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シャーロットは髪を結んであるリボンをほどき
エマの両手を頭の上に器用に拘束する
パサッと下された黒の長い髪にギラギラした薄い緑の瞳が
楽しそうにエマの瞳を捕らえる
「な、なにをなさるつもりです?シャーロット様」
「変装下手ねぇ…諜報員ではなさそう。
この前は近衛騎士、今日はメイド、あなた何者なの?」
サワサワとエマの身体を絶妙なタッチでシャーロットは触る
「な、何をするんですかぁー!!」
「身体検査よ、物騒なものは持ってないようね」
エマはくすぐったくてもがくも、シャーロットによって身動きを制限される。耳を触られて息を吹きかけられると
顔を真っ赤にして震える。反応が面白いくらい返ってくるため、楽しくなったシャーロットはさらに耳を触りキスをする
「や、やめてくださいっ」
「耳弱いんだ…可愛いっ!!」
シャーロットはエマが服の中にしまっていた
小さな石を手にとる。身分証だ
じっとそこに掘られた文字を見るシャーロット
「あっ、ちょっとそれは…」
「…嘘でしょう??あなた…幻の伯爵令嬢
アマーリア・クロスフォード??」
片目を右手で隠し
あははっと令嬢らしからぬ
大きな声をあげて笑いだすシャーロットくっついていた身体を少しだけエマから離した
「お嬢様ーーーー!!!!!!
えー!ちょっと!!どういう状況ですか??」
扉から入ってきて、シャーロットがメイドを襲っている
その現場を
褐色の肌にグレーの瞳のその執事らしき彼は慌て止めに入り
エマに謝罪をし、お尻をついて両腕を頭の上に拘束されているその格好から立たせてくれた
シャーロットはその執事に指示をだす
「リッツ!私の部屋にお茶とお菓子を用意して」
シャーロットの部屋で、お茶とお菓子を用意される
着席を促されたためテーブルを挟んでエマは対面に座る
「で?何用ですの?アマーリア様」
「申し訳ございません、知りたかったのです…
テオバルト様の婚約者がどのような方なのか」
「だからわざわざあなた自身が変装して潜入をしたと?
つまり、あなたは我が婚約者様がお好きということ?」
「はい」
嘘ではないのだろう、目と態度が正直すぎる
こうした席では本心を明かさずに取引をするのが
貴族の常識なのに、真っ直ぐ自分の気持ちを明かすエマに
シャーロットは驚く
「私があなたの正体を知って害を加えるとは思いませんの?
婚約者を横恋慕されたら、怒られて当然ですわよ?」
「それはそれでどうにかなるかなぁーと思って」
エマは困ったような顔で笑う
なんと楽観的で無鉄砲
子供のような高度な行動力に無垢でウブ
このような者が貴族に存在するとは…
つまらない貴族社会に逸材の発見だとシャーロットは心踊る
「簡単には渡しませんわ、テオバルト様に」
その言葉を聞いて、勘違いをしたエマは慌てる
にこりとした笑みでエマの様子を楽しむシャーロット
シャーロットはこの前のテオバルトの夜会での態度から察している
テオバルトもこの娘に興味を持っているということに
シャーロットはテオバルトを愛してはいない
この状況、面白い…ただその感情から簡単には渡したくなかった
「あなたが幻の伯爵令嬢と呼ばれるには理由がおありでしょう?身体つき、手の感じからして病弱な令嬢ではありませんもの、私はあなたのことを口外はしないと約束しましょう」
「え??」
「私はあなたの熱意に心打たれました、これからは正々堂々と戦いましょう」
シャーロットは握手を求める
よくわからないという顔でエマはその手を取り握手を交わす
そして、お茶やお菓子をすすめられるまま素直にエマは応じた
「シャーロット様はテオバルト様を愛していますか?」
「私が愛してるといったら貴女は諦めるのですか?それくらいの愛で私に勝てるとでも?」
「あの、子供の頃のテオバルト様ってどんなでしたか?」
「それはもう、とびきり可愛かったですわよ。そこに絵がありますが、ご覧になる?」
「えーーーーーー!!!!!!是非とも!!!!!」
「また来て下さいね?アマーリア様」
「はい」
エマの警戒心は全くなくなっていた
それどころかすっかりシャーロットに心を許していた
というか、シャーロットに手懐けられていたというほうが適切な表現だろう
エマが帰った後、シャーロットはソファーの肘掛けにもたれ体勢を崩す
長い髪がふんわりとカールし、杞憂な雰囲気が大変色っぽい
「随分面白いのを見つけたのね、テオバルト…ずるいわ。
私も見つけたい・・・私だけの運命の人」




