオバルト
「ジルクモンドといいましたか?君はクロスフォード家とどういう関係?」
「従兄弟です、俺はエマの母の兄の子、実家の諸事情からほぼ伯爵家で育ったから
エマとは兄弟みたいだし、伯爵夫妻は俺にとって親みたいな感じ。今回は誰の命でもなく
俺が俺のためにここにいるので気にしなくていいですよー
監視役とかじゃないんで」
ジルクモンドは空気を読む聡い男なんだろう
ゆるっとした砕けた雰囲気はまさにクロスフォード家の縁者って妙に納得のいく
そして、テオバルトの警戒心を的確につまんだ話し方をする
「あなた方は、今回の旅の目的を知ってますか?」
「南の都市、キリアンの様子がおかしいから視察に行くとだけ。国の行政だと知られるとまずいから
身分を隠してひっそりと行くと聞いてるけど。叔父上から」
だから、質素な馬車に3人乗って旅人風衣装を身につけているではないかとジルクモンドがいう
エマはじっとテオバルトの顔を魅入っていた
「何でしょうか?」
「幸せだなぁと思って・・・こうして近くで顔をみていられるなんて」
エマからテオバルトは視線を逸らす
「3か月前からキリアンからくる報告が合わない。何度問い合わせても担当者が不在と取次がない。色々ずさんで妙だから行政とばれないで何が起こっているか調べなくてはならないから
って・・聞いていますか?」
外を見ながら動物が横切ったとか、あれはなんだと好奇心が爆発しているエマを注意する
「あっ、ととっ」
ぐらっと揺れた馬車、はしゃいでいたエマはふらっと体制を崩して目の前のテオバルトの肩に触れた
テオバルトも体制を崩したエマに手を貸すと、座るのを助けるようにぐっと押した
「あぶないから、立ったりしないように」
「はい」
ニヤニヤして両手で頬を包むエマ
「あなたがたは、私の任務の邪魔はしないでください」
「もちろんです」
敬礼ポーズをとるエマ
ジルクモンドは腕組をしてうなづく
そんなこんなで、3人を乗せた馬車は今日の宿、中継の町に到着した
3人は町の一番賑やかな食堂兼酒場にいた
様つきの呼び方はやめよう、エマ、ジル、テオの平民男3人旅を装うという設定まで決めて
南都市キリアンの情報を収集するはずだったのに
数刻後
「なあ、邪魔しないでって言ってたけどさぁ~ 一番役に立たないのテオじゃない?」
「確かに・・でもそこも含めて可愛いよ、テオ」
フードを被ってピンクゴールドの髪を隠した、机にうなだれるテオバルトがいた




