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雲が厚くどんよりとした空
石造りの城壁を女官服を着た女たちがきゃぴきゃぴして
そこから見える訓練場を見下ろしている
「きゃあ~エマ様!!」
訓練を終えた後の簡易的な甲冑を脱ぎ、乱れた前髪をかきあげ汗をぬぐう姿に黄色い歓声が飛ぶ
「おー今日も大変な人気ですな、エマ様は」
隣に並ぶ、深い茶色の髪に細身のややタレ目の男が女たちに視線を送る
エマが黄色い歓声を上げる女官たちに向かって手を振ると更に歓声が上がった
「何?ジル?うらやましいからって隣でかっこつけないでくれる?うっとうしいよ
それかっこよくないし」
「3か月に1回の俺の見せ場を今日も奪っていく君が憎いね」
「別に私はいつも通りにしているだけだもん」
「はぁ~もてる奴はこれだから!」
3か月に1回の騎士の合同訓練は城の訓練場を使用することに加え、
新規騎士募集を兼ねているため
城下の民も見に来ることができるイベント化している
そんな理由もあり、たくさんの若者が貴族平民問わず集まる交流の場となっていた
その中でも女性人気が高いのが、女性騎士エマであり
男よりもカッコいいと女のファンが多かった
「今日も応援の数が多いな、エマ」
「これは、王太子殿下。恐れ多いこと、私など殿下の人気には及びません」
騎士としての礼のポーズをとり、王太子の登場にも動揺することなく対応する
「ふ、久々に見てもかっこいいなエマ、この後時間あるか?
ジルクモンドも一緒で構わないんだが」
「はい」「はっ」
2人は王太子が立ち去った後目を合わせる
「何した?ジル・・」
「は?俺じゃないだろ?エマが何かまたしでかしたから・・」
「あ~ぁ、今日はフィンの焼きタルトが待っていたのに。焼きたて食べれないか・・」
「だから俺じゃなくて、お前が何かしたんだろ?エマ!!俺も食べたいわ炊き立てタルト!」
訓練服から騎士服に着替え直し、王太子に呼ばれた城の部屋の重厚で立派な扉をノックする
「エマとジルクモンドです」
「入れ」
3人は掛けられるだろう長椅子に座っている
二人を招いた王太子は、入ってきた2人を向かいの椅子に座るように促す
「何ですか?控えの騎士もいない。側近のエドワード様しかいないこの状況とは?何の内緒話です?」
ニヤニヤ顔で王太子を見るエマに腕を引いてやめさせようとするジルクモンド
「おい、エマ。まじでやめろよ、その顔。素が出てる・・」
「まぁ・・エマの言う通り幼馴染の願いを聞いてもらいたいだけだよ」
「へぇ~、お願いとはなんです?わざわざあの場で声をかけてまですることなんですよね?」
「近日夜会があるだろ?それに出席してもらいたい、伯爵令嬢アマーリアとして」
「は?」
「え?」
3人は幼馴染だ
エマより5歳若い王太子は小さな頃より一緒に飛びまわっていたし
ジルクモンドはエマの1個上の従兄弟でほぼ一緒に育ってきた
「冗談言わないで、令嬢として夜会にでるなんて無理!」
「そこをなんとか!!」
椅子から立ち上がったエマに頼む!と食い下がる王太子
「今回は誰かパートナーを伴わないといけないんだ」
「だからといって私が出たら婚約者?とかあらぬ噂が出るでしょうが!そんなの無理!」
「あー今回は直球で相手してほしいという作戦ですね、エドワード様」
「ええ、アマーリア様は全く殿下の気持ちに気づかれないんだから、好きだとか結婚してくれまで
言わないと意味ないと思いますけどねー」
もうただの幼馴染の言い争いと化としたその場を
側近のエドワード様とジルクモンドが場を収めようとしたその時、扉が開いて入ってきた人物が一番厄介であった
「エマ~~~~~~~~」
「はっ、お父様!!」
「叔父上」
「これはクロスフォード伯爵様」
「うわっ、宰相」
エマに一直線に向かってきては押しつぶす勢いで抱きしめる
「私の可愛い娘~~~王太子になにかされてはないだろうね?」
「お父様、なんで?ここへ?」
「訓練場で声をかけられたって聞いたから」
「はぁ~~~」
娘を抱きかかえたまま、伯爵は冷たい視線で王太子を見る
「娘に何用ですか?殿下」
「いや、あの~その・・」
一国の宰相でしかない伯爵がその国の王太子を虫を見るような冷たい目で見るなんて
よっぽどのことがないと許されないことですよ、お父様と・・エマは心で呟く
「アマーリアに夜会の相手・を・・」
「却下です!!」
いやいやまだ言い終わってないのに、そんなはっきり断るのか
ありがとうございます。お父様。さすがです
エマは心の中で父に拍手を送る
「では、これにて失礼いたします、いくぞ、ジル」
エマを抱えたままジルを引きつれて
伯爵家の馬車に詰め込むようにして入れられ自宅へと戻った