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城から自宅までの帰り道
テオバルトは馬車ではなく徒歩で帰ることも多い
「主、またあの令嬢いますよ。あそこに」
影と呼ばれるテオバルトの護衛は忍者のように身軽に木を伝って動いている。その姿は誰にも見えてない
その幻令嬢と呼ばれる女性は、ぱぁーっと嬉しそうな顔で
こちらを見て手を大きくぶんぶんと降っている
「手紙、見ていただけましたか?朝庭で見つけた可愛い花を添えたんです!ピンクがテオバルト様に似合うなって思って」
「貴方はなぜ、こんなことをするのですか?」
え?と一瞬眉を寄せる、思ったことはすぐに顔に出るタイプらしい
「なぜとは?テオバルト様を知りたいから?顔を見たいから?」
「貴方は、閣下の娘だ、手紙や待ち伏せなどしなくても他に方法はあるでしょう?」
「え?」
「それにこうした待ち伏せはやめたほうがいい
夜だし、1人でこうしているなんて危ないでしょう?
会える保証もないのに」
うっと小さな声が聞こえるか聞こえないくらいの
息を漏らし令嬢は下を向いたがすぐに顔を上げる
「私はテオバルト様が好きです」
「私の何が好きだというのですか?」
テオバルトはエマの手首を握り、顔を近づける
「か、顔がタイプです!!!」
間近にテオバルトの顔があるのに耐えきれないエマは
真っ赤な顔でどもりながら答え視線を逸らす
「私はこの顔がキライです」
「…」
「ご令嬢、私が貴方を好きになることはなりません」
「こうやって脅しているのかもしれませんが、私にはご褒美でしかありません!」
真っ赤な顔で
真っ直ぐな迷いのない、エマの茶色の瞳はテオバルトの紫の瞳をじっとみつめる
テオバルトはため息をつく
エマはテオバルトより握られた手首をするりと抜けると
片膝をつき、片手に優しく触れ、その指にキスをする
ちゅっという音に見上げるようにして目を合わせる
「おやすみなさい、テオバルト様・・また明日」
エマは、にこっと笑い手を振る
そのエマの流れるような一連の動作を呆気にとられ、テオバルトは固まっていた
「貴方は一体?なんなんですか??」
口には出さず、テオバルトは心で叫ぶ
無表情は崩れ、困ったような不審がるような表情に自然となっていた
「変な女ですね」
影は隠れながら、口出してそう呟いていたがテオバルトにしか
その声は聞こえないていない
「私には婚約者がいます」
テオバルトがエマから視線をはずす
「…愛しているのですか?その婚約者様を」
真面目な顔でエマはたずねる
「いや…それは…」
エマは、それを聞くと先程までの満面の笑みではない含みのある
笑顔で手を振る
テオバルトが屋敷に入るのを見届けてから
エマは、ばさっと騎士服の上着を翻し、1人夜の闇の中帰っていった




